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私達はまだ知られていない〜血の跡(あと)〜  作者: hash


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4/4

noise

管理室は、地下で最も静かな場所だった。

静かであることが、異常を浮かび上がらせる。


壁一面に並ぶモニター。工程表、電源系統、換気、非常導線。

人間たちはここで作業工程を確認する。進捗は数字で、異常はランプで管理される。

声は、必要最低限だ。


「次、地下三区画の切り替え確認いくぞ」


管理室の人間がインカムに向かって言う。

リアルタイム通信。

私は、その単語を頭の中で赤くする。


通信中は沈黙。

それが、唯一のルールだ。


金髪の建築士は、モニターの端に立っている。

彼は人間の工程を読むのが早い。画面の切り替わりに、身体が先に反応する。

衝動性。

今、この場所では最悪の特性だ。


「切り替え、三十秒後――」


人間の声が言い終わる前に、警告音が鳴った。

短く、乾いた音。

想定内のアラートだ。だが、音は思考を急かす。


「待て、今の――」


その瞬間だった。


「違う、そっちは――」


声が、出かけた。

金髪の建築士の喉が動いた。言葉は完成していない。だが、音になりかけた。


インカムが、反応する。

ほんの一瞬、回線が開く。


管理室の空気が、張りつめる。


「……今、誰か言った?」


人間の声。

はっきりと、インカム越しだ。


私は即座に照明を落とす。

管理室の明かりを一段、下げる。視覚に負荷をかけ、聴覚から注意を逸らす。


黒髪の女が、無音で首を振る。

声は、まだ“入っていない”。


「ノイズじゃない?」

別の人間が言う。

「管理室、機器多いし」


「いや、言葉っぽかった」


その一言が、空気を変える。

言葉っぽかった。

それは、最も危険な表現だ。


私は、モニターの一つを切り替える。

工程確認画面を拡大する。数字を前に出す。

人間は、意味のある情報に視線を吸われる。


「ほら、切り替え遅れてる」

誰かが言う。

「今のアラート、これだろ」


注意が、画面に集まる。

通信は続いている。

だが、声は、出ていない。


金髪の建築士は、唇を押さえている。

今、自分が何をしかけたかを、理解している。


可視化は、起きていない。

輪郭も、位置も、固定されていない。


だが、管理室にはズレが残った。


「さっきの、気のせいかな」

人間が言う。

「なんか、誰か訂正しかけた気がして」


訂正。

それは、本来、彼の役割だった。


私は、ゆっくりと首を横に振る。

誰にも見せない、小さな動きで。


通信中は沈黙。

守られた。

だが、危うく破られるところだった。


管理室の時計が進む。

工程は再開され、数字は正常に戻る。


黒髪の女が、私を見る。

目が、問いかけている。

――今のは?


私は、短く答える。

口は動かさない。


まだ、だ。


見えないまま、踏みとどまった。

だが、世界は一度、こちらを向いた。


管理室は再び静かになる。

その静けさが、何よりも重かった。


夜は、まだ続いている。

だが次に声が混じれば、

それは事故では済まない。


怪しまれてはいけない。

私たちの目標は、地上の城だ。

こんな地下工事の穴蔵で、立ち止まっている場合ではない。

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