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はじまりの村の門番ですが、来る勇者が配信者ばかりで毎日が放送事故です  作者: 伝福 翠人


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9/12

ワールドレイド(座標バグという名の聖剣)

 空が割れた。


 比喩ではない。


 頭上に広がっていた安っぽい青空のテクスチャが、メリメリと音を立てて剥がれ落ちたのだ。


 露出したのは、毒々しい紫色の空間。


 エラー領域ヴォイド。データが存在しない虚無の色だ。


「な、なんだアレ!?」


 広場にいた初心者たちが、口を開けて空を見上げている。


 紫色の亀裂から、巨大な足が降ってきた。


 山のような質量。


 全身が漆黒の装甲に覆われた巨人だ。


 ズゥゥゥゥゥン!!


 巨人が着地した瞬間、村全体が大きくバウンドした。


 地震ではない。


 あまりに巨大な質量データが狭いエリアに割り込んだせいで、物理エンジンが悲鳴を上げ、地面の座標計算が狂ったのだ。


 私の視界がガクガクとコマ送りになる。


 FPSフレームレートが一桁まで落ちている。


(……おい、運営)


 私はカクつく視界の中で、巨人の頭上に浮かぶネームプレートを睨んだ。


 『虚無の巨人(Void Giant) Lv.999』


 ラストダンジョンの最深部に鎮座しているはずの、サーバー最強のレイドボス。


 それがなぜ、こんな初期村にいる。


 座標指定ミスだ。


 新入りのGMが、イベントモンスターの出現位置コードをコピペし間違えたに違いない。


 ふざけるな。


「あ……あ……」


 私の近くにいた剣士の少年が、腰を抜かして震えている。


 無理もない。


 巨人が一歩動くだけで、周囲の家屋が衝撃波で吹き飛ぶ。


 レベル1の初期装備など、余波だけで即死だ。


 だが、問題はそこではない。


 ジジジ……。


 空間からノイズ音が聞こえる。


 処理落ちが限界を超えようとしている。


 この巨人は、このエリアに存在していいデータ容量メモリを超えている。


 あと数歩動けば、間違いなくサーバーが落ちる。


 緊急メンテ。ロールバック。


 私の今日の勤務記録が消える。


(消させてたまるか)


 私は思考を加速させた。


 戦う?


 無駄だ。私のレベルは50。彼我の戦力差は絶望的。蟻が象に挑むようなものだ。


 まともにやり合えば勝てない。


 だが、ここはゲームの世界だ。


 生物としての強さではなく、データとしての脆さを突けばいい。


 私は巨人を観察した。


 装甲に隙間はない。HPは数億。


 視線を下げる。


 足元。


 巨人の左足の小指。


 そのポリゴンの接合部が、わずかにズレて、向こう側の景色が透けて見えている。


(……見つけた)


 モデリングのミスだ。


 巨大すぎるボスキャラは、足元などの細かい部分の作り込みが甘くなる傾向がある。


 判定が閉じていない。


 あそこは、物理演算の計算式が成立していない「特異点」だ。


 あそこに異物を混入させれば、システムは矛盾パラドックスを起こす。


 ズシン、ズシン。


 巨人が足を上げ、こちらへ踏み下ろそうとしている。


 私は一歩踏み出し――腰を抜かしている少年の背中を蹴り飛ばした。


「うわっ!?」


 少年が前のめりに転がり、巨人の足の落下地点に滑り込む。


 私は滑るように距離を詰め、少年の腕を掴んで立たせた。


「剣を構えろ」


 耳元で囁く(定型文ボイスの音量を絞って)。


「え、え?」


「動くな」


 私は少年の腕を強引に持ち上げ、彼が握っている『ひのきの棒』ならぬ『初心者の木剣』の切っ先を、空に向けさせた。


 角度調整。


 X軸、プラス0.5度。Y軸、マイナス1.2度。


 狙うは、巨人の左足小指。ポリゴンの裂け目。


 巨人の足裏が迫る。


 空が暗くなるほどの絶望的な質量。


 少年が悲鳴を上げ、目を閉じる。


 私はその腕を、万力のように固定し続けた。


 そして。


 巨人の小指の先端が、木剣の切っ先に触れた。


 本来なら、木剣が折れて少年はミンチになる。


 だが、剣先は誰にも触れることなく――ポリゴンの隙間へと吸い込まれた。


 巨人の「内部」という、存在してはならない座標に、異物が侵入する。


 ピタリ。


 世界が静止した。


 巨人の動きが止まる。


『System Error: Invalid Coordinate Detected』


『Object ID: Void_Giant >> Force Delete』


 ブツン。


 音が消えた。


 断末魔も、爆発もなかった。


 巨人の巨体が、まるでテレビの電源を切ったように、唐突に消失した。


 後に残ったのは、青空を取り戻した空間と。


 ジャラジャラジャラジャラ!!


 空から雨のように降り注ぐ、大量のレアドロップアイテムだけ。


「……え?」


 少年が目を開ける。


 目の前には、伝説級の剣や鎧が山のように積み上がっていた。


 巨人はいない。


 彼の手には、折れてすらいない木の剣。


「ぼくが……倒した?」


 少年が震える声で呟く。


 私は、何食わぬ顔で一歩下がり、定位置に戻っていた。


 門番の仕事は、門を守ること。


 魔王討伐など、管轄外だ。


「すげええええええ!!」


「見たか!? あいつ、木の剣一本でレイドボスをワンパンしたぞ!」


「カウンターか!? 即死魔法か!?」


「英雄だ! 初期村の英雄が誕生したぞ!」


 物陰から見ていた他のプレイヤーたちが、ワッと駆け寄ってくる。


 少年は一瞬で騎馬戦のように担ぎ上げられ、胴上げが始まった。


 処理落ちが解消され、滑らかな60FPSが戻ってくる。


 私は小さく息を吐いた。


 これでいい。


 英雄の座など、彼らにくれてやる。


 私が欲しいのは、名声ではない。


 平穏無事な定時退社、ただそれだけなのだから。


 ***


【掲示板:『エターナル・スフィア』本スレ Part 9088】


15 名無しの冒険者


【伝説】初期村の勇者たち、レイドボスをワンパン撃破


16 名無しの冒険者


は? 虚無の巨人が初期村に出たのも意味不明だが、倒したってマジ?


17 名無しの冒険者


マジ。


初心者が木の剣を突き出したら、巨人が消滅した。


たぶん「弱点特効」のクリティカル判定が出たんだと思う。


18 名無しの冒険者


いやいや、レベル差999だぞ? ダメージ通るわけないだろ


19 名無しの冒険者


動画見たけど、門番が初心者の背中蹴って位置調整してね?


まるで「ここに置け」って言ってるみたいに


20 名無しの冒険者


門番「そこだ(座標バグ)」


勇者「はい(ズブー)」


巨人「エラー落ちしまーす」


21 名無しの冒険者


結論:この村のNPCと初心者が一番やばい。

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