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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第65節 桃始笑―転倒・搬送・圧迫による死後損傷《手稿資料集:静かな創(Testimonium Silentii)》

1. 表紙 

2. 手稿一 「死後損傷の分類 ― Tabula Lesionum Postmortalis」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」

4. 手稿三 「生前損傷との鑑別表 ― Tabula Comparativa」

5. 手稿四 「補助手法 ― Histochemical and Infrared Diagnostics」

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「沈黙の創を読む」「」

7. 手稿六 「詩篇:静かな創 ― Testimonium Silentii」

8. 手稿七 「司法記録文例 ― Relatio Lesionum Postmortalis」

9. 手稿八 結語 ― 沈黙の中の証言


 《手稿資料集:静かな創(Testimonium Silentii)》


 ―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

 第65節 桃始笑ももはじめてさく

 転倒・搬送・圧迫による死後損傷


 綾音観察記録・隆也注釈附

 於:大学 医法融合研究棟 生体痕跡解析室

 日:春の陽光に桃の蕾ふくらむ日


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Silentii ― 静謐之創』

 ───────────────────────────────


 手稿一 死後損傷の分類 ― Tabula Lesionum Postmortalis


 図Ⅰ 転倒・搬送・圧迫による死後損傷の体系


 ────────────────────────────────────────────

 類型      │ 特徴                   │ 主な発生状況

 ────────────────────────────────────────────

 転倒痕     │ 擦過・表皮剥離・血液滲出乏       │ 搬送時落下・移動中衝突

 圧迫痕     │ 皮下脂肪変形・出血斑なし        │ 担架・拘束具・衣類圧迫

 搬送損傷    │ 肩・背・腰部に集中           │ 救助・体位変換時

 死後骨折    │ 乾裂端・血液付着なし          │ 衝撃・転落・搬送時

 ────────────────────────────────────────────

 註:死後損傷の決定的特徴は「循環反応の欠如」である。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.65-C

 試料:右上腕皮下圧迫痕(Case ID:M66-5)

 状況:搬送時圧痕(救助後)


 肉眼所見:

 ・皮膚淡褐色楕円形圧痕。

 ・出血・腫脹なし。

 ・形態が担架ベルト幅に一致。


 組織所見:

 ・真皮下血管破綻なし。

 ・好中球浸潤およびフィブリン沈着を欠く。

 ・脂肪球圧排痕軽度。


 判定:死後圧迫痕。

 生命反応を示さず。

 ― 綾音(記)


 手稿三 生前損傷との鑑別表 ― Tabula Comparativa


 図Ⅱ 生前・死後損傷の対比所見


 ────────────────────────────────────────────

 項目      │ 生前損傷              │ 死後損傷

 ────────────────────────────────────────────

 血液反応    │ 滲出・凝固塊形成           │ 無出血・乾燥

 炎症反応    │ 好中球・マクロファージ出現      │ 欠如

 皮下組織    │ 血腫・壊死・紅暈形成         │ 圧排のみ・壊死欠如

 骨折      │ 血液浸潤・髄内凝固          │ 乾裂端・血痕なし

 創縁      │ 腫脹・紅暈・弛緩           │ 蒼白・硬直・乾固

 ────────────────────────────────────────────

 註:炎症帯および紅暈の欠如は死後損傷の確実な鑑別点。


 手稿四 補助手法 ― Histochemical and Infrared Diagnostics


 表Ⅰ 死後損傷確認に有用な検査手法


 ────────────────────────────────────────────

 項目      │ 検査法         │ 所見/鑑別指標

 ────────────────────────────────────────────

 鉄沈着(Perls) │ 鉄染色        │ 陰性=血流反応なし

 赤外線撮影   │ IR/熱分布解析    │ 温度均一=循環停止後形成

 弾性試験    │ 皮膚圧痕回復率    │ 回復遅延=死後硬直進行

 血液凝集反応  │ 試験滴定       │ 陰性=死後形成

 ────────────────────────────────────────────

 註:死後硬直下での圧迫痕は再現性高く、死後操作検証に用いられる。


 手稿五 隆也注解 ― 「沈黙の創を読む」


「綾音、

 死後の創は、

 まるで“風が通り抜けたあと”。

 何も返らない。


  その沈黙の形を見れば、

 誰がどう触れたかが見えてくる。

 それが優しさだったのか、

 それとも暴力だったのか。


 綾音と僕は、

 その“触れ方”の温度を読む」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:静かな創 ― Testimonium Silentii


 春風が頬を撫でても、

 この皮膚はもう反応しない。


 けれどその静けさの中に、

 誰かの“手の跡”が残っている。


  抱かれた痕、

 担がれた痕、

 運ばれた痕。


 どれもが、

 無音のままに、

 それぞれの“意図”を語っている。」

 ― 綾音


「死後の創は沈黙している。

 でも沈黙の中に、

 最後の温もりが残る」

 ― 隆也


 手稿七 司法記録文例 ― Relatio Lesionum Postmortalis


【鑑定意見】


 右上腕圧迫痕は淡褐色楕円形を呈し、出血・紅暈・腫脹を認めず、

 組織学的に血管破綻および炎症細胞反応を欠く。

 圧痕形状が搬送用担架ベルト幅と一致し、位置的整合性を有する。


 赤外線撮影により温度分布の均一性が確認され、

 循環停止後の形成を裏付ける。


 以上を総合し、本圧痕は死後搬送時に生じた機械的圧迫痕であり、

 暴行または生前外力による損傷ではない。


 司法解剖医 大隅 綾音


 手稿八 結語 ― 「沈黙の中の証言」


 転倒痕も、圧痕も、

 それをつけた手の意図までは語らない。


 だが――司法医学者は、

 沈黙の創の中に“触れ方”の記憶を見出す。


 暴力か、救助か。

 無関心か、優しさか。


 科学は冷静に、

 けれど人間の眼で、

 その温度を読み取らなければならない。


 ――桃始笑。

 花のように柔らかく、

 静かな創の記録は、春風に似ていた。


 ― 大隅 綾音(記)


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