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はじまりの村の門番ですが、来る勇者が配信者ばかりで毎日が放送事故です  作者: 伝福 翠人


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1/5

その男、全裸につき(高速バック走行)

 今日の空は、目が痛くなるほど青い。


 彩度設定を間違えたまま出荷されたような、安っぽい空だ。


 私は足元の石畳を、鉄のブーツのつま先でコン、と小突いた。石がわずかに浮き上がり、プルプルと震えてから元の位置に戻る。


 ――物理演算エンジンの機嫌が悪い。


 嫌な予感がする。こういう日は、大抵『アレ』が来るのだ。


「ふう……」


 溜息をつく。もちろん、システム上の吹き出しは表示させない。これはテクスチャの裏側で行う、私だけの生理現象だ。


 私はアルフレッド。この『はじまりの村』の西門を守って二十年になる、しがない門番(NPC)である。


 ズザザザザザザザッ!!


 地鳴りのごとき摩擦音が、街道の向こうから響いてきた。


 来た。


 私は表情筋を死守しつつ、視線だけを音源に向ける。


 土煙を上げながら、肌色の塊が迫ってくる。


 男だ。一糸纏わぬ全裸に、腰布一枚。右手には初期装備の『ひのきの棒』。


 だが、走り方が尋常ではない。


 男は直立不動のまま、背中を進行方向に向け、凄まじい速度でバック走してくる。


 地面を滑っているのではない。超高速でジャンプと着地を繰り返しているのだ。物理法則の隙間を突いた移動バグ、『慣性保存バック走』である。


(今月三人目か……)


 速度は時速六〇キロを超えているだろう。


 普通なら激突死するコースだが、彼らは止まらない。正規の入村手続き――私との会話イベント――すら、彼らにとっては時間のロス(タイムロス)でしかないからだ。


「……ッ!」


 男は私の目の前で直角に軌道を変えた。


 門をくぐるつもりはない。狙いは門柱と城壁のわずかな隙間――ポリゴンの継ぎ目だ。


 あそこへ高速で突っ込み、座標判定をバグらせて壁をすり抜けるつもりだ。RTAリアルタイムアタック走者の常套手段である。


 だが、させない。


 あの隙間の向こうは、データが存在しない虚無ヴォイドだ。もし彼が座標を見失って落下し続ければ、サーバー全体に負荷がかかる。最悪、緊急メンテだ。


 私の安眠(定時退社)を妨害する者は、勇者だろうが魔王だろうが許さない。


「ようこそ、冒険者の方!」


 私は営業用の笑顔スマイルを貼り付け、定型文を叫んだ。


 同時に、半歩だけ右へ踏み込む。


 男が壁の隙間に鼻先を突っ込み、半身がめり込んだ瞬間。


 そこには、物理的な『無敵判定』の切れ目が一フレームだけ存在する。


 ガシッ。


 私の右手が、男の首根っこを掴んでいた。


(なっ……!?)


 男の目が驚愕に見開かれる。プレイヤーの思考が手に取るようにわかる。ありえない、判定は発生していないはずだ、と。


 私は構わず、男の突進エネルギーを回転運動へと変換した。


 合気道ではない。物理エンジンの『衝突反発』を利用した、座標の強制書き換えだ。


「この村は初めてかね?」


 優しげな声色とは裏腹に、私は遠心力を最大まで乗せて、男を放り投げた。


 ヒュンッ、と風を切る音。


 男は美しい放物線を描き、門の上を飛び越え、村の中央広場へと吸い込まれていった。


 ズドォォン!


 広場の噴水あたりから、盛大な着水音が聞こえる。


 私は何事もなかったかのように定位置へ戻り、少しズレた肩パッドの位置を直した。


 よし。今日も村の平和は守られた。


 遠くから、男の興奮した叫び声が風に乗って聞こえてくる。


『おい見たか今の!? 壁抜け(クリップ)の失敗判定をキャンセルして、強制入村イベントに移行させられたぞ! これ新チャートじゃね!?』


 ……違う。ただの投げ技だ。


 私は愛用の槍(飾り)を持ち直し、虚空を見上げた。


 安っぽい青空の向こうで、誰かがSNSに書き込んでいる気配がした。


 ***


【掲示板:『エターナル・スフィア』本スレ Part 9021】


352 名無しの冒険者


おい、Speed_Kingの配信見たか?


初期村の門番に投げ飛ばされて、イベントスキップしてんぞwww


353 名無しの冒険者


352 見たwwwあそこの門番、あんな挙動したっけ?座標ズレ修正機能付きのAIとか、運営も変なところに凝りやがって


354 名無しの冒険者


いや、あの投げのフォーム美しすぎだろ


柔道の達人かよ


355 名無しの冒険者


門番「壁抜けは甘え」


356 名無しの冒険者


これを利用すれば、さらにタイム縮まるんじゃね?


誰か検証頼む



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