四人兄弟の日常
その日、全ての想いを抱えて———
飛び降りた。
* * *
「は…っ」
と息を切らしながら桃華は目を覚ました。とてもリアルな夢だった。飛び降りなんかしたことないのに落ちていく感覚、視線の先にあった景色が脳裏に焼き付く。
(夢…だよね…?)
夢を夢と感じさせないそれを早く消し去りたいと思い洗面台へと向かう。
「おはよう…ってすごい汗、どうしたの?」
洗面台に向かう途中弟の兎作に声をかけられた。随分心配した顔だ。そんな酷い顔なのかと思いつつ嫌な夢を見ただけだと伝え顔を洗いに行く。兎作はそれ以上は聞かずリビングへ戻って行った。
* * *
顔を洗うと幾分かスッキリしていつもの調子へ戻ってきた。
「おはよう」
と元気よく言うと兄の千草ともう一人の弟の紬希、そしてさっきすれ違った兎作もおはようと返してくれた。
「今日は起きるの遅かったね」
「遅くまでゲームしちゃった」
たわいのない話を千草とする。ふと、両親がいないことに気づき兄弟たちにきく。
「今日お母さんとお父さんいないの?」
「昨日の仕事が終わらないんだって」
「えーまたー?」
この美神家の当主とその旦那は今日も仕事が忙しく家に帰っていなかった。そのことに少し残念がっていた桃華は今日が休日だということに気づき、いきなり「買い物に行こう」と言い出した。
「もうこの際二人のことは気にせず、みんなで買い物に行かない?」
正直両親に会いたい気持ちはあったが仕事を優先して欲しかったため、兄たちとの買い物で気を紛らわせることにした。今日は出かける予定がなかったためみんな部屋着だったが、全員もれなくブラコン、シスコンだったため急いで支度を始めた。
「とか姉(桃華)たちと出かけるならおしゃれしないと」
と張り切って自室に戻った兎作に対し、「おしゃれとは…?」な性格の紬希は少ないバリエーションの中から今着ているものと何が違うのかわからないような服にいつも着ているパーカーを上に羽織って準備完了のようだ。一方千草は本当につい最近まで高校生だったのか疑うほど大人びた顔立ちをしているためそれに見合う服を着ている。端的に言えば様になっているということだ。
数十分後。おしゃれ大好き人間の桃華は高校生さは残しつつ少し大人っぽい雰囲気の服にそれに合う大人っぽいメイクをしている。そしてまたもおしゃれ大好き人間の兎作は性別こそ男であるが本当に男なのか疑うほど中性的な格好にこれまた中性的なメイクをしている。四人が集まるとオーラがあり、少し近づき難い。これから行くのはショッピングモールだというのにパーティに行くかのような雰囲気だ。
「よし、準備万端。行こう」
と元気よく桃華が言うと千草が車のエンジンをかけ、目的地へと向かった。
美神家は婿養子です。