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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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53/53

第38節 霎時施 ― 原因器具の推定 ― 金属の影、刃の言葉 《手稿資料集:刃と金属の声(Vox Ferri)》

1. 表示

2. 手稿一 「刃の断面記録 ― Ferrum Geometria」

3. 手稿二 「金属分析表 ― Elementum Signum」

4. 手稿三 「創縁顕微観察ノート(綾音筆)」

5. 手稿四 「隆也注解 ― 道具と倫理のあわい」

6. 手稿五 「図解:刃圧と摩耗痕スペクトルの対応曲線」

7. 手稿六 「詩篇:金属の祈り ― Ferrum Oratio」

8. 結語 こさめの音の中で

《手稿資料集:刃と金属の声(Vox Ferri)》


― 大隅綾音・魚住隆也 共著・観察録 ―


表紙


───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅰ

  第38節 霎時施こさめときどきふる

   原因器具の推定 ― 金属の影、刃の言葉


  綾音観察記録・隆也注釈附

  於:大学医学部 法医学実験室

  日:霜止後雨/気温11.6℃


───────────────────────────────

 印章風題字:『Vox Ferri ― 刃之聲はのこえ

───────────────────────────────


手稿一 刃の断面記録 ― Ferrum Geometria


図Ⅰ 刃断面模式図(手稿写)


    /\     

   /  \    

  /    \     ← 刃角度:34° 

──┴─────────── 表皮層(創縁)

   ↑摩耗痕ピッチ 0.23mm

   ↑血滲痕線(創縁反転点)


解析:

・刃角34°→深創(角度30°以下では浅創)

・摩耗痕ピッチと創縁微線が完全一致

・反転点=加圧方向の変化=心理的動揺点


※創は力学と心理の重ね描きである。


手稿二 金属分析表 ― Elementum Signum


表Ⅰ 金属残渣成分分析結果(EDSスペクトル)


元素   │ 反応強度(×10⁻⁵)│ 分析所見

───────────────────────────────

Fe(鉄) │ 2.1      │ 主体金属、血液酸化層と結合

Crクロム│ 1.3      │ 防錆加工痕あり(SUS系)

C(炭素) │ 0.6      │ 高炭素鋼推定

Niニッケル│ 0.2      │ 混在低濃度、刃先補強材痕跡

───────────────────────────────

総合判定:SUS420J2相当のステンレス鋼製刃物と一致。

反応層厚=0.18μm(接触時間短・高圧瞬間接触)


手稿三 創縁顕微観察ノート(綾音筆)


観察No.38-14

創長:6.2cm 創縁:整 血滲:連続線状

皮下出血:均一/擦過痕なし

顕微分析:創縁微粒金属Fe+ Cr+反応陽性

摩耗痕ピッチ:0.22〜0.25mm


解析:

刃物は高炭素鋼製、酸化層薄。

創形成=短時間高圧力接触。

“躊躇い”なし。意識的・制御的行為。

→ 感情の沸点ではなく、理性による選択的動作。


            ― 綾音記


手稿四 隆也注解 ― 道具と倫理のあわい


「道具には意志がない。

しかし、使用者の意志は必ず金属の面に宿る。

その光沢は、その人の心の鏡である」


「刃の鈍さが赦しであり、

鋭さが祈りであることもある。

君の観察記録は、その“祈り”を言葉にしている。」

― 隆也(注解)


手稿五 図解:刃圧と摩耗痕スペクトルの対応曲線


図Ⅱ 刃圧・摩耗痕スペクトル解析図


刃圧(N)↑

│ / ̄ ̄ ̄\

│ / \

│ / \

│ / \_____

└────────────────────→ 刃進行距離(mm)


註:

・ピーク値:創中央部で7.4N

・末端部で急減(心理的制動点)

・Fe/Cr比の変動=刃先摩耗と圧変化の同調を示す。


手稿六 詩篇:金属の祈り ― Ferrum Oratio


「刃は命を奪うためではなく、

命を映す鏡として磨かれてきた。

それを握る人の心が曇れば、刃も曇る。

けれど、創を読む者が清らかであれば、

刃は再び“光”となる」

― 綾音




「我々は冷たい金属の中に、

なお温かい倫理の温度を探している。

それが法医学の“祈り”である」

― 隆也


結語 こさめの音の中で


雨は金属の声を洗い流し、

残るのは冷たい静寂だけ。


だが、その静寂の奥には、

刃の記憶が震えている。


それを聴き取る者がいる限り、

器具は凶器ではなく、証人として生き続ける。


             ― 大隅 綾音(記)


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第39節 楓蔦黄もみじつたきばむ ― 力学的機序の解析 ― 衝撃はどのように組織を破壊するか?です。

第39節 楓蔦黄もみじつたきばむ ― 力学的機序の解析 ― 衝撃はどのように組織を破壊するか?本節では、「創が生まれる瞬間に作用する力」――すなわち、衝撃・圧縮・剪断・引張といった物理的現象を、血液・筋肉・皮膚の内部構造から解析し、私と隆也との哲学的対話を通して「力と倫理の関係性」を照らします。


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