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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第13節 梅の実こつん―恋の音 東京裁判とパル判事を考察

その小さな音が、胸の奥に響きます。それは恋の予感のようであり、また人間の正義の問いのようでもありまさした。図書館の静寂の中、私と隆也は、英語で書かれた「極東国際軍事裁判判決書」と「パル判事意見書」を広げていた。“正義とは何か”――その問いは法を越えて心を揺らします。

梅と雨の香に包まれながら、私たちは過去と未来、そして互いの心を見つめはじめていたかな?

ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。


 六月の午後。

 梅雨が少しだけ途切れ、図書館の外は静かな陽射しに包まれていた。

 私は木の机に肘をつき、分厚い英語判決文のページをめくっていた。


 タイトルには、

 “The International Military Tribunal for the Far East”

 ――通称、東京裁判。

 あの日の世界が、紙の上でいまも呼吸しているようだった。


 隣では魚住隆也が、分厚いノートに小さな字で書き込みを続けていた。

 彼の指先の動きが規則正しく、まるで時を刻むように静かだった。


「ねえ隆也……」

 私は、ページの途中にある“Pal, J.”の署名を指さした。

「この人――パル判事。

 彼だけが“全員無罪”を主張したのね」


 隆也は顔を上げ、

「うん。彼は“victor’s justice(勝者の正義)”を拒んだ。

 彼にとっての法は、報復ではなく、人の良心に根ざした秩序だった」


「でも、それは理想論にすぎないと批判されたでしょう?」

 私は少し問い詰めるように言った。

「彼は歴史を、被害者の痛みを軽んじたと」

挿絵(By みてみん)

 隆也はしばらく黙っていたが、

 静かな声で言った。

「確かに。けれど彼は、罪を否定したわけじゃない。

 “裁く資格のない法”を批判しただけなんだ。

 ――戦争を裁くなら、まず人類全体が自らを裁かなければならない」


 私はその言葉を聞いて、胸の奥がざわめいた。

 風が窓をかすめ、梅の枝が影を揺らした。


 机の上に落ちた影が、ゆらゆらと揺れている。

「……法が歴史を裁く。

 その傲慢さに、パル判事は抗ったのね」


 隆也が頷いた。

「彼の意見書には、“真の法は道徳の中にある”と書かれていた。

 つまり法は、勝者や体制のためにあるのではなく、

 “弱者のために在るときにのみ、正義と呼べる”と」


「それって、大隅健一郎先生の教えと似ているわ」

 私は笑みを浮かべた。

「“誠実は、体制の外側に息づく”――そうおっしゃってた」


 隆也は少し目を細め、

「たぶん、二人とも同じものを見ていたんだろうね。

 法を道具ではなく、祈りのように捉えていた」


 私は英語の本文を指で追いながら、

 ひとつの文を声に出した。


  “If justice is to mean peace,

 it cannot be written by the hand of the victor.”


 ――正義が平和を意味するなら、

 それは勝者の手で書かれてはならない。


 声にした瞬間、胸が締めつけられた。

「……でも、誰かが裁かなければならない。

 そのとき、誰の手が“正しい”のか、どうやって決めるの?」


 隆也は少し俯いた。

「たぶん、誰も完全には正しくない。

 けれど、誰かが沈黙を破らなければ、歴史は語られない。

 パルは“沈黙を拒む裁判官”だったんだ」

挿絵(By みてみん)

 外では、青い空に浮かぶ雲が流れていた。

 梅の実が一つ、木から落ち、

 “こつん”と小さな音を立てた。


 私はその音に顔を上げた。

「……ねえ、いまの音」

「梅の実だね。」

「なんだか、心臓の音に似てた」


 隆也は静かに笑った。

「恋の音?」


 私は頬を赤らめて、視線を落とした。

「……そうかもしれないわ」


「なら、いい音だ」

「どうして?」

「恋も正義も、落ちるところから始まるから。」

挿絵(By みてみん)

 彼の言葉に、胸の奥で何かがほどけた。

 落ちる――それは敗北ではなく、

 地に根を張ることなのかもしれない。


 日が傾き、図書館の窓からオレンジ色の光が差し込んだ。

 ページの上に、文字の影が揺れている。


 私は最後のページをそっと閉じた。

「ねえ隆也。

 もし、あの時代に私たちがいたら――

 どんな“正義”を選んでいたと思う?」


 隆也はしばらく考え、ゆっくりと答えた。

「きっと君と同じ答えを選んでいたよ。

 法ではなく、人を信じる方の正義を」


 梅の香が、風に溶けて消えていった。

 その香りが、まるで約束のように胸に残った。

 《次回へ》

挿絵(By みてみん)

ようこそお越し下さいました。

ありがとうございます。

いかがでした?

梅の実が落ちるように、時の重みが静かに心に響きます。東京裁判とパル判事――“勝者の正義”を拒み、人間の法を信じた孤高の魂。その理念は、今も大隅綾音と魚住隆也の心を照らし、恋と正義の境界を滲ませていくかのようです。こつん、と響いた梅の音は、二人の心が寄り添う瞬間の合図だったのかな?

次回は、第14節 乃東枯れて影うすく― 夏至にて辛亥革命と孫文、では枯れるとは、命を手放すことではなく、次の季節へ力を蓄えること。大隅綾音と魚住隆也は、英語訳の『三民主義』を開き、孫文の言葉に触れていました。

「革命は破壊ではなく、道徳の再生である。」

その一文に、時代を超えた誠実が宿っているのです。



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