第4節 牡丹華やぎて想い燃ゆ ―若葉のごとく膨らむ利益相反取引論
牡丹華やぐ季節、若葉がふくらみ、緑が濃さを増してゆく。私たちの議論もまた、芽吹いた理論が枝葉を広げ、やがて重なり合う。利益相反取引という複雑な論点は、清らかな風のなかで、互いの価値観を映し出す鏡となり、未来を想わせる静かな揺らぎを生んでいます。
ここにお載せしておりますイラストは、私の言葉の羅列により、A.I.が作成してくれました。
四月の終わり。
陽射しは日に日に強さを増し、木々の葉は瑞々しい緑に包まれていた。牡丹の華やぎ――生命が充ちていく季節。その名の通り、キャンパスの空気は活力にあふれ、歩くたびに草の香りが足元に広がる。
私と魚住隆也は、大学の図書館から少し離れた中庭のベンチに腰を下ろしていた。風が吹くたび、枝葉が揺れ、若葉同士が擦れ合う音がかすかに響く。
「今日は、利益相反取引について考えてみない?」
私はノートを広げながら切り出した。
「会社と取締役が相対する――それは矛盾をはらんだ関係。だからこそ、会社法のなかでも最も繊細な部分だと思うの」
隆也は少し頷き、真剣な眼差しを向けてきた。
「確かに、取締役が会社と取引をするとき、自らの利益を優先すれば会社に不利益をもたらす。それをどう防ぐか――そこに制度の核心がある」
私は静かに息を整えた。
「会社法第356条、第365条……取締役が自己または第三者のために会社と取引を行う場合には、取締役会の承認が必要。つまり、取締役会が牽制装置として働くのよね」
「そう。ただし問題は、その取締役会自体にも利害関係者が含まれる場合があることだ」
隆也の声には、わずかに熱がこもっていた。
「例えば、社長が自分の会社と関連会社の間で取引を進めたいと考えるとする。そのとき、社長が議決に加われば、承認制度は形骸化する。だから実務では、特別利害関係人を除外して議決を行うことが求められるんだ」
「制度の網目をかいくぐろうとする意思を、どう抑えるか――それが難しいのね」
私はペンを走らせながら答えた。
「大隅健一郎先生は、利益相反取引の規制を、単なる手続的統制に留めてはならないと説いた。最終的には取締役の忠実義務――fiduciary duty の徹底こそが鍵だと」
隆也は少し笑みを浮かべ、空を仰いだ。青葉の間から差し込む光が、その横顔を際立たせていた。
「結局、人の誠実さに依拠する部分が大きいのかもしれないね。でも、だからこそ法が存在する。人の弱さを前提に、それを補う仕組みを築くのが法律なんだ」
私はその言葉に胸を打たれた。
風に揺れる若葉のように、私たちの議論は複雑に枝分かれし、時に交錯しながら、しかし確かに成長していた。利益相反取引論――それは矛盾を抱えつつも、正義と現実の均衡を探る営みなのだ。
ふと、隆也が少し声を落とした。
「綾音、君はもし将来、裁判官になったらどう判断する?」
その問いに、一瞬だけ心臓が跳ねるのを感じた。
「私は……株主や従業員、会社に関わるすべての人の信頼を守る判断をしたい。形式ではなく、実質を見抜く裁判官に」
彼は静かに微笑んだ。
「きっと君ならそうなれるよ」
若葉が膨らみ、夏を迎える準備を整えていくように、私たちの夢も少しずつ輪郭を帯びてゆく。
利益相反取引論は、ただの学説ではなく、私たち自身の誠実さを試す問いのように思えた。
《次回へ》
ようこそお越し下さいました。
ありがとうございます。
いかがでした?
陽射しに照らされながら交わされた利益相反取引論は、単なる制度論を超えて、誠実さとは何かを私たちに問いかけました。取締役と会社、その相克のなかで人間の弱さと強さが浮かび上がり、二人の心にもまた、揺るぎない芽生えが育ち始めています。




