第1節 虹はじめて頬染む 清明 ―桜舞う廊下で、株主代表訴訟をめぐる邂逅【続き1】
第1節 清明 ―桜舞う廊下で、株主代表訴訟をめぐる邂逅【続き1】は、さらに法学的な二人の議論と感情を掘り下げ、二人の応酬を厚みのある内容へと深化させます。
ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。
廊下に舞った桜色の付箋を拾い集めながら、私たちの会話は自然と熱を帯びていった。
「株主代表訴訟って、やっぱり経営者にとっては怖い制度よね」
私は小さく笑いながら、散らばった資料を抱え直した。
「でも、その怖さがあるからこそ、取締役は自らを律する。株主は単なる出資者にとどまらず、会社の監視者でもあるのだと思うわ」
隆也は歩みを止め、真剣な眼差しで私を見つめ返す。
「それは理想論だよ。確かに株主代表訴訟は取締役の不正を防ぐ一つの手段だ。でも濫訴が増えれば、経営の自由は失われる。実際にアメリカでは、デリバティブ・スーツが濫用されて和解金ビジネスに変質した例もある。制度が健全に機能するには歯止めが必要なんだ」
私はその言葉を反芻し、胸の中で反論を形にした。
「でも、だからこそ日本では“請求前置主義”を置いたのよね。株主はまず会社に訴訟提起を求めて、それでも取締役が動かなければ裁判所に訴えることができる。制度的なフィルターはすでに存在しているわ」
隆也は口元にわずかな笑みを浮かべた。
「その通り。けれど実務を見れば、株主が少数派のときには会社に声が届かないこともある。制度の理想と現実のギャップは埋まっていない。……大隅健一郎先生も、“制度は人間の弱さを前提に設計されなければならない”と書いていたよね」
私は胸の奥が温かくなるのを感じた。
「ええ。先生の言葉に何度も救われたわ。株主代表訴訟の意義は、企業社会に民主的統制の芽を植え付けたこと。たとえ限界があっても、それは次の改革への踏み石になるはず」
窓から吹き込む春風に、再び桜の花びらが舞い込んだ。
一瞬の沈黙のあと、私は思い切って彼に尋ねた。
「隆也、あなたなら将来、株主代表訴訟をどう変える?」
彼はしばし考え込み、目を細めて答えた。
「僕なら、経営判断原則をもっと明確に位置づけたい。取締役が合理的に判断したなら、その結果が失敗でも免責される――そうしたルールが強く働けば、萎縮せずに挑戦できる経営が可能になるから」
私は頷きつつも、内心で反駁を練った。
「でもそれだと、結局は“経営者を守る制度”になってしまわない?株主の声が届かなくなる危険があるわ。……私は、むしろ情報開示を徹底して、株主が正しく判断できるようにすべきだと思う」
隆也は静かに笑みを返した。
「なるほど。やっぱり君は株主側に立って考えるんだな」
「ええ。あなたは経営者側?」
「いや、両方の視点を行き来したい。制度は常にバランスだから」
その瞬間、私は気づいた。
――議論の相手でありながら、彼は敵ではない。互いに異なる視点を差し出すことで、見えなかった景色が浮かび上がってくる。
まるで清明の光が、隠れていた影を照らし出すように。
「魚住隆也……。きっと、これからも議論でぶつかることになるわね」
「望むところだよ、大隅綾音」
ふたりの名前が初めてしっかりと交わされた瞬間、春の校舎の廊下には、これから続く長い物語の予感が満ちていた。
《次回へ》
ようこそお越し下さいました。
ありがとうございます。
いかがでした?
清明の廊下で交わされた最初の議論は、株主代表訴訟の意義と限界をめぐる応酬となり、制度と人間の在り方に光を当てました。互いに異なる視点を持ちながらも共に歩む予感――それはやがて学問の旅を共にする確かな契機となるでしょう。
次回は、第1節 清明 ―桜舞う廊下で、株主代表訴訟をめぐる邂逅【続き2】具体的判例、最判平成21年、取締役責任訴訟関連や海外制度比較 を学術的に二人の議論に厚みを増します。




