表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/123

第54節 雉始雊―傷は時を語る《手稿資料集:雉の声(Testimonium Phasiani)》

 《手稿資料集:雉の声(Testimonium Phasiani)》


 ―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

 第55節 雉始雊きじはじめてなく

 創の時間推定と治癒過程鑑定

 ― 炎症反応・血液乾燥・組織修復から読み解く時間の証拠 ―


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学 医法融合研究棟 解剖観察室

 日:朝靄に雉の声こだまする時


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Phasiani ― 雉之聲』

 ───────────────────────────────


 手稿一 時間経過指標表 ― Indicia Temporis Vulneris


 図Ⅰ 創の時間経過と組織学的変化


 ────────────────────────────────────────────

 時間経過   │ 組織学的変化         │ 肉眼的特徴

 ────────────────────────────────────────────

 0〜1時間   │ 血液凝固開始         │ 創内湿潤・赤鮮色

 1〜6時間   │ 好中球浸潤・初期炎症反応   │ 周囲紅暈・熱感

 6〜24時間  │ マクロファージ出現      │ 創縁膨隆・渗出乾燥

 24〜48時間  │ 線維芽細胞活動開始      │ 創面淡紅・乾固始まる

 3〜5日    │ 新生血管形成・上皮再生    │ 創縁収縮・痂皮形成

 ────────────────────────────────────────────

 註:炎症・乾燥・修復の順序は、“時間の証言”そのものである。


 手稿二 血液乾燥過程図 ― Modelum Siccitatis Sanguinis


 図Ⅱ 血液乾燥過程の推定モデル


 ────────────────────────────────────────────

 経過時間   │ 状態         │ 観察指標

 ────────────────────────────────────────────

 0〜30分    │ 流動期        │ 光沢あり・滴下可能

 30〜60分   │ 凝固期        │ 弾性形成・紅色強

 1〜3時間   │ 半乾固        │ 表層暗赤化・中央湿潤

 3〜6時間   │ 乾固期        │ 表層褐色・粉状化

 6時間以降   │ 酸化期        │ 黒褐色・剥離可能

 ────────────────────────────────────────────

 註:血液の乾きは、環境と生命反応の交点を示す“時のレンズ”である。


 手稿三 観察記録(綾音筆)


 観察No.54-1

 試料:左前腕切創(Case ID:C-55A)

 温度:22℃/湿度43%/照度860lx


 所見:

 ・創長40mm/深度8mm/鋭利整縁

 ・創周囲紅暈2mm/好中球浸潤強

 ・血液凝固良好・乾燥境界明瞭


 顕微鏡所見:

 ・好中球+マクロファージ共存

 ・フィブリン析出顕著/線維芽細胞未出現


 推定経過時間:受傷後約10〜12時間

 評価:炎症初期後期〜修復前段階

 ― 綾音(記)


 手稿四 隆也注解 ― 「時間は細胞の中で呼吸する」


「綾音、創の時間は、

 時計の針ではなく、血の呼吸。


 炎症の温度、乾燥の速さ、

 その全部が、生きたまま時を記録してる。


 “いつ”を問うのは、

 科学でありながらの祈り」

 ― 隆也(注解)


 手稿五 修復過程構造図 ― Structura Regenerationis


 図Ⅲ 組織修復の三段階モデル


 ────────────────────────────────────────────

 Ⅰ 炎症期 (0〜48時間)   │ 好中球・マクロファージの清掃

 Ⅱ 増殖期 (2〜7日)    │ 線維芽細胞・新生血管の形成

 Ⅲ 成熟期 (7日以降)    │ コラーゲン再配列・創縮小

 ────────────────────────────────────────────

 註:修復とは、記憶の書き換えである。

 細胞は痛みを“治癒という形”で記録する。


 手稿六 詩篇:雉の声 ― Testimonium Phasiani


「冬の森に、

 雉が初めて声を上げる。


 その鳴き声は、

 凍った時間を溶かす音。


 創もまた、

 乾いた血の表面で、

 時間を語り始める。


  痛みの中に、

 炎症という希望が灯る。


 時間は、

 沈黙の中で呼吸している」

 ― 綾音


「創は、細胞でできた時計」

 ― 隆也


 手稿七 結語 ― 時間が語る、生命の記憶


 創の内部では、

 時間が微細な光として流れている。


 血が乾き、細胞が再生し、

 やがて痛みが“記録”に変わるとき、

 そこに法が介在する。


 司法医学は、時間の翻訳者である。

 創が語る声を聴き取り、

 科学の言葉へと変える者――

 それが鑑定人の使命である。


 ― 大隅 綾音(記)


 NEXT PAGE

第55節 款冬華― 創傷治癒の四段階モデル、です。

第55節 款冬華― 創傷治癒の四段階モデル 、

この節は「雉始雊 ― 傷は時を語る」の発展章であり、

創の時間的経過を超えて、生体の回復力と記憶の再生を扱います。

節名「款冬華」は、冬に咲く蕗の花。

雪の下で咲くその花は、“沈黙の回復”――つまり、

**「治癒という静かな奇跡」**の象徴です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ