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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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99/123

第61節 土脉潤起―死後損傷との区別《手稿資料集:潤う土の声(Testimonium Terrae)》

1. 表紙

2. 手稿一 「生前損傷と死後損傷の比較表 ― Tabula Comparativa Lesionum」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「組織反応の経時モデル ― Modelum Responsionis Vitalis」

5. 手稿四 「化学的・分子補助手法 ― Methodus Chemica et Molecularis」

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「沈黙の中の境界線」」

7. 手稿六 「詩篇:潤う土の声 ― Testimonium Terrae」

8. 手稿七 「鑑定書文例 ― Distinctio Forensis」

9. 手稿八 結語 ― 生命の残響を聴く眼

 《手稿資料集:潤う土の声(Testimonium Terrae)》


 ―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

 第61節 土脉潤起どみゃくうるおいおこる

 死後損傷との区別


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学 医法融合研究棟 鑑定実証室

 日:春雨のしずく、静かに土を潤す日


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Terrae ― 潤う土之聲』

 ───────────────────────────────


 手稿一 生前損傷と死後損傷の比較表 ― Tabula Comparativa Lesionum


 図Ⅰ 生命反応の有無による損傷差異


 ────────────────────────────────────────────

 項目      │ 生前損傷              │ 死後損傷

 ────────────────────────────────────────────

 出血      │ 広範・浸潤性            │ 表層限局・滴下状

 血餅      │ 凝固網明瞭・フィブリン形成     │ 薄膜状・脆弱

 組織反応    │ 好中球・マクロファージ浸潤     │ 炎症反応なし

 血管変化    │ 充血・内皮腫脹           │ 収縮・虚脱

 創縁色調    │ 赤〜暗赤・滲出帯          │ 灰白・乾固線状

 ────────────────────────────────────────────

 註:血流・酸素・代謝の有無が生前と死後の境界を分かつ。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.61-A

 試料:左大腿皮下挫創(Case ID:I62-4)

 分析法:HE染色/免疫染色(CD68, Fibrin)/血液化学

 環境:室温20℃/湿度50%


 結果:

 ・皮下出血浸潤明瞭、深部連続性あり

 ・血餅形成顕著、フィブリン網構造確認

 ・好中球・マクロファージ散在性出現

 ・血管内皮細胞腫脹を認む


 判定:生前損傷(受傷後3〜5時間相当)


 比較試料(死後切創):

 ・表層限局性出血、凝固脆弱

 ・細胞反応・血管変化を欠く

 → 死後損傷と明確に区別。

 ― 綾音(記)


 手稿三 組織反応の経時モデル ― Modelum Responsionis Vitalis


 図Ⅱ 創発生後の組織反応経時的推移


 ────────────────────────────────────────────

 時間経過(h) │ 主反応         │ 鑑定上の意義

 ────────────────────────────────────────────

 0〜1     │ 血管拡張・赤血球漏出  │ 直後反応の確認

 1〜6     │ 好中球出現・滲出液形成 │ 急性炎症期

 6〜24    │ マクロファージ浸潤   │ 炎症後期〜修復移行期

 24以降    │ 線維芽細胞増殖     │ 生前損傷確定要素

 ────────────────────────────────────────────

 註:死後損傷では上記いずれの反応も認められない。


 手稿四 化学的・分子補助手法 ― Methodus Chemica et Molecularis


 表Ⅰ 生前・死後損傷識別における化学・分子学的手法


 ────────────────────────────────────────────

 手法         │ 対象・測定指標       │ 生前損傷の証拠

 ────────────────────────────────────────────

 ヘモグロビン酸化分析 │ HbO₂→MetHb比       │ 酸化進行遅延(循環下)

 免疫染色(CD68等)  │ マクロファージ反応     │ 陽性細胞分布

 mRNA残存率測定    │ IL-6, COX-2等炎症遺伝子   │ 生体反応活性の確認

 pHマッピング法    │ 酸化還元反応        │ 局所代謝の存在証明

 ────────────────────────────────────────────

 註:分子の発話こそが、“生命がそこに在った”ことの科学的証拠である。


 手稿五 隆也注解 ― 「沈黙の中の境界線」


「綾音、

 死後の傷と生前の傷の違いは、

 音で言えば“余韻”の有無。


 生きていた創には響きが残る。

 炎症も出血も、その響きのかけら。


 でも死後の創は静か。

 科学は、

 その“静寂の中の差”を聴くこと」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:潤う土の声 ― Testimonium Terrae


「春の雨が土を打つ。

 乾いた大地が、ゆっくりと息を吹き返す。


  生きていた証は、

 血の滲む音の中にある。


 死の中の創は、

 ただ静かに沈黙する。


  けれど、

 その沈黙を見つめる眼が、

 命の名残を照らし出す。


 法とは、

 その潤いを聴く耳なのだ」

 ― 綾音


「土が潤うように、

 真実もまた、人の眼に還る」

 ― 隆也


 手稿七 鑑定書文例 ― Distinctio Forensis


【鑑定意見】


 本症例における皮下挫創では、出血浸潤および血餅形成を明瞭に認め、

 組織学的には好中球およびマクロファージの出現、血管内皮腫脹を伴う。

 免疫染色にてCD68陽性細胞を確認し、フィブリン沈着構造が形成されていることから、

 本創は生体反応を示す生前損傷であり、受傷後3〜5時間前後に該当する。


 対照として実施した死後切創試料においては、

 表層限局性出血・細胞反応の欠如が見られ、

 本症例との間に顕著な差異を確認した。


 以上をもって、

 本件創は死後付加損傷ではなく、生体反応下で形成された損傷と結論する。


 司法解剖医 大隅 綾音


 手稿八 結語 ― 「生命の残響を聴く眼」


 死後損傷を見分ける技術は、

 単なる科学的比較ではなく、

 生命の“残響”を聴く行為である。


 血の滲み方、細胞の反応、

 すべてが「まだ生きていた瞬間」を語る。


 司法医学は、沈黙の中からその声を拾い上げ、

 真実を再び光の下に還す。


 ――土脉潤起。

 潤う大地のように、

 生命の記録は再び息づく。


 ― 大隅 綾音(記)


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