脱走
あたしの肉体は燃やされて灰になった。これでもう戻れる肉体はない。
おかしドールに寿命はなく永遠を生きなければならないかもしれない。超憂鬱だ。
あたしは氷の間に閉じ込められた。おかしドールの弱点は熱だ。
体が溶けてしまう。王となったムシバは冬の間だけ、あたしを自慢するために毎晩パーティを開きセレブや各国の要人を招いた。あたしを一目見ようと各国から大勢の人々が集まる。
残忍なムシバのことを快く思わない国は多いみたいだけど、敵対すれば大国を1人で滅ぼせるほどの大魔導士である。国益のために嫌でも友好関係を結ぶしかない様子だ。
独裁国家の王族などはムシバと気が合うのか偽りの笑顔でなく心の底から笑ってムシバと談笑している。支配欲が強く残忍な性質を帯びる独裁者は凶悪な魔導士と同類ということだ。
王となったムシバは王宮の外観を変えた。庭に巨大なうずまき模様のペロペロキャンディのオブジェや巨大なキャンディスティックのオブジェを刺した。巨大なストロベリーショートケーキ、巨大なたい焼き、カラフルシュガーをまぶした巨大なチョコレートドーナッツや巨大なホットケーキのオブジェも置いた。お城の屋根のとんがってる部分はソフトクリームの形状にしている。
国の名前も「おかしの国」に変えた。おかしな国の間違えではなかろうか。
とにかく全方位おかしづくしだ。ムシバは朝昼晩、おかしを食べておやつの時間もおかしを食べる筋金入りの超甘党である。おかしに囲まれて過ごしたいのだろう。ムシバの残忍さをおおいかくすように国のイメージは甘いメルヘンランドになり、事情を知らない海外の子供たちは夢の国だと思っているらしい。
ムシバは暇さえあればあたしの体をよく舐める。指をナイフで切って指先からチョコを吸い出す。キスをしかけてきた時はチューインガムでできた舌をふくらませてガードしたらパチンと弾けてムシバの顔に引っ付いた。あいつはそれをうれしそうにくちゃくちゃ食べていた。熱したスプーンで内臓のクリームや脳のあんこを食べられた。胸の大福を吸われたり、熱したフォークで胸を掘られてビスケットの心臓をかじられたこともある。綿菓子の髪をちぎって食べられるのなんてしょっちゅうだ。欠損した部分はパティシエと彫刻師が修復してくれる。
ムシバの変態行為はとどまることを知らず、あたしの膀胱にココアを入れて放尿させてティーカップで飲むというプレイもさせられた。人形なので尿意はないけど自分の意思で出せるのだ。こんな恥辱を受けたのは生まれてはじめてだった。
顔を真っ赤にして泣きそうなあたしをムシバは満足そうに見つめていた。ここには書けないけどお腹のクリームを銀の皿の上に出さされたこともあった。あいつは真性の変態だと思う。あの屈辱は絶対に忘れない。
あたしは気持ち悪いけど全部耐えた。逃げれば村のみんなの命が危ないからだ。村には手紙を書いた。あたしは無事だから安心してほしい、と。みんなに会いたいけどムシバは許してくれなかった。
里心がついて逃げだすことを恐れているのだ。あたしはカゴの中の鳥だった。
そんなある日の晩、突如として脱走のチャンスがやってきた。パーティでのお披露目を終えて氷の間まで兵士に連行されている時だった。金髪碧眼の少年が廊下の曲がり角から飛び出してきて護衛の兵士たちを斬り倒したのだ。
「姫、さあこちらに!」
あたしは少年に手を取られて走り出した。
「オレは隣国の王子ユウキと言います。あなたの事情は知っています。故郷の村人は全員遠くに逃しました。あとは貴女だけです!」
「まあ、ありがとう!」
あたしの胸は高鳴る。ムシバが自慢げにあたしの置かれている状況を各国の要人たちに語ったのだろう。それでユウキは助けに来てくれたのだ。
ユウキの剣の腕は凄まじく兵士たちを次々になぎたおしていく。ついには門番まで斬って捨てる。自由まであとちょっだ。
「待つんだミア!薄汚れた泥棒猫め!成敗してくれる!暗雲より出でて罪人を焼き滅ぼせ雷鳴の流星群!サンダーレイン!」
ムシバの声がした。
「姫危ない!」
ユウキはあたしを抱きしめて横転する。いまいた場所に雷の雨が降り注ぎ地面が真っ黒焦げになった。
「お逃げください姫っ!」
立ち上がったユウキは剣を構えて空中に浮かぶムシバと対峙する。ムシバのかたわらには開かれた魔導書が浮かんでいた。ただでさえ強いのに呪具まで使ってくるとはよっぽど本気のようだ。詠唱して呪文の効果を高めてたし。あたしは迷ったけど千歳一隅のチャンスは逃せない。
「ユウキ死なないで!」
「もちろんです!」
あたしがいても足手まといだ。そのあと、あたしは後ろを振り返らず一目散に走った。気づいたら港にいた。ヒールは途中で脱げたので裸足だった。爪が割れている。
あたしはたむろしている船員に声をかけた。
「追われているのです!助けてください!あたしを海外に連れて行って!」
船員たちは困惑した表情を浮かべる。
「高貴な人みたいだな。悪りぃけど厄介ごとに巻き込まれたくないんだ」
「これを差し上げます」
あたしは身につけていた王冠、指輪、アクセサリーをすべて差し出した。船員たちの目が金貨に変わる。
「いいぜ。乗っけてってやろう。オレたちゃ貨物船の船員なんだ。タルに隠れな。運び込んでやる」
「ありがとうございます!」
こうしてあたしは暗い夜の闇に紛れて長い船旅に出た。1ヶ月後、龍の国という東洋の島国に到着する。その国の住人はちょんまげという髪型で着物を着ており、あたしの国とはまったく違う文化を形成していた。




