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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第43節 虹蔵不見 ― 微生物と腐敗 ― 見えざる生が描く死の模様 《手稿資料集:虹の沈黙(Silentia Arcus)》

1. 表紙

2. 手稿一 「腐敗微生物相変遷表 ― Mutatio Microbiotica」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「腐敗環境マトリクス ― Tabula Corruptionis Naturae」

5. 手稿四 「隆也注解 ― 「死を再構築する生」」

6. 手稿五 「図解:腐敗ガス生成と色調変化の関係図」

7. 結語 見えざる虹の記憶

 

 《手稿資料集:虹の沈黙(Silentia Arcus)》


 ― 大隅綾音・魚住隆也 共著観察録


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅰ

 第43節 虹蔵不見にじかくれてみえず

 微生物と腐敗 ― 見えざる生が描く死の模様


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学医学部 法医学実験室

 日:晩秋・曇天・気温12.8℃


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Silentia Arcus ― 虹之沈黙』

 ───────────────────────────────


 手稿一 腐敗微生物相変遷表 ― Mutatio Microbiotica


 図Ⅰ 死後経過と微生物群集の推移


 経過時間 │ 主菌属       │ 生化学的活動     │ 外観的変化

 ────────────────────────────────────────────

 0〜12時間 │ 皮膚常在菌(Staph., Coryne.)│ 酸素代謝停止    │ 蒼白化・弛緩

 12〜36時間 │ 腸内菌(E. coli, Clostridium)│ 嫌気発酵開始    │ 膨張・緑斑形成

 36〜72時間 │ 腐敗菌群(Proteus, Bacteroides)│ 硫化水素生成    │ 黒緑化・臭気強

 72〜120時間│ 分解菌(Bacillus, Pseudomonas)│ 蛋白分解・液化   │ 光沢・変形

 7日以降  │ 真菌・土壌菌群     │ 乾燥・再平衡    │ 白灰化・沈静

 ────────────────────────────────────────────

 註:Clostridium → Bacillus 移行期(約96時間)は“生命再配置”の転換点とされる。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.43-7

 試料:腹部筋組織/腸管部混合サンプル

 温度:18.6℃ 湿度:68%

 経過時間:96時間


 所見:

 ・Clostridium perfringens 優勢(発酵泡沫形成)

 ・Proteus vulgaris 出現(臭気強)

 ・Pseudomonas菌膜生成(表層油状膜)

 ・pH変化:7.0→6.2


 解析:

 腐敗は崩壊ではなく、再構成の過程。

 菌群は“生の記憶”を形を変えて継承している。

 死体は微生物の画布であり、

 そこに描かれる模様は、自然による第二の肖像画。

 ― 綾音(記)


 手稿三 腐敗環境マトリクス ― Tabula Corruptionis Naturae


 表Ⅰ 温湿度と腐敗速度の相関


 温度(℃)│ 反応速度 │ 主変化         │ 視覚的所見

 ────────────────────────────────────────────

 5〜10   │ 遅延   │ 乾燥・硬化傾向     │ 淡灰・軽臭

 10〜20  │ 安定   │ 腐敗中等・ガス発生軽度 │ 灰緑・腹部膨張

 20〜30  │ 急進   │ 発酵・ガス膨張     │ 緑黒・臭気強

 30〜35  │ 極盛   │ 蛋白分解・脂肪液化   │ 暗褐・光沢膜形成

 湿度70〜80│ 最適帯域 │ 発酵+真菌発生     │ 白灰膜付着

 ────────────────────────────────────────────

 註:最適腐敗温帯=27℃前後/湿度70〜80%(微生物活性最大点)


 手稿四 隆也注解 ― 「死を再構築する生」


「綾音、腐敗を“終わり”だと思う人は多い。

 でも、これは“再構築”。

 生物が持っていた記憶を、

 微生物たちが分子の言葉で書き換えていく。

 つまり、死は再文書化(rewriting)」


「法はその文書を読むための辞書であり、

 それを読む心こそ、倫理」

 ― 隆也(注解)


 手稿五 図解:腐敗ガス生成と色調変化の関係図


 図Ⅱ ガス生成と色調推移


 時間経過 → ガス圧増大 → 腹部膨張 → 皮膚緑斑 → 紫黒化 → 収縮硬化


 主要反応:

 蛋白質 → アミン類 → H₂S/CH₄/NH₃ → 発泡・変色

(発酵線=生命活動の残響)


 註:ガス発生初期波(30〜40時間)は“死後呼吸”とも呼ばれる。


 手稿六 詩篇:虹の沈黙 ― Silentia Arcus


「虹が見えない空の下で、

 世界は光を失ったのではない。

 その光は、

 土の中で形を変えて生きている。


 微生物の息は、

 目に見えぬ彩の筆。

 彼らは沈黙の中で、

 死を生命の一部に描き直す。


 虹は空から消えたのではない。

 その色は、いま、腐敗の奥で微かに息づいている」

 ― 綾音


「死とは、光のもう一つの姿だ。

 見えないだけで、

 世界は今も多彩に生きている」

 ― 隆也


 結語 見えざる虹の記憶


 腐敗は、自然が死を色に変える過程。

 それは“終わり”ではなく、“再び描かれる始まり”である。


 顕微鏡の中で見えた細菌の運動は、

 まるで消えた虹の断片が、

 再び地上に戻ろうとしているかのようだった。


 虹が隠れる季節――

 それは、生と死の境界がもっとも穏やかに溶け合う季節でもある。


 ― 大隅 綾音(記)


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第44節 朔風払葉さくふうこのはをはらう ― 保存と時間 ― 永遠と腐敗の均衡、です。




**「保存と時間 ― 永遠と腐敗の均衡」**を主題とした叙情的法医学篇――

第44節 朔風払葉さくふうこのはをはらう ― 保存と時間 ― 永遠と腐敗の均衡

本節では、「腐敗の停止」と「時間の封印」を科学と詩の両面から描きます。

冷却、乾燥、化学固定、真空封入――それらは“死の静止術”であると同時に、

時間と永遠の均衡点を探る実験であり、倫理でもある。

私、大隅綾音と魚住隆也は、**「保存の美学と腐敗の真理」**を対話を通して追究します。


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