ショッピングモールでの珍事件 後編
「千草?なにしてるの」
振り向くと大学生、いや高校生だろうか、千草のことを呼ぶ女性がいた。
「初めまして。えっと」
「私、千草の彼女です」
女性は少し不機嫌そうにしている。それに対し桃華は、彼女いたの、と驚きの声を上げた。どうやら千草は彼女がいたことを言っていなかったらしい。そんな桃華の驚いた表情を見た女性は
「私にもこの人にも隠してたなんて最低」
と怒りをあらわにした。
「あなたも被害者なのね。本当に最低。よくこんなことできたね」
どうやら桃華を千草の彼女と勘違いし、浮気をされたと思っているようだ。これには恋愛のいざこざが大好きな桃華は千草の困っている様子をたまには見たいものだといたずら心が働かせ、少々小芝居を始めた。
「ちーくん、この人彼女なの?私のこと何よりも大事って言ってたのに」
確かに千草は恋人よりも家族を大切にしているため間違ったことは何一つ言っていない。しかし、そんなことを知らない彼女には火に油だ。
「なんか言いなさいよ」
「いや、妹だよ」
そう言い返しても、妹にあーんされて喜んで食べる?、とまさか自分の彼氏がシスコンだと夢にも思っていない彼女は言い放った。例え本当に妹だと信じても多分この女性は別れを切り出すだろう、そう直感的に千草は思った。何故そう思ったのかはわからない。今までの経験からだろうか。もしかしたらこの女性はそんな自分も受け入れてくれるかもしれない。そんな希望を胸に残しつつあっさり終わりを切り出した。
「あんたには分からないと思うし、分かられたくもないな。ねえ、別れない?多分もう無理な気がする」
時が止まった。一秒、二秒、三秒。気まずい空気が流れた。そんな中最初に口を開いたのは桃華だった。
「私ちょっと揶揄っただけで本当に妹なんです。ちぐ兄も本当に別れるの?話し合ってみなよ」
そう千草に訴えたが、無理だよ、と呟くだけだった。彼女は目に涙を浮かべ逃げるようにこの場を去った。千草は泣くどころか少しホッとした表情をしていた。
「ちぐ兄って恋愛下手だよね」
「そうだね、もうやめたいよ。でも告られたら断れないんだ」
「知ってる」
知っている。桃華はこれまで何度も千草の付き合った報告と別れた報告を聞いてきた。でも別れ際は見たことがなかったため、酷く驚いている。酷い男だ、と彼女に同情する。
「彼女、同級生?」
もう一度彼女に会えないかと考えた桃華はそんな質問をした。
「いや、一個下で卒業のときに告られた」
「じゃあまだうちの学校にいるんだ」
兄妹で同じ高校に通っているため、また彼女と会える可能性を感じた。
* * *
(えー、この空気の中戻るの気まずいよ)
考えが一致したのか影から見ていた紬希と兎作は顔を見合わせ、困った顔をしていた。どうしたものか。お手洗いから戻ってみたら、ちぐ兄がとか姉にあーんされてて羨ましいーとか思ってたら?知らない女性が話しかけてなんかちぐ兄の彼女らしくて?その数分、もしかしたら数秒後には別れると言ってて。意味がわからないよ。どうゆう状況だよ。どんな顔して戻ればいいんだよ。つむ兄なんて焦りすぎて「あばば…」なんて漫画みたいなセリフ言っちゃてるよ。…よし、見なかったことにしよう。何事もなく、今戻りましたーみたいな雰囲気で行こう。そうしよう。そう思い二人に近づいた。
「お待たせー、メイク直しに時間かかっちゃって」
「嘘、そこで見てたの知ってるよ。心配そうにしてたのが見えたもん」
バレてたー。普通に見られてたー。え、そっちの方が気まずい気がする。なんて思ってたら、桃華はこの空気を察してか
「とりあえず、今日は帰ろう。買いたいものは買えたし、ね?」
と帰宅を促した。確かにこの空気感で買い物は正直続けたくなかったから、全員頷いて帰路についた。
* * *
帰宅してからも四人は静かで千草と紬希は耐えられなかったのかそそくさと自室へ行ってしまった。取り残された二人も買ったものの整理やら、各々のやるべきことをした。そんなこんなで今日という一日が終わった。この空気が次の日へと持ち越されることはなかったが、この日の出来事が千草の何かを変えるきっかけとなった。