第53節 水泉動―鑑定人の倫理と責任《手稿資料集:水泉の声(Testimonium Fontis)》
1. 表紙
2. 手稿一 「倫理四層構造 ― Structura Ethica Forensis」
3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」
4. 手稿三 「倫理判断の流れ ― Flumen Ethicae」
5. 手稿四 「倫理判断の四原則 ― Quattuor Fontes Responsabilitatis」
6. 手稿五 「隆也注解 ― 「迷う勇気こそ倫理」」
7. 手稿六 「倫理事例考察 ― Case Reflectio」
8. 手稿七 「詩篇:水泉の声 ― Testimonium Fontis」
9. 手稿八 「図解:倫理構造相関図 ― Nexus Conscientiae」
10. 結語 見えぬところを流れるもの
《手稿資料集:水泉の声(Testimonium Fontis)》
大隅綾音・魚住隆也 共著観察録
表紙
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司法医学図説・実務編Ⅰ
第53節 水泉動
鑑定人の倫理と責任
綾音観察記録・隆也注釈附
於:大学医学部 法医学倫理研究室
日:凍土下、泉の音微かに聞こゆ
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印章風題字:『Testimonium Fontis ― 水泉之聲』
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手稿一 倫理四層構造 ― Structura Ethica Forensis
図Ⅰ 鑑定人の倫理的四層構造
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Ⅰ 科学的誠実(Veritas Scientiae) │ 観察・測定・記録の正確性
Ⅱ 法的責任(Officium Juris) │ 証言の中立性・論理的一貫性
Ⅲ 人間的尊厳(Dignitas Humana) │ 被害者・遺族への共感と節度
Ⅳ 沈黙の倫理(Ethica Silentii) │ 語らぬ勇気・情報節度・配慮
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註:倫理とは、“科学の中に流れる水脈”であり、
見えぬが確かに生命を潤す。
手稿二 観察記録(綾音筆)
Case No. 53-C
主題:死亡時期鑑定における倫理的考察
状況:
依頼側と被告側で死後経過時間に相違。
検体:肝組織・筋肉線維・眼球硝子体
所見:
・硝子体K値:10.8
・筋肉酵素活性:中度低下(死後約8時間)
・皮膚乾燥:開始期
判断:
死後8〜10時間と推定。
ただし搬送経路・気温差により変動要因あり。
結語:
確定断定を避け、「範囲」で語ることが倫理的誠実である。
科学の精密よりも、誠実の温度を選ぶ。
― 綾音(記)
手稿三 倫理判断の流れ ― Flumen Ethicae
模式構造:
観察(Observation)
↓
自問(Reflection)
↓
判断(Judicium)
↓
表現(Expression)
註:倫理とは、他者に示すものではなく、自身の中で問う過程。
水の流れのように、見えぬままに動き続ける。
手稿四 倫理判断の四原則 ― Quattuor Fontes Responsabilitatis
Ⅰ.誠実(Sinceritas) :誤りを恐れず、疑いを明示する
Ⅱ.節度(Modestia) :語る量を制御し、沈黙をも表現とする
Ⅲ.中立(Equitas) :誰の側にも立たず、事実の側に立つ
Ⅳ.思慮(Prudentia) :判断前に“迷う時間”を持つ勇気
註:迷うことは罪ではなく、倫理の証である。
手稿五 隆也注解 ― 「迷う勇気こそ倫理」
> 「綾音、倫理は、
“正しさ”を選ぶことてはなく、
“迷いながらも止まらない”こと。
水のように、
岩を避けながら、それでも流れる。
それが、倫理の本当の姿」
― 隆也(注解)
手稿六 倫理事例考察 ― Case Reflectio
事例Ⅰ:依頼者との距離
→ 感情的依頼に引かれず、法的目的を優先する。
事例Ⅱ:データの欠落
→ 曖昧を認める勇気が信頼を生む。修正を恐れず報告。
事例Ⅲ:報道機関からの照会
→ 科学者の発言は社会的影響を伴う。
沈黙もまた、発言の一形態として選択する。
手稿七 詩篇:水泉の声 ― Testimonium Fontis
「氷の下で、
水は音もなく動いている。
誰も知らないところで、
良心の泉が流れを変えている。
科学が冷たくても、
言葉が乾いていても、
その底にある流れだけは、
決して止まらない。
それが、倫理の水音だ。」
― 綾音
「科学が真実を示すなら、
倫理はその温度を決める。」
― 隆也
手稿八 図解:倫理構造相関図 ― Nexus Conscientiae
模式図:
科学的誠実(Veritas Scientiae)
↑
法的責任(Officium Juris)
↓
人間的尊厳(Dignitas Humana)
↑
沈黙の倫理(Ethica Silentii)
中心概念:Conscientia(良心)
註:良心とは、科学・法・人間・沈黙の交わる泉である。
結語 見えぬところを流れるもの
倫理は、法の裏に隠れた“もう一つの水脈”。
そこを流れるのは、科学者の心の声である。
正確であるよりも、誠実であること。
沈黙の裏に、信頼が宿ること。
水泉動――
見えぬ流れを感じ取る者だけが、
真実の源に触れる。
― 大隅 綾音(記)
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第54節 雉始雊― 傷は時を語る 、この節は、創の時間推定と治癒過程鑑定』の、「炎症反応」「血液乾燥」「組織修復」という生体の“時間の記憶”を軸に、「創がどのように時を記録するか」――すなわち、
**司法医学的時間鑑定(Chronologia Forensis)**の核心を描きます。
節題「雉始雊」は、冬が明けて雄の雉が初めて鳴く節気。
静寂の中で初めて発せられる声――それは、
創が“時間を語り始める瞬間”の象徴です。




