第6節 蚯蚓の糸、土の手紙 ―立夏の陽射しに照らされる機関設計の自由【続き1】
第6節 蚯蚓の糸、土の手紙 ―立夏の陽射しに照らされる機関設計の自由【続き1】では、立夏の眩しい光の下で、会社法における機関設計の自由をめぐる二人の熱い議論を、繊細かつ情感豊かに描き、委員会設置会社制度の趣旨、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の機能、アメリカのコーポレート・ガバナンスとの比較、近年の改正動向を交えて応酬をさらに展開します。
ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。
パラソル越しの陽射しは強く、白いノートの紙面を淡く照らしていた。
グラスの氷が溶ける音だけが、しばし沈黙を埋めていた。
「隆也……機関設計の自由って、結局どこまで許されると思う?」
私は問いかけながら、ノートに書き込んだ条文を指先でなぞった。
「会社法は大枠を示すだけで、多くを会社に委ねている。たとえば監査役を置かない代わりに会計監査人を置くこともできるし、委員会設置会社のようにアメリカ型の制度を導入することも可能だ。……つまり“自由”の射程は広い」
「でも、それは一方で“空白”を生まないかしら?」
私は少し強い口調になった。
「制度を選べるからこそ、最低限のチェックすら機能しなくなる危険がある。実際、中小企業の不祥事の多くは“機関が機能していなかった”ことに起因しているでしょう」
隆也は視線を落とし、ゆっくり言葉を継いだ。
「その危険を承知の上で、なお制度を柔軟にするのが立法の選択なんだ。形式的に同じ制度を強制しても、実効性が伴わなければ意味がない。むしろ多様性の中でこそ、各会社が自らに必要な仕組みを選び取るんだ」
「“選び取る”……それは理想よ。でも現実は、知識の乏しい創業者や経営者が法的リスクを十分理解できずに誤った選択をしてしまうこともある」
私はグラスを握りしめ、言葉を重ねた。
「自由を与えるなら、それを支える情報公開が必要なの。そうでなければ、自由は弱者に重荷を背負わせるだけになってしまう」
隆也は真剣な表情で私を見つめ、口を開いた。
「それはまさに、君が裁判官を目指す理由に通じるのかもしれない。自由と責任の均衡をどう保つか――その答えを探すために、法は存在するんだ」
私は胸が熱くなるのを感じながら、問いを重ねる。
「じゃあ、もし君が立法者だったら? 機関設計の自由にもっと制約を加える?それとも、より広く自由を与える?」
隆也は少し黙り込み、やがて真っ直ぐな声で答えた。
「僕なら……自由は広く認めたい。その代わりに、外部からの監視を強化する。投資家や債権者、従業員といったステークホルダーが会社を見守れる仕組みを整えたい。国家が全てを押し付けるのではなく、社会全体が企業を監視するんだ」
「社会全体の監視……」
私はその言葉を噛みしめる。
「それは美しい理想ね。けれど同時に、個人の責任が希薄化する恐れもある。誰もが“誰かが見てくれる”と考えたら、かえって内部の規律は緩むかもしれない」
隆也はふっと微笑み、しかし瞳は真剣なままだった。
「だからこそ、結局は人だよ。制度は人を支えるだけで、人が誠実でなければ機能しない。大隅健一郎先生が強調していた“制度と人の二重構造”――僕らが向き合っているのは、その永遠の課題なんだ」
強い光が雲間から差し込み、二人の影をくっきりと伸ばした。
光と影。自由と制約。制度と人。
私たちの議論もまた、その対立と調和を往復しながら、次の問いへと進んでいった。
《次回へ》
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ありがとうございます。
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第6節 蚯蚓の糸、土の手紙 ―立夏の陽射しに照らされる機関設計の自由【続き1】では、をさらに深掘りし、二人の応酬に「制度の自由の射程」「情報公開の必要性」「外部監視と内部規律」「人と制度の二重構造」といった新たな層を加えました。
次回は、第6節 蚯蚓の糸、土の手紙 ―立夏の陽射しに照らされる機関設計の自由【続き2】ではさらに「比較法的視点(米英独との対比)」や「近年の日本会社法改正の影響」 を盛り込み、実務的厚みを増した議論に発展させます。




