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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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69/123

第46節 閉塞成冬 ― 再生と環境 ― 凍土の下の新陳代謝《手稿資料集:氷下再生録(Vita Sub Glacie)》

1. 表紙

2. 手稿一 「創の構造と証拠力対応表 ― Tabula Vulneris Forensis」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「鑑定書構造図 ― Diagramma Testimonii Vulneris」

5. 手稿四 「法的用語変換表 ― Lexicon Forense Vulneris」

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「証拠は語るためにある」」

7. 手稿六 「詩篇:創の声 ― Vox Vulneris」

8. 手稿七 「創の証言化プロセス ― Processus Vocis Vulneris」

9. 結語 沈黙する創の法

 《手稿資料集:創の声(Vox Vulneris)》


 ― 大隅綾音・魚住隆也 共著観察録 ―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅰ

 第46節 閉塞成冬へいそくしてふゆとなる

 創傷を「語る証拠」に変える技術

 法廷での傷の証拠評価 ― 証拠能力・鑑定書の書き方


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学医学部 法医学実験室

 日:寒中・気温1.8℃・北風強


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Vox Vulneris ― 創之聲』

 ───────────────────────────────


 手稿一 創の構造と証拠力対応表 ― Tabula Vulneris Forensis


 図Ⅰ 創観察要素と法的機能の対応


 観察項目    │ 医学的意味         │ 法的価値・証拠能力

 ────────────────────────────────────────────

 創縁(Edge)  │ 刃物の性状・角度・鋭利度   │ 凶器特定・行為態様推定

 深度(Depth)  │ 力の大きさ・貫通経路     │ 故意性/偶発性の判断

 方向(Orientation)│ 身体動作との関係      │ 加害者の位置・姿勢特定

 出血・浸潤(Bleeding)│ 生前/死後の鑑別    │ 死因・時間的推定

 癒合傾向(Healing)│ 時間経過・創縁変化    │ 事件時刻の裏付け

 ────────────────────────────────────────────

 註:創は「物理的証拠」であると同時に「心理的痕跡」であり、言葉の届かぬ証言者である。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.46-6

 試料:右前胸部鋭器創

 観察条件:照度800lx/温度19℃


 所見:

 ・創縁:鋭利、整然(両刃刀様)

 ・方向:上外方より下内方(傾斜角35°)

 ・深度:28mm

 ・出血:豊富、凝固良好

 ・組織断裂:規則的、鈍体介在なし


 解析:

 刃角・方向から正面右側からの単回加撃が推定される。

 被害者の姿勢は立位に近い。

 出血態様より生体反応あり、生前創と断定。


 結論:

 創は明確な目的性を帯びた一撃であり、

「ためらい創」所見を欠くことから、故意性の推認が妥当。

 ― 綾音(記)


 手稿三 鑑定書構造図 ― Diagramma Testimonii Vulneris


 図Ⅱ 鑑定書の三層構造モデル


【第Ⅰ層】観察記述:科学的客観性

 ↓(根拠)

【第Ⅱ層】分析・論理化:判断過程の明示

 ↓(解釈)

【第Ⅲ層】法廷叙述:理解と説得の言語化


 例:

「創深度2.8cm → 単一打撃 → 加害者正面右側 → 故意的刺突行為と判断」


 註:鑑定文は“科学の文体で感情を統御し、法の文体で事実を導く”ものとする。


 手稿四 法的用語変換表 ― Lexicon Forense Vulneris


 表Ⅰ 医学的所見と言語表現の変換例


 医学的語句    │ 法廷用表現              │ 提示目的

 ────────────────────────────────────────────

「刃の傾斜」   │ 「被害者に対し上外方からの加撃」   │ 姿勢・相対関係の説明

「深度28mm」   │ 「通常の致死深度を超え、強い刺突力」 │ 故意性の推定

「出血良好」   │ 「生体反応を伴う創傷」        │ 死因同定の補強

「創縁整然」   │ 「一回的・鋭器による明瞭な加撃」   │ 凶器類型の特定

 ────────────────────────────────────────────

 註:言葉の選択一つが「科学の沈黙」を「法の証言」に変える。


 手稿五 隆也注解 ― 「証拠は語るためにある」


「綾音、証拠は“見せる”ためではなく、“語らせる”ためにある。

 科学の観察は無機質でも、法は人間のために存在する。

 だから、創を語る言葉には温度が必要」


  「鑑定書は、事実と感情の境界を歩く書物だ。

 それは“詩と法の中間語”で書く」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:創の声 ― Vox Vulneris


「創は何も言わない。

 けれど、刃の冷たさが、

 言葉にならない叫びを刻んでいる。


 ためらいの欠片、力の方向、

 それらは血の中に潜む文脈。

 私たちはそれを読む。

 科学の眼で、

 そして、倫理の耳で」

 ― 綾音


  「創は沈黙の証人である。

 だが、法は沈黙を赦さない。

 だからこそ、

 言葉を与る」

 ― 隆也


 手稿七 創の証言化プロセス ― Processus Vocis Vulneris


 Ⅰ 現場観察 → Ⅱ 医学的解析 → Ⅲ 記述化

 → Ⅳ 法的翻訳 → Ⅴ 叙述整形 → Ⅵ 証拠提出


 各段階の目的:

 Ⅰ:感覚の正確化(見る)

 Ⅱ:構造の理解(考える)

 Ⅲ:表現の客観化(記す)

 Ⅳ:意味の変換(伝える)

 Ⅴ:倫理の統制(守る)

 Ⅵ:真実の提示(語る)


 結語 沈黙する創の法


 創は沈黙している。

 だが、沈黙とは拒絶ではなく、

 語るための余白である。


 司法医学者の仕事は、

 その余白に言葉を彫り、

 真実の形を浮かび上がらせること。


 法は冷たいが、

 その中に“理解されたいという声”が宿っている。


 創は、語られることを待っている。

 ― 大隅 綾音(記)


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 第47節 熊蟄穴― 証拠としての『傷』の法的位置づけ、です。

**「法廷における創の存在論」**を主題とした章――

第47節 熊蟄穴― 証拠としての『傷』の法的位置づけ

この節では、**「創を事実として認定する過程」=“傷の法的存在証明”**をテーマに、

私大隅綾音と魚住隆也が、「創をどう法が“見る”のか」「どのように“評価される”のか」を対話で掘り下げていきます。


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