トップランカーギルドの勧誘(足元を見よ)
眩しい。
視界がホワイトアウトしそうなほどの光量だ。
西門の前に、発光する集団が現れた。
七人のプレイヤー。
全員が、伝説級装備を身に纏っている。
鎧からは黄金のオーラが立ち昇り、剣は紫電を帯び、マントは無風状態でもバサバサと靡いている。
パーティクル(粒子エフェクト)の過剰摂取だ。
私の視界のフレームレートが、一気に六〇から三〇まで低下する。
(……勘弁してくれ)
私は眉間の皺を深める(フリをする)。
描画負荷が高い。
彼らが動くたびに、私の演算リソースがキラキラした光の計算に食われていく。
サーバー最強の攻略組ギルド『黄金の林檎』。
そのギルドマスター、『Hero_Arthur』が、恭しく私の前に歩み出た。
「お初にお目にかかる。噂の守護者殿」
アーサーは片膝をつき、騎士の礼をとった。
背後の取り巻きたちも、一斉に頭を下げる。
重厚なロールプレイだ。
だが、私には関係ない。
私のAIが認識したのは、彼らが通行証を持っていないという事実だけだ。
「貴殿の武勇、聞き及びました。単身でモンスターの群れを空へ還し、運営の介入さえも退けたとか……」
アーサーが熱っぽく語る。
どこで聞いた。掲示板か。
「是非、我がギルドの顧問として迎え入れたい。報酬は望むままに――」
「通行証を提示願いたい」
私は彼の言葉を遮り、定型文(A)を再生した。
アーサーが言葉を詰まらせる。
「……通行証? ああ、入村の許可ということか」
彼は懐から、輝く紋章を取り出した。
王家公認の証。
このゲームにおける最高権威のアイテムであり、あらゆる関所をフリーパスで通れる代物だ。
だが。
私のシステムがスキャンする。
『Item ID: 9999 (Royal Emblem)』
エラー。
私が求めているのは『Item ID: 0001 (Wooden Pass)』だ。
それ以外は、ただの光るゴミである。
「通行証を提示願いたい」
私は無表情のまま繰り返した。
ギルドメンバーたちがざわめく。
「馬鹿な……王家の証だぞ!?」
「最高権限アイテムが無効化された……?」
アーサーの顔色が変わり、震える手で紋章を見つめた。
「そうか……そういうことか。貴殿にとって、王の権威など無意味ということか」
違う。IDが違うだけだ。
「我々は驕っていたようだ。最強の称号や、王からの寵愛……そんな飾りなど、真の強者の前では紙屑に等しいと」
アーサーが勝手に戦慄し、深く頷いた。
「では、何を示せばいいのです? 貴殿に認められるには、我々は何をすべきなのか」
しつこい。
早く行ってくれ。あんたたちのパーティクルが目に痛いんだ。
私は苛立ちを覚えつつ、視線を落とした。
門の周辺には、昨日の騒動――GMが即死バグの検証に使った木の板や、初心者が捨てていったポーションの空き瓶――が散乱している。
汚い。
これでは景観ペナルティで私の評価が下がる。
私は無言で、足元のゴミを指差した。
「足元が汚れている。通行の邪魔だ」
その言葉を聞いた瞬間。
アーサーが、雷に打たれたように硬直した。
「あ……」
彼の目から、ツーと涙が零れ落ちる。
「マスター?」
「『足元を見よ』……!」
アーサーが震える声で叫んだ。
「我々は上ばかり見ていた。レベルを上げ、レア装備を集め、頂点を目指すことばかりに囚われていた。だが、貴殿は言っているのだ。足元――すなわち初心を忘れるなと!」
は?
「世界を救う英雄たる者が、足元の汚れ一つ拾えなくて何が英雄か! そういうことでしょう、師匠!」
誰が師匠だ。
だが、彼らの目には、もはや私は「深淵なる導き手」として映っているらしい。
「総員、戦闘態勢! 目標、眼前のゴミ!」
「「「イエッサー!!」」」
地獄の掃除が始まった。
魔法使いが杖を掲げる。
「ウィンド・ブラスト(風魔法)! 集塵モード、出力微調整!」
散らばっていた塵が、風の渦に巻かれて一箇所に集まる。
そこへ、盗賊職の男が残像を残して突っ込んだ。
「ソニック・ステップ(神速移動)!」
目にも止まらぬ速さで、集まったゴミを分別回収していく。
重戦士が巨大な盾を構え、転がってきた空き樽を華麗にキャッチする。
「シールド・バッシュ(盾攻撃)……いや、ソフト・タッチ!」
樽は音もなく地面に置かれた。
無駄に洗練された動き。
本来ならラスボス戦で使うべき必殺スキルが、空き缶拾いと掃き掃除のためだけに乱用されていく。
光るエフェクトが乱舞し、私の処理負荷はピークに達したが、文句は言えない。
数分後。
門の前は、鏡のようにピカピカに磨き上げられていた。
塵一つない。
ここまで完璧な清掃は、私の箒さばきでも難しい。
「終わりました……師匠」
アーサーが、清々しい顔で汗を拭った。
その表情は、レイドボスを倒した時よりも晴れやかだ。
「心の曇りも、晴れた気がします」
彼らは整列し、私に向かってビシッと敬礼した。
「我々は行きます。通行証(心の在り方)を見つける旅へ」
彼らは回れ右をし、光の粒子を撒き散らしながら去っていった。
村には入らないのか。
まあいい。
私は綺麗になった石畳を見下ろし、満足げに頷いた。
掃除の手間が省けた。
今日はいい日だ。
***
【掲示板:『エターナル・スフィア』本スレ Part 9052】
221 名無しの冒険者
【速報】最強ギルド黄金の林檎、初期村でボランティア活動を開始
222 名無しの冒険者
は? あいつら最前線攻略中じゃねーの?
223 名無しの冒険者
いや見たぞ。
門番の前で、アーサーが泣きながら空き缶拾ってた。
「これが……真の強さか……!」とか言ってた。
224 名無しの冒険者
何を見せられてるんだ俺たちは
225 名無しの冒険者
門番「ゴミ拾え(直球)」
ランカー「深い……(深読み)」
226 名無しの冒険者
これ隠しクエストのトリガーじゃね?
『門番の試練』クリアしたら、ユニークスキル貰える説あるぞ




