表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/53

第2節 よし芽吹いて風くすぐ 穀雨―やさしき雨音と取締役会の権限 【続き2】

第2節 よし芽吹いて風くすぐ 穀雨 ―やさしき雨音と取締役会の権限【続き2】は判例の具体的検討と、大隅健一郎氏の学説を引きながら、二人の対話を一層熱く展開させます。

ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。


 図書館の窓に流れる雨筋は、まるで時間の糸のように絶え間なく続いていた。

 静けさの中で、ページをめくる音と雨のリズムが重なり、私たちの議論はさらに深みへと進んでいった。


「条文上の整理は理解できるけれど……やっぱり現実との距離を感じるのよ」

 私はペンを握りしめながら言った。

「株主総会が“最高機関”であるはずなのに、取締役会が実質的にすべてを動かす。これでは株主の声が届かないじゃない」


 隆也は静かに笑みを浮かべ、判例百選を開いた。

「そのジレンマを象徴するのが八幡製鉄事件だね。株主総会が業務執行に関する決議をしたけど、最高裁は“取締役会の専権を侵す”として無効とした。あの判決は、株主の期待を切り捨てつつ、経営責任を取締役に集中させたんだ」


 私は唇を噛んだ。

「切り捨てる……そうね。制度が株主を守るためにあるのに、その声を封じてしまうなんて」


 隆也は真剣な眼差しで続ける。

「でも考えてみてほしい。もし株主総会が個別の業務執行まで介入できたら、経営のスピードは失われるし、株主の多数派の一時的な感情に会社が振り回されてしまう。だから法は、株主に“原則的にノータッチ”を強いる代わりに、代表訴訟や取締役解任という“後からのチェック”を与えている」


 私はしばらく黙り込んだ。雨音が胸に沁みる。

 そして静かに口を開いた。

「大隅健一郎先生も、こう書いていたわ。“取締役会中心主義は、株主の力を削ぐための仕組みではなく、責任を集中させるための仕組みである”。……でも、責任が集中しても、その責任を果たせなかったら?」


 隆也は頷き、資料をめくった。

「そこで次に重要なのが**ソニー事件(東京地判平成12年)**だ。あのときは取締役会が情報開示に関して判断を誤ったとして、株主から訴えられた。裁判所は、経営判断に広い裁量を認めつつも、“情報収集と検討を尽くしていたか”を厳しく問いただした。つまり、取締役会の権限は絶対じゃないんだ」


 私はノートにその言葉を写しながら、熱を帯びた声を返した。

「権限は絶対じゃない……。じゃあ結局、取締役会に求められるのは“誠実さ”なのね。制度の裏側に潜むのは、人間の良心だわ」


 隆也の目が柔らかく細められた。

「君はいつも制度の向こうに“人”を見るんだな。僕はどちらかというと制度の枠組みを重視するけど……君の言葉に触れると、法が血の通ったものに思えてくる」


 私は頬に熱を感じ、慌てて視線を窓の外に逸らした。

 雨粒が光を反射し、無数の小さな宝石のようにきらめいている。

 この雨音に包まれている限り、制度と感情が一つに溶け合っていくような気がした。

 《次回へ》

挿絵(By みてみん)

ようこそお越し下さいました。

ありがとうございます。

いかがでした?

次回は、第2節 よし芽吹いて風くすぐ 穀雨 ―やさしき雨音と取締役会の権限【続き3】内部統制義務と取締役会権限の限界をさらに掘り下げ、アメリカ・ドイツとの比較法的な視点を交え、二人の応酬をさらに白熱へと導き、制度の限界と人間的誠実さの必要性を強調します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。株主総会と取締役会、二つの関係性は、法律の条文に加え判例の蓄積によって輪郭を描いていくようで、とても興味深いです。 『窓に流れる雨筋は、まるで時間の糸のように絶え間な…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ