表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/55

第2節 よし芽吹いて風くすぐ 穀雨―やさしき雨音と取締役会の権限 【続き1】

春の雨がそっと大地を潤すように、私たちの議論もまた静かに広がっていきます。第2節「よし芽吹いて風くすぐ 穀雨 ―やさしき雨音と取締役会の権限」【続き1】では、条文解釈、会社法第362条の権限規定、判例紹介、大隅健一郎氏の学説の引用、二人の対話形式による熱い応酬を展開し、雨音に寄り添う午後、感情の揺らぎや互いへの信頼の芽生えを織り込みます。

ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。


 四月下旬、細やかな雨が糸のように降りしきっていた。

 大学図書館の大きな窓は水滴に覆われ、外の景色を滲ませている。

 キャンパスの桜はすでに散り、若葉がしっとりと濡れていた。


 私は法学部の閲覧室の隅に腰を下ろし、机いっぱいに資料を広げていた。

 六法全書、判例百選、そして大隅健一郎先生の論文集――そのページをめくるたびに、雨音と相まって心が静まり、しかし同時に熱を帯びていくのを感じていた。


「ここ、いい?」

 声に顔を上げると、隆也が立っていた。

 彼の手にもまた、分厚い会社法の参考書とノートが抱えられている。


「もちろん」

 そう答えると、彼は軽く会釈して向かいに座った。

 そして自然に、私たちの会話は始まった。


「株主総会と取締役会――条文だけ見れば明快な分担がされているように見えるけれど、実際はどうなのかな」

 隆也が六法全書を開きながら言った。


 私はページをめくり、指で条文をなぞった。

「会社法295条。株主総会は会社の基本的事項を決定する、とあるわ。でも具体的に何を決められるかは296条で“定款の変更、取締役の選解任、合併など重要事項”と限定されている。つまり、日常の経営判断には踏み込めない」


 隆也は頷いた。

「そして362条で、取締役会が業務執行の意思決定を専権的に担う。だから条文上、株主総会は“最高機関”と呼ばれても、実質は“限定的な決定機関”にすぎないんだ」


 私は思わず口を尖らせた。

「でも、それじゃあ株主の声が届かないじゃない。所有と経営の分離を前提にしても、あまりに隔たりすぎていない?」


 隆也は窓の外の雨を見やりながら、静かに言った。

「だからこそ判例が重要なんだ。例えば八幡製鉄事件(最判昭和42年7月20日)。株主総会が取締役会の専決事項に介入できるかが争われたけど、最高裁は“できない”と断じた。株主が経営に干渉することは、かえって混乱を招くと」


 私は息を呑んだ。

「株主が会社の“主人”であるはずなのに、その意思を直接経営に反映できない……制度って、なんて逆説的なのかしら」


 隆也は軽く微笑んだ。

「逆説だけど合理的でもある。大隅健一郎先生も“株主総会中心主義から取締役会中心主義への移行は、責任の所在を明確化するための必然”だと論じている。誰が会社を動かし、誰が責任を取るのか――その答えを条文は示しているんだ」


 私は資料を閉じ、胸に手を当てる。

「責任の所在……そうね。でも株主総会が“民主主義”を体現しているのなら、その声を軽んじるのは危うい気がするわ。制度の安定と民主的統制、その間で揺れ続けるのね」


 二人の視線は交差し、雨音に溶け合った。

 議論はまだ始まったばかり。

 けれど心のどこかで、私は確かに感じていた。

 ――この応酬が、彼と私の信頼を少しずつ育てているのだと。

 《次回へ》

挿絵(By みてみん)

ようこそお越し下さいました。

ありがとうございます。

いかがでした?

春雨に包まれた午後、株主総会と取締役会の関係をめぐる議論は、条文解釈と判例を交錯させながら熱を帯びていった。総会の“民主的統制”と、取締役会の“責任集中”――二つの価値の間に揺れる法学的ジレンマは、互いの心を近づける契機にもなりました。

次回は、第2節「よし芽吹いて風くすぐ 穀雨 ―やさしき雨音と取締役会の権限」【続き2】はさらに判例と学説を掘り下げ、制度の理想と現実の間を歩む二人の応酬を展開してきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ