ショッピングモールでの珍事件 前編
車を走らせ数分後———
「着いたよ、みんな」
そう千草が言い、着いたのはこの辺りでは有名なキュアールというショッピングモール。駅からのアクセスもしやすく住宅地からも近い、この辺りに住んでいてここを知らない者はいないほどの所だ。それだけの場所だと知り合いに会う確率は高く、デートなどには向いていないことも有名な話だ。桃華たちも小学生のころからよく来ていてお世話になっている場所だ。今日も慣れた足取りで目的のものが売っている店まで向かう。
向かった先は今も桃華が着ている服が売っているお気に入りの服屋だ。主にレディース向けの服を取り扱っており、フリフリとした可愛らしい服から、王子様を連想させるような服や和や中華をイメージしたものなどいろいろな種類の服がある。服一つ一つが凝っておりあれもこれもと買っているとそれなりの値段はするがそれに相応しい仕上がりで桃華はバイト代が貯まるとすぐに買いにきてしまうほど気に入っている。
「今度推しのライブがあってそのコンセプトが中華なんだよねー」
と上機嫌で服を探し始めた。服にあまり興味を持たない千草と紬希は店の外で二人を待ち、おしゃれ大好き人間の末っ子兎作は桃華に付いて一緒に服を見に行った。
「この服とかとか姉が持ってるスカートに合うんじゃない」
と黒の中華をイメージした服を桃華に渡した。
「確かに可愛いんだけど、ライブには暗い気がする」
「あー、そっか。じゃあ白とかいいんじゃないかな」
そう言って兎作は隣に置いてあった先ほどの白バージョンのものを渡した。
「これならいいかも」
桃華はその服を気に入ったようでライブ当日が楽しみだと呟いた。他の服を見ると欲が出てしまうため、極力見ずに会計へ向かった。
会計が終わり、満足げな顔で待っている二人の元へ向かった。お待たせ、と軽く会話を交わすと紬希が本屋に行きたいと言ったので次の目的地が本屋に決まった。紬希は今年受験生だったため参考書が欲しいのだろうと思った。
「何を買うの?」
「え、と、、、漫画、、、」
少し気まずそうに答えた。多分参考書を買うんだろうと思っていることに気づき、申し訳なくなったのだろう。
(漫画か。まあ、受験生といえどオタ活はやめられないよね)
桃華はそう思ったところで気づいた。今日が最新刊の発売日ということに。
「やば、今日新刊の発売日じゃん。この日を楽しみにしてたのになんで忘れてたの」
と自分を責めていると本屋に着き、急いで新刊売り場へと向かって行った。残ったのは、桃華は忙しいんだなと謎に感心する千草と、僕はそんなヘマしたことないと心の中で自慢する兎作だけ。特に話す内容もなく二人とも黙っていると、ぐうーという音が兎作からした。
「もうお昼だもんね、二人の買い物が終わったらご飯にしよっか」
と恥ずかしがっている兎作に千草が話しかけた。
少しして二人が戻ってくると顔を赤くした兎作とそれを見てニコニコしている千草がいて、何をしているのか尋ね、状況を理解した二人も可愛いなと思いつつフードコートへと向かい始めた。
* * *
食事が終わり、お手洗いに行きたいと紬希と兎作は席を離れ、千草と桃華は二人を待っていた。
「桃華はお手洗い、いいの?」
「うん、メイクも今は直すほど崩れてないし。それよりちぐ兄、私あれ食べたい」
と指された先にはクレープ屋があった。食後にまだ入るのかと思いつつ許可を出した。わーいと喜んでクレープを買いに行き、戻ってきた桃華はチョコがたくさんのクレープを頬いっぱいに詰め込み
「幸せ、、、ちぐ兄にもはい、あーん」
そう千草に食べさせようとすると、
「千草?何してるの」
と声をかけられた。振り向くと桃華くらいの年齢の女性がいた。