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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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97/123

第60節 魚上氷―司法鑑定書における時間記載例 《手稿資料集:氷上の魚(Testimonium Pisces)》

1. 表紙

2. 手稿一 「時間記載の三層構造 ― Structura Temporis Forensis」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「時間表現形式表 ― Exempla Temporis Scripturae」

5. 手稿四 「司法鑑定書・記載例(正式文体)」

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「科学の言葉は、氷を割る音」」

7. 手稿六 「詩篇:氷上の魚 ― Testimonium Pisces」

8. 手稿七 結語 ― 言葉が科学を生かす

 《手稿資料集:氷上の魚(Testimonium Pisces)》


 ―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

 第60節 魚上氷うおこおりをのぼる

 司法鑑定書における時間記載例


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学 医法融合研究棟 鑑定文書作成室

 日:氷を割って春の兆す日


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Pisces ― 氷上之証言』

 ───────────────────────────────


 手稿一 時間記載の三層構造 ― Structura Temporis Forensis


 図Ⅰ 司法鑑定書における時間表現の階層構造


 ────────────────────────────────────────────

 層      │ 内容               │ 目的

 ────────────────────────────────────────────

 観察層    │ 肉眼・組織・分子所見       │ 科学的事実の提示

 解析層    │ 所見間の整合・統合評価      │ 合理的推論の明示

 記載層    │ 法的文体への変換         │ 証拠能力の確保

 ────────────────────────────────────────────

 註:事実・評価・表現の三層を分けて整えることが、鑑定の信頼性を支える。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.60-A

 試料:右上腕部裂創(Case ID:H60-2)

 分析法:HE染色/血液化学/mtDNA定量

 環境:室温22℃/湿度45%


 結果:

 ・肉眼:創縁暗赤化・乾固中期

 ・組織:マクロファージ中等度浸潤・線維芽細胞形成開始

 ・化学:K+ 9.5 mmol/L/pH 6.7/LDH活性 41%

 ・分子:mtDNA断片化率 28%


 推定時間:受傷後 約11〜14時間(信頼区間95%)


 考察:

 肉眼・組織・化学・分子の各所見が重なり合い、

 時間の層として一致を見た。

 その交点こそが“真実の時刻”である。

 ― 綾音(記)


 手稿三 時間表現形式表 ― Exempla Temporis Scripturae


 図Ⅱ 司法鑑定書における時間記載の形式分類


 ────────────────────────────────────────────

 記載形式   │ 使用例                       │ 用法

 ────────────────────────────────────────────

 定性的表現  │ 「受傷後短時間内(概ね3時間以内)」        │ 現場所見・速報用

 定量的表現  │ 「受傷後約12〜15時間(誤差±2時間)」       │ 学術・司法報告用

 統合的表現  │ 「肉眼・組織・分子所見の整合より12時間前後と推定」│ 正式鑑定文書用

 ────────────────────────────────────────────

 註:表現の選択は、科学の正確さと倫理の均衡を求める行為である。


 手稿四 司法鑑定書・記載例(正式文体)


【鑑定意見】


 本症例の創について、肉眼的観察、組織学的検討、化学的および分子生物学的分析結果を総合したところ、

 受傷後経過時間は概ね12時間前後(誤差±2時間)と推定される。


 根拠は以下の通りである。

 1. 創縁乾固の程度および血液膜の酸化状態は中期段階に相当する。

 2. 組織学的にはマクロファージ浸潤と線維芽細胞形成が認められ、炎症後期相を示す。

 3. 硝子体K+濃度、LDH活性、pH変動は時間経過に整合。

 4. mtDNA断片化率28%が化学所見と一致。


 以上の所見に基づき、科学的・法的整合性の高い結論として報告する。


 令和〇年〇月〇日

 司法解剖医 大隅 綾音


 手稿五 隆也注解 ― 「科学の言葉は、氷を割る音」


 「綾音、

 科学が沈黙してるとき、

 言葉がその氷を割る。


  でも割り方を間違えると、

 水面は濁る。


 正しい言葉は、

 静かに氷を開いて、

 下に眠る真実を見せる音」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:氷上の魚 ― Testimonium Pisces


  「凍った水面の下で、

 魚がゆっくりと動き出す。


  科学もまた、

 言葉を得て動き始める。


 顕微鏡の中の沈黙を、

 一文に変えること。


 それは、

 生命の記録を“呼吸”させること。


 言葉は氷を割り、

 真実は光を得る。」

 ― 綾音


「報告とは、

 静寂を語る勇気」

 ― 隆也


 手稿七 結語 ― 「言葉が科学を生かす」


 司法鑑定書は、

 科学を法の言葉で再生させるための“第二の顕微鏡”である。


 その一行一行に、

 時間、感情、倫理が宿る。


 創の沈黙を破るのは、

 声高な主張ではなく、

 静かな観察と言葉の正確さ。


 ――魚上氷。

 氷が割れて水が動くように、

 言葉が科学を生かす。


 ― 大隅 綾音(記)


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