第50節 麋角解―鑑定書の構成と書き方《手稿資料集:鹿角の書(Testimonium Cornuum)》
1. 表紙
2. 手稿一 「鑑定書の構造表 ― Structura Testimonii Forensis」
3. 手稿二 「記述法三原則 ― Lex Scriptoris Forensis」
4. 手稿三 「鑑定書文体三層モデル ― Triplex Vox Forensis」
5. 手稿四 「観察記録(綾音筆)」
6. 手稿五 「図解:鑑定書構成模式図 ― Diagramma Scripturae Forensis」
7. 手稿六 「法的表現指針 ― De Stylo Forensi」
8. 手稿七 「隆也注解 ― 「言葉は標本であり、責任である」」
9. 手稿八 「詩篇:鹿角の書 ― Testimonium Cornuum」
10. 結語 言葉の角を削ぐということ
《手稿資料集:鹿角の書(Testimonium Cornuum)》
― 大隅綾音・魚住隆也 共著観察録 ―
表紙
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司法医学図説・実務編Ⅰ
第50節 麋角解
鑑定書の構成と書き方
綾音観察記録・隆也注釈附
於:大学医学部 法医学研究室
日:冬至近し・静寂・気温0.9℃
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印章風題字:『Testimonium Cornuum ― 鹿角之書』
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手稿一 鑑定書の構造表 ― Structura Testimonii Forensis
図Ⅰ 鑑定書の基本構造と文体機能
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Ⅰ.表紙・標題 │ 件名・依頼機関・作成日
Ⅱ.総括 │ 目的・依頼事項・法的背景
Ⅲ.観察記録 │ 方法・条件・所見・測定値
Ⅳ.分析・考察 │ 結果の論理的展開・解釈根拠
Ⅴ.結論 │ 鑑定意見・法的推論
Ⅵ.付録 │ 写真・図表・署名・参考資料
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註:鑑定書は“科学の観察”と“法の言語”を結ぶ骨格文書である。
手稿二 記述法三原則 ― Lex Scriptoris Forensis
明瞭性(Clarity) :主観を排し、観察結果を定量的に描写する
中立性(Neutrality):断定を避け、論理を通して結論へ導く
誠実性(Integrity) :事実の尊厳を損なわず、倫理を保つ
註:文章とは“顕微鏡の焦点”。
曇れば、真実の輪郭が失われる。
手稿三 鑑定書文体三層モデル ― Triplex Vox Forensis
図Ⅱ 鑑定文の三層構造
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第Ⅰ層 観察層(Observation) │ 科学的記述・定量化
第Ⅱ層 分析層(Analysis) │ 理論的整合・比較検証
第Ⅲ層 結論層(Conclusion) │ 法的叙述・判断理由
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註:観察は“見る”、分析は“考える”、結論は“語る”。
三層の流れが断絶しない文章が、最も雄弁である。
手稿四 観察記録(綾音筆)
観察No.50-2
試料:左頸部刺創(長径32mm・深度22mm)
観察環境:照度900lx/温度19℃
所見:
・創縁:鋭利・整形
・方向:上外方→下内方(34°)
・出血:生前反応陽性・凝固良好
・血液試料pH:7.28
分析:
単回鋭器による刺撃。
角度と深度から右利き加害者の正面攻撃を推定。
結論:
致死因は急性出血性ショック。
創形態にためらい創所見なし。
― 綾音(記)
手稿五 図解:鑑定書構成模式図 ― Diagramma Scripturae Forensis
模式構造:
┌────────────────────────────┐
│Ⅰ 標題・総括 │
│Ⅱ 観察記録(事実の記述) │
│Ⅲ 分析・考察(事実の思考) │
│Ⅳ 結論・署名(事実の責任) │
└────────────────────────────┘
註:科学的事実は「構造」によって信頼され、
法的言葉は「均衡」によって理解される。
手稿六 法的表現指針 ― De Stylo Forensi
語彙選択 :比喩を避け、定義語を優先する
時制運用 :現在完了・過去完了を区別し因果を明示する
句読構造 :一文は50字以内を原則、曖昧表現を避ける
視点統一 :観察者一人称/考察は論理的一人称複数
註:文体は論文ではなく“証言”。
冷静でありながら、誠実でなければならない。
手稿七 隆也注解 ― 「言葉は標本であり、責任である」
「綾音、鑑定書は“見たこと”じゃなく、“理解させること”が目的。
科学は精密でも、言葉が曖昧なら、それは証拠にならない。
言葉を使うということは、
事実を選び取る行為なんだ。
だからこそ、誠実でなければならない」
― 隆也(注解)
手稿八 詩篇:鹿角の書 ― Testimonium Cornuum
「鹿は角を落とす。
それは、過去を捨てることではなく、
真実を磨くための儀式。
鑑定書もまた、
言葉の角を削ぎ、
科学の骨を露わにする。
冬の静けさの中、
白紙の上で真実が息をする。
言葉は生まれ変わり、
法の森に立ち上がる」
― 綾音
「言葉は骨、骨は記憶。
その一本一本に、
人の命が刻まれている。」
― 隆也
結語 言葉の角を削ぐということ
鑑定書を書くとは、
科学と法のあいだで、言葉の角を削ること。
角を落とすのは、弱さではなく、
より強い形をつくるための知性の再生。
鹿が新しい角を生やすように、
司法の言葉もまた、春に向かって育つ。
― 大隅 綾音(記)
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第51節 雪下出麦― 創の証拠価値を高めるポイント、です。
第51節 雪下出麦― 創の証拠価値を高めるポイント、 を
この節は、冬の大地の下から麦が芽吹く季節「雪下出麦」を象徴に、
“冷たき創に宿る証拠の生命力”を主題とします。
科学・法・倫理の三位を貫く鑑定思想――
すなわち「創を“語らせる”ために、どう扱い、どう伝えるか」。
司法医学者・大隅綾音と法曹家・魚住隆也の対話により、
**「創の証拠価値を高める技術と心」**を叙情的法学調で描きます。




