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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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71/123

第47節 熊蟄穴 ― 証拠としての「傷」の法的位置づけ《手稿資料集:沈黙する証拠(Testimonium Tacitum)》

1. 表紙

2. 手稿一 「法的評価段階図 ― Diagramma Forense Vulneris」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「創と刑法構造の照応表 ― Tabula Juridica Vulneris」

5. 手稿四 「証拠能力評価表 ― Lex Probationis Vulneris」 

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「傷の存在とは、行為の記録である」」

7. 手稿六 「詩篇:沈黙する証拠 ― Testimonium Tacitum」

8. 手稿七 「図解:創の法的評価階層 ― Schema Forense Vulneris」

9. 結語 沈黙の中の秩序

 《手稿資料集:沈黙する証拠(Testimonium Tacitum)》


 ― 大隅綾音・魚住隆也 共著観察録 ―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅰ

 第47節 熊蟄穴くまあなにこもる

 証拠としての「傷」の法的位置づけ


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:地方裁判所/法医学教室書架前

 日:冬深し・氷雨・気温2.4℃


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Tacitum ― 沈黙之證』

 ───────────────────────────────


 手稿一 法的評価段階図 ― Diagramma Forense Vulneris


 図Ⅰ 創の法的評価プロセス


 ────────────────────────────────────────────

 Ⅰ.医学的段階  → 創の存在確認(形態・深度・方向)

 Ⅱ.法医学的段階 → 因果・時間・生前死後の判別

 Ⅲ.法的段階   → 構成要件該当性(故意・過失・正当防衛)

 Ⅳ.証拠法的段階 → 証拠能力・信用性・補強証拠との整合

 ────────────────────────────────────────────

 註:創は「事実の痕」から「法の文」に翻訳される過程で、倫理的意味を得る。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.47-2

 試料:右頸部多発鋭器創

 観察条件:照度1000lx/温度17℃


 所見:

 ・創縁:鋭利、整形、創角明瞭

 ・深度:35〜42mm(3箇所)

 ・方向:左後方→右前方へ交差

 ・防御創:前腕部に多数(深度3〜7mm)

 ・血液反応:凝固良好、生体反応あり


 解析:

 多方向からの刺撃および防御行動の痕跡を確認。

 被害者は初期に抵抗を試みたが、後方より致命的加撃を受けたと推定。


 結論:

 創の分布・角度・深度より、故意的反復行為が明確。

 刑法上の「殺意認定」構成要件(行為・結果・因果関係)を充足。

 ― 綾音(記)


 手稿三 創と刑法構造の照応表 ― Tabula Juridica Vulneris


 表Ⅰ 医学的創所見と刑法概念の照応


 医学的所見    │ 対応する刑法概念      │ 証拠上の役割

 ────────────────────────────────────────────

 生前創      │ 行為の存在         │ 加害の実在証明

 致死創      │ 結果発生          │ 因果関係立証

 防御創      │ 被害者の抵抗・正当防衛関係 │ 心理的関係分析

 多発創      │ 強い故意・反復性      │ 量刑判断

 死後創      │ 証拠隠滅・偽装の意図    │ 犯行後行動の分析

 ────────────────────────────────────────────

 註:創の“形”は行為の記憶であり、法はその記憶を「意図」として再構成する。


 手稿四 証拠能力評価表 ― Lex Probationis Vulneris


 表Ⅱ 創の証拠価値判定要素(実務用指針)


 評価項目      │ 内容           │ 重視度

 ────────────────────────────────────────────

 ① 同一性      │ 創と凶器との一致性    │ ★★★★★

 ② 信頼性      │ 記録・保存・鑑定過程の透明│ ★★★★☆

 ③ 再現性      │ 観察条件の再確認可能性  │ ★★★☆☆

 ④ 整合性      │ 他証拠との整合      │ ★★★★☆

 ⑤ 倫理性      │ 記述文体・表現の節度   │ ★★★★★

 ────────────────────────────────────────────

 註:証拠とは、真実を語る“方法”であり、沈黙を破るための倫理である。


 手稿五 魚住注解 ― 「傷の存在とは、行為の記録である」


「綾音、創があるということは、行為があったということ。

 でも法は“痛み”を裁くのではなく、“構造”を評価する。

 そこに人間の複雑さがある」


「創を見るとき、僕たちは同時に“行為の意図”と“被害の記憶”を見ている。

 法廷はそれを秩序の言葉に置き換える場所」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:沈黙する証拠 ― Testimonium Tacitum


「傷は黙っている。

 しかし、その沈黙の内側には、

 行為の記憶が燃えている。


  法はその火を凍らせて、

 言葉の形に変える。


 そして、沈黙が法の声になる。

 それが、証拠という名の祈り」

 ― 綾音


「法廷とは、

 人の痛みを秩序に変換する装置。

 だがその奥では、

 いつも“理解されたい声”が響いている」

 ― 隆也


 手稿七 図解:創の法的評価階層 ― Schema Forense Vulneris


(模式図)


 ┌──────────────────────────────┐

 │   Ⅰ 生物的存在(生命現象)           │

 │     ↓                    │

 │   Ⅱ 物理的痕跡(創形態)            │

 │     ↓                    │

 │   Ⅲ 法的事実(構成要件要素)         │

 │     ↓                    │

 │   Ⅳ 証拠としての言語(鑑定書・供述)     │

 │     ↓                    │

 │   Ⅴ 倫理的判断(司法的価値)         │

 └──────────────────────────────┘


 註:創は階層的に“生”から“法”へと翻訳されていく過程を示す。


 結語 沈黙の中の秩序


 法は、痛みを直接扱うことはできない。

 だからこそ、言葉で構造化する。


 創は沈黙しているが、

 その沈黙の中に、秩序の声がある。


 司法医学者の使命は、

 沈黙の中の真実を、

 法の文体に翻訳することである。


 創を“見る”とは、

 人間の罪と哀しみを、

 理解という形で包むこと。


 ― 大隅 綾音(記)

 NEXT PAGE

 第48節 鱖魚群 ― 傷の評価の三段階、です。


――熊は穴に籠り、

創は静かに法の懐に眠る。

だがその沈黙の下で、

真実はなお、息をしている。

沈黙する証拠(Testimonium Tacitum)

「傷の評価の三段階 ― 科学・法・倫理をつなぐ法医学的証拠論」 を主題とする節、

第48節 鱖魚群― 傷の評価の三段階、へ。


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