第52節 芹乃栄―法廷での証言技術《手稿資料集:芹の声(Testimonium Seris)》
1. 表紙
2. 手稿一 「証言三層構造図 ― Triplex Testimonii」
3. 手稿二 「証言四原則 ― Quattuor Principia Testimonii」
4. 手稿三 「観察記録(綾音筆:法廷提出稿)」
5. 手稿四 「証言技術実践図 ― Ars Testimonialis」
6. 手稿五 「模擬法廷対話記録 ― 綾音と隆也」
7. 手稿六 「表現技術の指針 ― De Arte Dicendi Forensis」
8. 手稿七 「詩篇:芹の声 ― Testimonium Seris」
9. 手稿八 「図解:言葉と真実の相関 ― Nexus Verbi et Veritatis」
10. 結語 言葉が立ち上がる瞬間
《手稿資料集:芹の声(Testimonium Seris)》
― 大隅綾音・魚住隆也 共著観察録 ―
表紙
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司法医学図説・実務編Ⅰ
第53節 芹乃栄
法廷での証言技術
綾音観察記録・隆也注釈附
於:地方裁判所 第2法廷
日:寒気厳し・芹芽吹く朝
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印章風題字:『Testimonium Seris ― 芹之聲』
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手稿一 証言三層構造図 ― Triplex Testimonii
図Ⅰ 法廷証言における三層構造
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Ⅰ 観察(Observation) │ 科学的事実の提示
Ⅱ 分析(Analysis) │ 因果関係・論理展開
Ⅲ 表現(Expression) │ 社会的理解・平易化された言語表現
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註:科学の静寂を「言葉の音」に変える三層構造。
証言とは、“理解される科学”の再構築である。
手稿二 証言四原則 ― Quattuor Principia Testimonii
Ⅰ.明確性(Clarity) :短く、正確に、迷いなく
Ⅱ.中立性(Neutrality):感情を抑え、事実のみを語る
Ⅲ.簡潔性(Brevity) :専門用語を平易に翻訳する
Ⅳ.倫理性(Integrity) :被害者・当事者への敬意を忘れぬ
註:証言とは“法の詩”である。
沈黙を壊すのではなく、静かに形を与える。
手稿三 観察記録(綾音筆:法廷提出稿)
Case No. 53-A
主題:左側頸部刺創に関する死因鑑定
所見:
・創長28mm/深度20mm
・創縁鋭利、方向下内方34°
・出血量:推定1.6L(循環血量の約30%)
・心筋・肺胞・食道に損傷なし
結語:
死因は急性出血性ショック。
単回刺撃による創であり、ためらい創なし。
― 綾音(記)
手稿四 証言技術実践図 ― Ars Testimonialis
模式図:
観察(事実) → 分析(論理) → 表現(伝達)
科学的観察を「意味」に変換し、
倫理的言葉で「共有」する流れ。
註:証言の核心は「語る」ではなく、「伝える」ことである。
手稿五 模擬法廷対話記録 ― 綾音と隆也
隆也:「被害者の創について説明してください」
綾音:「創長35mm、深度12mm。鋭利な刃による単回刺創です。
生前反応陽性で、死因は急性出血性ショックと考えられます」
魚住:「“生前反応”とは、平たく言うと?」
綾音:「簡単に言えば、“まだ生きていた証拠”です」
隆也(微笑して):「その綾音の言葉で、陪審員は理解できる。
それが、綾音の科学を声に変える技術」
手稿六 表現技術の指針 ― De Arte Dicendi Forensis
・語彙選択は平易に、比喩よりも例示を用いる。
・一文は60字以内を原則、息継ぎの位置を意識する。
・数字を「約」「およそ」で包むと聴感が柔らかい。
・沈黙を恐れず、間を取ることが信頼を生む。
・“理解される科学”を目指す姿勢を常に保つ。
註:沈黙は敵ではない。
沈黙こそ、真実が息を整える場所である。
手稿七 詩篇:芹の声 ― Testimonium Seris
「冬の泥の底から、
芹は声なき声を上げる。
その柔らかな茎の先に、
透明な真実が宿る。
法廷で語る言葉も、
その芽のように静かであれ。
科学の冷たさと、
人間の温もりを、
同じ息の中で結びたい」
― 綾音
「証言とは、
科学に心を取り戻す行為」
― 隆也
手稿八 図解:言葉と真実の相関 ― Nexus Verbi et Veritatis
模式構造:
科学(Observation)
↓
法(Analysis)
↓
人間(Expression)
中心概念:Fides(信頼)
註:証言とは、科学・法・人間の三者が“信頼”という光で結ばれる現象である。
結語 言葉が立ち上がる瞬間
法廷で語るとは、
言葉を使って真実を生かすこと。
沈黙していた証拠に声を与え、
冷たい数値を人間の温度に戻す。
芹が凍てた土を割って芽吹くように、
言葉もまた、勇気と誠実によって生まれる。
司法医学とは、
その芽吹きを見守る学問である。
大隅 綾音(記)
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第54節 水泉動 ― 鑑定人の倫理と責任、です。
この次節の主題は――
「沈黙する科学に、倫理という心臓を与える」。
節名「水泉動」は、
凍った大地の下で、まだ見えぬ水脈が静かに動き始める季節を意味します。
すなわち、司法医学という冷たい学問の底にも、
“良心という流れ”が存在するという象徴です。
綾音と隆也が、ある裁判後の夜、
白い照明の下で“鑑定人とは何者か”を語り合う――
その情景を通して、科学・法・倫理の交錯点を描きます。




