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OVER TAKE ❦ 大隅綾音と魚住隆也 ❦ ともに行こう!  作者: 詩野忍


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第64節 蟄虫啓戸―火傷痕(Burn Lesions)の死後鑑別《手稿資料集:熱の声(Testimonium Caloris)》

1. 表紙

2. 手稿一 「火傷層構造と死後変化 ― Tabula Stratificationis Combustionis」

3. 手稿二 「観察記録(綾音筆)」 

4. 手稿三 「生前・死後火傷の鑑別表 ― Tabula Comparativa」

5. 手稿四 「免疫・分子解析補助手法 ― Methodus Molecularis」

6. 手稿五 「隆也注解 ― 「熱の呼吸を読む」」

7. 手稿六 「詩篇:熱の声 ― Testimonium Caloris」

8. 手稿七 「司法記録文例 ― Relatio Combustionis」

9. 手稿八 結語 ― 熱が記録する、生の証

 《手稿資料集:熱の声(Testimonium Caloris)》


 ―大隅綾音・魚住隆也 共著観察録―


 表紙


 ───────────────────────────────

 司法医学図説・実務編Ⅱ

 第64節 蟄虫啓戸ちっちゅうこをひらく

 火傷痕(Burn Lesions)の死後鑑別


 綾音観察記録・魚住注釈附

 於:豊橋大学 医法融合研究棟 熱損傷解析室

 日:春陽の差す実験台にて


 ───────────────────────────────

 印章風題字:『Testimonium Caloris ― 熱之聲』

 ───────────────────────────────


 手稿一 火傷層構造と死後変化 ― Tabula Stratificationis Combustionis


 図Ⅰ 生前火傷と死後火傷の層構造比較


 ────────────────────────────────────────────

 層区分      │ 生前火傷              │ 死後火傷

 ────────────────────────────────────────────

 表皮層      │ 水疱形成・漿液滲出        │ 乾燥・炭化・収縮

 真皮層      │ 血管拡張・炎症細胞浸潤      │ 空虚化・凝固変性

 皮下脂肪層    │ 出血・線維変性          │ 脱水・硬化・脂肪融解

 毛根・汗腺    │ 核染色性あり・熱変性軽度     │ 完全炭化・核陰性

 ────────────────────────────────────────────

 註:核染色性の有無と血管拡張像が生死の主要鑑別点。


 手稿二 観察記録(綾音筆)


 観察No.64-A

 試料:胸部皮膚火傷(Case ID:L65-2)

 状況:焼損遺体(右胸部部分炭化)


 肉眼所見:

 ・炭化面乾固。水疱形成を欠く。

 ・亀裂線明瞭、熱亀裂周辺に皮膚剥離なし。


 組織所見:

 ・表皮完全消失。真皮層に凝固壊死。

 ・血管腔空虚、赤血球流出なし。

 ・核染色性欠如、炎症細胞浸潤認めず。


 判定:死後火傷。

 生命反応(炎症帯・充血)を欠く。

 ― 綾音(記)


 手稿三 生前・死後火傷の鑑別表 ― Tabula Comparativa


 図Ⅱ 火傷痕の生死鑑別所見一覧


 ────────────────────────────────────────────

 項目      │ 生前火傷              │ 死後火傷

 ────────────────────────────────────────────

 血管所見    │ 充血・血球充満           │ 空虚・凝固残渣

 炎症反応    │ 好中球・マクロファージ浸潤     │ 反応なし

 水疱形成    │ 漿液性・内容液あり         │ 乾燥・空虚

 組織変性    │ 核染色性あり・線維変性軽度     │ 核消失・炭化

 紅暈(flare)  │ 明瞭な炎症帯            │ 欠如・輪郭硬直

 ────────────────────────────────────────────

 註:紅暈と核染色性残存は生前反応を示す決定的徴候。


 手稿四 免疫・分子解析補助手法 ― Methodus Molecularis


 表Ⅰ 生前火傷反応を検出する分子指標


 ────────────────────────────────────────────

 検出項目     │ 検出方法           │ 生前反応指標

 ────────────────────────────────────────────

 CD15, MPO     │ 免疫染色           │ 好中球活性の存在

 IL-6, TNF-α    │ RT-PCR/免疫染色      │ 炎症性サイトカイン上昇

 COX-2 mRNA    │ 定量PCR           │ 生体反応の時間経過推定

 HSP70       │ 免疫染色           │ 熱ストレス応答陽性

 ────────────────────────────────────────────

 註:HSP70陽性反応は「熱を感じた細胞」の存在を証す。


 手稿五 隆也注解 ― 「熱の呼吸を読む」


「綾音、

 火傷は“呼吸”をしている。

 生きてる間に受けた熱は、血液が動いて反応する。

 死後に受けた熱は、ただの沈黙。


  細胞がどれだけ“暑かった”か、

 その声を拾うのが、綾音と僕の仕事。

 熱の中にも、倫理がある」

 ― 隆也(注解)


 手稿六 詩篇:熱の声 ― Testimonium Caloris


「焦げた皮膚の奥に、

 まだ息づく光がある。


 炎の舌が肌を舐めたあとに、

 細胞が一瞬、叫ぶ。


 その叫びが、

 科学の中で生き延びる。


 熱は残酷で、

 けれど正直だ。


 私はその正直さを、

 一行の報告に変える」

 ― 綾音


  「熱は記憶する。

 そして、沈黙の中で語り続ける」

 ― 隆也


 手稿七 司法記録文例 ― Relatio Combustionis


【鑑定意見】


 胸部皮膚火傷は乾固・炭化を呈し、水疱形成および紅暈を認めない。

 組織学的には真皮層膠原線維の凝固壊死、血管腔空虚、核染色性欠如を確認し、

 好中球・マクロファージ等炎症細胞の浸潤を認めない。


 免疫染色(CD15・HSP70)においても陰性所見を示し、

 生体反応の欠如を裏付けた。


 これらの所見を総合し、本火傷は死後受熱による損傷と判断する。


 司法解剖医 大隅 綾音


 手稿八 結語 ― 「熱が記録する、生の証」


 炎は、生命を焼くだけではない。

 そこに残る“反応”は、生きていた証明である。


 科学が読むのは、

 焦げた皮膚の向こうにある「記憶」。


 それは倫理と慈悲の両方を宿した光。


 ――蟄虫啓戸。

 冬を抜けて虫が扉を開くように、

 熱の痕跡は、生と死の間の扉をそっと開く。


 ― 大隅 綾音(記)


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