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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第54節 雉始雊― 傷は時を語る

「炎症と乾燥と修復が記す、時間の音」

冬の野に、雉の声が響く。

その声は、長い沈黙ののちに生まれる“生命の時間”の音だ。

創もまた、沈黙の中で時を語る。

血液の乾き方、組織の反応、細胞の修復――

それら一つ一つが、「いつ起こったのか」を語るための言葉である。

法廷では、時間は真実の軸となる。

“いつ傷ついたのか”“生前か死後か”“何時間が経過したか”――

その答えを示すのが、創の時間的鑑定である。

隆也は言った。

「綾音、時間は、

 創の中で呼吸している。

 血液が乾く速さにも、真実の声がある」

私は、顕微鏡のレンズ越しに、

赤く縁どられた細胞の静かな呼吸を見つめた。

そこには、確かに“時”が宿っていた。

ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。

 Ⅰ 時間は創に刻まれる ― Chronologia Vulneris の原理


 司法医学において「創の時間推定」とは、

 創の形態・反応・修復過程から時間的経過を読み取る技術である。


 創は単なる傷ではない。

 それは、**「時間の記録媒体」**であり、

 体内の時計が刻む微細な“炎症の詩”である。


 時間は三つの層で語られる。


 ① 血液の時間(血液乾燥・凝固・酸化)

 ② 炎症の時間(白血球・マクロファージ反応)

 ③ 修復の時間(線維芽細胞・上皮再生)


 これらを総合することで、

 司法医学者は“創の時間の声”を翻訳する。


 Ⅱ 図解①:創の時間経過指標 ― Indicia Temporis Vulneris


 ────────────────────────────────────────────

 時間経過   │ 組織学的変化         │ 肉眼的特徴

 ────────────────────────────────────────────

 0〜1時間   │ 出血・血液凝固開始      │ 創内湿潤・赤鮮色

 1〜6時間   │ 好中球浸潤(初期炎症反応)  │ 周囲紅暈・熱感

 6〜24時間  │ マクロファージ出現      │ 創縁膨隆・渗出液乾燥

 24〜48時間  │ 線維芽細胞活動開始      │ 創面淡紅・乾固始まる

 3〜5日    │ 新生血管形成・上皮再生    │ 創縁収縮・痂皮形成

 ────────────────────────────────────────────

 註:創は“生体の時計”である。炎症・乾燥・修復がその針を動かす。


 Ⅲ 観察記録(綾音筆)


 観察No.54-1

 試料:左前腕切創(Case ID:C-55A)

 環境:温度22℃/湿度43%/照度860lx


 所見:

 ・創長40mm/深度8mm/鋭利整縁

 ・創周囲紅暈2mm/好中球浸潤強

 ・血液凝固形成良好/乾燥境界明瞭


 顕微鏡所見:

 ・好中球+マクロファージ共存

 ・フィブリン析出顕著/線維芽細胞未出現


 推定経過時間:受傷後約10〜12時間。

 評価:炎症初期後期~修復前段階。

 ― 綾音(記)

挿絵(By みてみん)

 Ⅳ 隆也注解 ― 「時間は、科学よりも静かに正確」


「綾音、時間は、

 人間の言葉よりも正確。


 どんな嘘も、細胞は覚えてる。

 炎症反応の順番、血の乾き、

 その全部が、“過ぎた時間”の証人。


 綾音と 僕の仕事は、それを聴き取ること」

 ― 隆也(注解)

挿絵(By みてみん)

 Ⅴ 図解②:血液乾燥過程モデル ― Modelum Siccitatis Sanguinis


 経過時間   │ 状態         │ 観察指標

 ────────────────────────────────────────────

 0〜30分    │ 流動状態       │ 光沢あり・滴下可能

 30〜60分   │ 凝固期        │ 表面に弾性形成

 1〜3時間   │ 半乾固        │ 表層暗赤化・中央湿潤

 3〜6時間   │ 乾固期        │ 表層褐色・粉状化

 6時間以降   │ 酸化期        │ 黒褐色・剥離可能

 ────────────────────────────────────────────

 註:血液の乾き方は、環境よりも“生命反応の残響”を示す。


 Ⅵ 修復の詩学 ― 炎症と癒着の物語


 創の修復は、生命の再構成である。

 線維芽細胞がコラーゲンを紡ぎ、

 新しい血管が命の橋を架ける。


「痛みは、修復の第一言語だ」

 ― 綾音


 その過程は、時間を可視化する“詩”のようなもの。

 司法医学者は、その詩を読み解く翻訳者である。


 Ⅶ 詩篇:雉の声 ― Testimonium Phasiani


「冬の森に、

 雉が初めて声を上げる。


 その声は、

 長い沈黙を破る“時”の証言。


 創もまた、語り始める。

 炎症という赤い息、

 血の乾きという詩、

 修復という祈り。


 それらすべてが、

 時間の呼吸である」

 ― 綾音


「創は、痛みの中で生きている時計」

 ― 隆也


 NEXT PAGE

 第55節 雉始雊―傷は時を語る《手稿資料集:雉の声(Testimonium Phasiani)》です。

挿絵(By みてみん)

ようこそお越し下さいました。

ありがとうございます。

いかがでした?

創が語るのは痛みではなく、時間である。

炎症反応、血液乾燥、細胞修復――

その一つひとつが、“時の声”を持っている。

司法医学者は、その声を聴き取り、

「いつ」が「なぜ」になり得る瞬間を翻訳する。

私、綾音と隆也は、

創をただの傷ではなく、“記録者”として見ていた。

次節では――

第56節 鶏始乳 ― 組織修復の連鎖と生体時計の再起動

へと続く。

そこでは、

細胞の再生と時間の記憶がどのように再結合するか、

生体が「痛みを越えて再び時を刻み始める」瞬間を描く。


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