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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第15節 菖蒲あざやか、帯しゅっと ― あやめ?杜若? パレスチナにおけるイスラエルの位置 【続き1】

第15節 菖蒲あざやか、帯しゅっと ― あやめ?杜若? パレスチナにおけるイスラエルの位置 【続き1】では、イスラエル建国とナクバをめぐる“法の空白”、 国際司法裁判所の“分離壁勧告意見”の意義、大隅健一郎的“法と信義”の視点そして“共感の条文”という大隅綾音の思想的結論を描きます。

ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。

挿絵(By みてみん)

     〚蒲郡の海です〛

 法と信義 ― 国際法の光と影、国連という“理想の殿堂”

  私はノートを開き、

  “United Nations Resolution 181”

  と、英語で書かれたコピーを眺めていた。

 隆也が、隣で口を開いた。

  「1947年11月29日。

  国連総会が採択した“パレスチナ分割決議”――第181号」

 彼は指先で文書をなぞりながら言った。

 “Independent Arab and Jewish States and the Special International Regime for the City of Jerusalem...”【註6】

「ユダヤ国家とアラブ国家、

  それにエルサレムの国際管理を提案した」

「平等な提案……のように見えるけれど?」

「理論上はね。

  でも、実際には土地の55%をユダヤ側に割り当てた。

  当時、ユダヤ人は人口の三分の一にすぎなかった」

 私は静かにノートを閉じた。

  「“理想の数字”が、“現実の痛み”を作るのね」

 隆也がうなずいた。

  「まさに大隅健一郎先生の言葉通りだ。

  “法の形式は、正義の仮面を被った計算である”」


【註6】 United Nations General Assembly Resolution 181 (II), 29 Nov 1947.

  イスラエルの建国根拠とされる決議。

  ユダヤ国家・アラブ国家の併存と、エルサレムの国際管理を規定。

  アラブ諸国はこれを拒否し、1948年の第一次中東戦争に発展した。

挿絵(By みてみん) 

     〚蒲郡の県立高校の実習船です〛

 建国と追放 ― ナクバの法的空白

「1948年5月14日、イスラエルが建国を宣言した」

  隆也の声が少し低くなる。

「その翌日、アラブ連盟軍が侵攻。

  戦争は短期に終わったが、

  70万人以上のパレスチナ人が追放された」

 私は地図を見た。

  ガザ、西岸、ヨルダン川の向こう。

  それぞれの土地が、難民キャンプの名で塗られている。

「……それが“ナクバ”。

  アラビア語で“大惨事”」

 隆也は静かに頷く。

  「でも、国際法はその“追放”を認めなかった。

  当時、まだ“人道に対する罪”という概念は限定的だったからね」

 私は唇を噛んだ。

  「でも、ニュルンベルク裁判で“人道の罪”が生まれたばかりじゃない?」

「そう。

  でも、ナクバの時にはまだ“国際刑事裁判所”は存在しなかった。

  個人責任を問う法の枠組みがなかったんだ」

「……つまり、法が遅れたのね」

「そう。

  いつも、人の苦しみの後ろを歩く」

挿絵(By みてみん)

     〚蒲郡の海です〛

 国際司法裁判所(ICJ)という希望

「2004年、国際司法裁判所は“分離壁”について勧告的意見を出した」

  隆也が一枚の文書を差し出した。

 Legal Consequences of the Construction of a Wall in the Occupied Palestinian Territory (Advisory Opinion, 2004)【註7】

「“国際法違反”と結論づけた。

  けれど、強制力はない」

 私はため息をついた。

  「……正義は存在するけれど、

  その手は届かないのね」

 隆也が頷いた。

  「それでも、意義はあった。

  “国際社会の道義的指針”として、

  法がまだ“見ている”ことを示した」

 私は窓の外の空を見上げた。

  「見ているだけでも、

  きっと、誰かを支えているのかもしれない」

 隆也が少し笑った。

  「綾音は、法を“希望”として見ているんだね」

「ええ。

  裁くためじゃなく、覚えておくためのもの。

  ……たとえ無力でも、忘れないための仕組み」

挿絵(By みてみん)

     〚遥か向こうに自動車運搬船です〛

【註7】 ICJ Advisory Opinion, 2004:

  国際司法裁判所による「パレスチナ被占領地の分離壁建設に関する勧告的意見」。

  イスラエルの壁建設を国際法違反(第49条違反)と判断したが、拘束力はない。


 国際法の矛盾と希望

「ねえ隆也。

  法って、どこまで“現実”に耐えられると思う?」

 隆也は少し考えて答えた。

  「法が現実に耐える必要はない。

  現実が、法を追いかければ」

 私は微笑んだ。

  「……まるで理想主義ね」

「大隅健一郎先生は、“法の理念は現実を超えてこそ意味がある”って言ってた。

  条文は、人間の弱さを前提にしてる。

  でも、それでも書くんだ。

  弱さの中に誠実があるって信じるから」

 私はその言葉を心に刻んだ。

  誠実――それはこの物語を通じて、

  私たちが一番多く口にしてきた言葉だった。

挿絵(By みてみん)

     〚行きつけです〛

 共感の条文

「もし、国連憲章を改正できるとしたら、

  何を入れたい?」

  隆也が問いかけた。

 私は少し考えて、

  ノートの隅に書いた。

 “Article 0 — Each nation shall study and understand the sorrow of others.”

「“他者の悲しみを学ぶ義務”」

 隆也は息をのんだ。

  「……それが“共感の条文”だね」

「うん。

  条文の中で、人の涙を想定してもいいと思う」

「でも、きっと実現は難しい」

「それでも書く価値がある。

  未来は、理想を描く人の手からしか始まらないもの」

 隆也は静かに笑った。

  「君のそういうところ、好きだな」

 私は頬を少し赤らめ、窓の外に視線をそらした。


 光と影の均衡

「ねえ隆也」

  「うん?」

  「もしイスラエルとパレスチナが本当に和解したら、

  国際法学者として何を記録したい?」

 隆也は少し目を細めた。

  「“正義は沈黙の中でも育った”って」

 私は微笑んだ。

  「沈黙の中で……?」

「うん。

 挿絵(By みてみん)

      〚定番です〛

  誰もが疲れ果てた夜、

  争いが止まるのは、正義じゃなく、

  “もう痛みを見たくない”という共感の限界」

 私は息をのんだ。

  「……それを、正義と呼んでもいいの?」

 隆也は小さく頷いた。

  「いいんだ。

  “完璧な正義”より、“人間的な休息”のほうが、

  ずっと現実的だと思う」

 私は彼の言葉に、

  人間の限界の優しさを見た。

 《次回へ》

挿絵(By みてみん)

     〚豊橋市賀茂神社の菖蒲園です(つもり……)〛

ようこそお越し下さいました。

ありがとうございます。

いかがでした? 

法とは、人の心の中にある秩序であり、その秩序は、理解と誠実の交わりによって育ちます。

法とは、正義を実現するための道具だと信じていた。でも――誰の正義? 誰の未来? 誰の涙を見ているのか?

あやめか、杜若か。似て非なる花のように、国も人も、互いに違いながら同じ水を分かち合う。理解の義務、生きた共感の条文――それは理想ではなく、人間の誠実への希望の回帰と信じていきたい。大隅綾音と魚住隆也の議論は、“人の学び”に変わっていくのでした。

次回は、第16節 半夏生の白いささやき − 美しく優しき日 「司法医の朝」です。叙情描写とともに、大隅綾音と魚住隆也の会話、司法医学実務の核心的な説明(死体検案・死亡診断の法的枠組み・記録作法・図説的要素)を織り交ぜ、静謐でありながら生命の余韻を感じさせる導入章として構成しております。

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