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はじまりの村の門番ですが、来る勇者が配信者ばかりで毎日が放送事故です  作者: 伝福 翠人


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3/5

門番と新人狩り(クリーニング)

 朝から、門の前が汚れている。


 赤い破片が散乱していた。


 ガラスの破片ではない。プレイヤーがHPヒットポイントを全損した際に飛び散る、死亡エフェクトの残骸だ。


 キラキラと赤い粒子を撒き散らすそれは、システム上は数分で消滅する仕様になっている。


 だが、今日は量が多すぎる。


 処理落ちの原因になりかねない。


「……やれやれ」


 私は竹箒を手に取り、石畳を掃き始めた。


 シュッ、シュッ。


 乾いた音が響く。赤いポリゴン片を掃き集める作業は、まるで落ち葉掃除のようだ。


 門の内側では、初期装備の駆け出し冒険者たちが震えている。


 彼らの視線の先、セーフティエリア(安全地帯)である門の境界線ギリギリに、その男は立っていた。


 プレイヤーネーム『Red_Skull』。


 名前の通り、真っ赤なドクロの仮面を被った魔法使いだ。


 全身を高レベル帯の課金装備で固め、手には禍々しい光を放つ杖。


 明らかにこの『はじまりの村』にいるべきレベルではない。


「オラオラ、出て来いよ雑魚ども! 経験値になれ!」


 男が叫び、杖を振るう。


 痺れを切らした初心者が一人、剣を抜いて飛び出した。


 その瞬間。


 ドォン!


 男の杖から爆炎が放たれ、初心者は一瞬で赤いポリゴンとなって弾け飛んだ。


 PKプレイヤーキラー


 他人を殺して快楽やアイテムを得る、ゲームの癌だ。


 だが、問題はそこではない。


 男の立ち位置だ。


 爆炎を放った直後、村の衛兵NPCが槍を構えて反応した。


『警告。殺人行為を確認――』


 衛兵が動き出す。


 すると男は、ヒョイと一歩だけ後ろに下がった。


 そこは、門の内側。システム上のセーフティエリアだ。


 ピタリ。


 衛兵の動きが止まる。


『…………』


 ターゲットを見失った衛兵は、武器を収めて定位置に戻っていく。


 セーフティエリア内では、あらゆる攻撃判定が無効化される。システムは「村の中にいるプレイヤーは攻撃者ではない」と誤認し、敵対モード(ヘイト)をリセットしてしまうのだ。


「ギャハハ! チョロすぎ! この仕様考えた運営バカだろ!」


 男はまた一歩外へ出て、魔法をチャージし始める。


 境界線反復横飛び。


 仕様のエクスプロイトを突いた、卑劣なハメ技だ。


 私は箒を持ったまま、男に近づいていく。


 男はチラリと私を見たが、すぐに興味を失ったようだ。


 NPCは攻撃されない限り、反撃しない。そう高を括っている。


 その通りだ。私は攻撃などしない。


 ただ、掃除をするだけだ。


「そこの冒険者の方」


 私は男の背後に立ち、事務的な声をかけた。


「そこは通行の邪魔だ。どいてくれないか」


「あぁ? うっせえなNPC風情が。テメェも燃やすぞ」


 男は振り返りもせず、杖に魔力を込める。


 初心者たちに向けて、最大級の爆裂魔法を放とうとしている。


 詠唱バーが満タンになる。


 魔法が発動する、コンマ一秒前。


 シュッ。


 私の箒が動いた。


 攻撃スキル(アタック)ではない。


 生活スキル(クリーン)のモーションを、フレーム単位で加速させただけの動作。


 竹箒の先端が、男の足首の当たり判定コリジョンを的確に捉える。


「うおっ!?」


 男の足が掬われる。


 魔法の発動モーションで重心が高くなっていた男は、為す術もなく空中に浮いた。


 私は箒を大きく払い切る。


「燃えるゴミは、あちらだ」


 物理演算が働く。


 回転しながら吹き飛んだ男の体は、美しい軌道を描き――門の内側、セーフティエリアの奥深くへと滑り込んだ。


 ズザザザッ!


 男が石畳の上を滑り、止まる。


「いってぇ……なにしやがんだ!」


 男が立ち上がろうとした、その時だ。


 村の空気が凍りついた。


『警告。武装状態でのエリア侵入を検知』


『該当プレイヤーを、即時排除対象として認定します』


 無機質なシステム音声が響き渡る。


 本来、セーフティエリア内では武器を抜くことすらできない。


 だが、男は『魔法発動中』という攻撃判定を持ったまま、私の箒によって無理やりエリア内に押し込まれた。


 システムから見れば、それは『村の中で攻撃魔法をぶっ放そうとしているテロリスト』以外の何者でもない。


「は? え、ちょ、ま……」


 男の顔が引きつる。


 空間が歪み、男の周囲に三体の黒い影が現れた。


 処刑用衛兵エリート・ガード


 バグ利用者やチーターを抹殺するために存在する、無敵のNPCだ。


 彼らは問答無用で剣を振り下ろした。


 ドォォォォン!!


 断末魔すら上げる暇はなかった。


 圧倒的なダメージ数値が表示され、男のHPバーが一瞬で消滅する。


 後に残ったのは、大量の赤いポリゴン片と、ドロップした高価な杖だけ。


「……ふぅ」


 私は額の汗を拭う(フリをする)。


 静まり返った門の前で、再び箒を動かし始めた。


 シュッ、シュッ。


 男だったモノを、淡々と掃き清めていく。


「やれやれ。またゴミが増えてしまった」


 怯えていた初心者たちが、ポカンと口を開けて私を見ている。


 私は彼らに向かって、いつもの営業スマイルを向けた。


「ようこそ、はじまりの村へ。足元にお気をつけて」


 ***


【掲示板:『エターナル・スフィア』本スレ Part 9025】


774 名無しの冒険者


【朗報】門番さん、イキりPKのRed_Skullをゴミとして処理完了


775 名無しの冒険者


ファッ!?


あの害悪PK死んだのか?


776 名無しの冒険者


現場にいたけどクッソワロタwww


門番が箒で足払って、セーフティエリア内で魔法暴発させた扱いになったっぽい


処刑用衛兵が湧いて一瞬で消し炭www


777 名無しの冒険者


システム熟知しすぎだろこの門番


778 名無しの冒険者


門番「掃除の邪魔です(物理)」


779 名無しの冒険者


Red_Skullの杖、ドロップアイテムとして落ちてたぞ


初心者が拾って神に感謝してた


マジで義賊かよ

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