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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第55節 款冬華創―傷治癒の四段階モデル 《手稿資料集:款冬華 ― 創傷治癒の四段階モデル》

《手稿資料集:款冬華 ― 創傷治癒の四段階モデル》


―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


表紙


───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

  第55節 款冬華ふきのはなさく

   創傷治癒の四段階モデル


  綾音観察記録・隆也注釈附

  於:大学 医法融合研究棟 生体再生研究室

  日:雪の地中より蕗の花咲く朝


───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Petasitis ― 款冬華之聲』

───────────────────────────────


手稿一 治癒四段階概要 ― Quattuor Gradus Curae Vulneris


図Ⅰ 創傷治癒過程の概要構造


────────────────────────────────────────────

段階    │ 主反応         │ 主要細胞       │ 臨床的所見

────────────────────────────────────────────

Ⅰ 止血期  │ 血液凝固・血小板栓形成 │ 血小板・フィブリン  │ 出血停止・痂皮前兆

Ⅱ 炎症期  │ 異物排除・感染防御   │ 好中球・マクロファージ│ 紅斑・熱感・渗出液

Ⅲ 増殖期  │ 肉芽形成・新生血管生成 │ 線維芽細胞・内皮細胞 │ 創収縮・淡紅調変化

Ⅳ 再構築期 │ コラーゲン再配列・成熟 │ 角化細胞・線維細胞  │ 瘢痕安定・弾性回復

────────────────────────────────────────────

註:生命の修復は、四つの季節のように巡る。


手稿二 観察記録(綾音筆)


観察No.55-2

試料:右大腿部挫創(Case ID:C-56B)

環境:温度23℃/湿度40%/経過7日


顕微鏡所見:

・肉芽組織形成旺盛、毛細血管新生明瞭

・線維芽細胞増殖、コラーゲン配列開始

・上皮細胞の遊走進行


推定治癒段階:Ⅲ 増殖期後期〜Ⅳ 再構築期初期


コメント:

創の修復は、生命が“もう一度生まれる”過程。

その中心には、痛みと記憶の融合がある。

               ― 綾音(記)


手稿三 時間経過曲線 ― Graphum Temporis et Regenerationis


図Ⅱ 時間経過と細胞活動強度の関係(概念図)


縦軸:細胞活動強度  横軸:時間経過(日)


止血期 → 炎症期 → 増殖期 → 再構築期

▲   ▲    ▲    ▲

出血抑制 炎症反応高 線維増殖極大 強度回復


註:時間の中で減るもの(痛み)と、増えるもの(再生)は同じ軸上にある。


手稿四 魚住注解 ― 「治癒とは、記憶を抱いたまま再生すること」


「綾音、創が治るというのは、

ただ“元に戻る”ことではなく。


炎症の熱も、痛みも、

ぜんぶ記憶の中で形を変えて残る。


生き直すことは、

その記憶を抱いたまま、また歩くこと」

― 隆也(注解)


手稿五 組織修復過程図 ― Structura Regenerationis Cellularis


図Ⅲ 修復の流れと細胞群の連動関係


────────────────────────────────────────────

段階   │ 主役細胞     │ 主要化学因子     │ 組織反応

────────────────────────────────────────────

止血期  │ 血小板      │ トロンビン・フィブリン│ 凝固網形成

炎症期  │ 好中球・マクロファ│ インターロイキン群  │ 異物排除・清掃

増殖期  │ 線維芽細胞・内皮 │ VEGF・FGF      │ 血管新生・肉芽形成

再構築期 │ 角化細胞     │ TGF-β        │ 組織強度回復・弾性再獲得

────────────────────────────────────────────

註:化学因子は“生命の手紙”。細胞はそれを読み、修復を紡ぐ。


手稿六 詩篇:款冬の花 ― Testimonium Petasitis


「雪の下で、

蕗の花が静かに咲く。


その小さな蕾は、

痛みのあとに生まれる再生の詩。


炎症の熱も、乾いた血も、

すべては“新しい春”のためにあった。


沈黙の中で、細胞が祈っている。

どうか、もう一度、咲けますように。」

― 綾音


「治癒は、痛みの終わりではなく、

生命の再交響」

― 隆也


手稿七 結語 ― 四季としての創


創の治癒は、季節の循環と似ている。

止血は冬、炎症は春、増殖は夏、再構築は秋。


生体はこの周期を繰り返し、

一度失った形を“新しい秩序”で取り戻す。


司法医学はその過程を記録する観察者であり、

生命の律動を読み解く詩学でもある。


雪の下で花開く蕗のように、

創もまた、沈黙のうちに再生を始めている。


               ― 大隅 綾音(記)


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第56節 水沢腹堅 ― 組織学的時間判定法、です。

節名「水沢腹堅」は、冬の厳寒期に水が地の底で凍り、

“流れが止まっているようで、内側では結晶が成長している”時節を意味します。

すなわち、本章では**「外からは見えないが、内側で進む時間」**――

創の内部に刻まれた“組織学的時間”を解読する法医学的技術を主題とします。


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