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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第六章 ただいま
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第二節

 戦場を駆けるジーノの潜水艦は、魚雷と敵潜水艦の間を縫い、幽霊鯨近辺を駆け巡る。

 だが、乗り込むとなると、ジーノの操縦技術を持っていても、そううまくは行かなかった。

 何より、数が多い。

 幽霊鯨率いる潜水艦は潜水艦の機能を完璧に破壊しないと、ゾンビが不死のため何度も攻撃してくる。

 魚雷がなくなれば身を挺して突進。

 死に物狂いで、ジーノを落とそうとしに来ていた。

 ドクトルがジーノの動きに合わせて、魚雷や辛草鉄砲を使いフォローを入れてるが、敵地の真ん中ということもあり、限界がある。


「ジーノ、そっちの方まで行くと、前線が下がってるから、フォローできないって」

「わかった。いったん戻る」


 リタを通じて、ドクトルと連携できてるが、それでもうまくいかない。


「西側が今、手薄みたい。そっちの方で合わせようって」

「移動している間に固められる。いったんここでいい」


 思考錯誤している間に突如、ジーノの通信機がなった。

 その音にジーノは驚く。

 聞きなれた音で、勝手に繋がることがない。普通の通信。深海では決して鳴ることがない音だった。

 ジーノは通信機を手に取る。


「こちら、ジーノ・トゥレイス」

「どこ、ほっつき歩いてるのこの馬鹿あああああああ!!!!!」


 耳が弾けるような爆音が、潜水艦内に響いた。

 これにはリタもびっくり。


「マリン様、なんでいるんですか」

「なんでも、くそもないでしょ。それに第一声がそれ!?あり得ない」

「それは…… 謝ります。すいません」


 さすがのジーノもマリンの心境を察し、謝罪した。

 ジーノは深海に落ちる前、幽霊鯨に撃ち落とされている。普通なら死んでいるだろう。


「今すぐ、帰還しなさい。命令です」

「嫌です」


 緊迫した空気が潜水艦内に漂った。


「あなたが幽霊鯨に乗り込もうとしているのは、知ってます。しかし、それは今じゃありません。討伐隊が作られたらあなたを抜擢します。その約束のはずです」

「マリン様。現状こちらは、ゾンビを無力化する方法を有しており、さらに、幽霊鯨を倒す方法も判明しております。かつてないほど、戦況は有利です」

「ジーノが何を知ってるか知りませんが、私は人命が優先だと言ってるのです。今すぐ帰還しなさい」

「嫌です」


 どんと何かを叩く音が通信機から聞こえた。同時に、マリンの悲痛な叫び声が聞こえてきた。


「なんで、いつも、言うこと聞いてくれないの!!!」


 どんどんどんと台パンする音が通信機から響く。


「ジーノ、誰だかわからないけど、あんまり困らせない方が」

「俺も今回は悪いと思ってる」


 ジーノは気まずそうに目を反らす。


「じゃあ、帰ってきてえええ。心配なのおおお」


 泣きじゃくるマリンの声が聞こえていた。


「ねえ、ジーノ。本当に帰らないの」

「すいませんが、ことが終わるまではそのつもりです」

「終われば、帰ってくるってこと」

「そのつもりではありますが」


 通信機が急に静かになる。そして、マリンの雰囲気も急に変わった。


「ねえ、ジーノ。私、いつもジーノにむかついてるんだよね」

「?、それは謝ります」

「そういって、何度、違反してきたかわかってる」

「……数えられない程度にはやってます」

「そう、それ! その反省の無さ。もう、堪忍袋の緒が切れた。私だってジーノを困らせてやるんだから!!」

「何言って……ッ!」


 言葉を言い切る前にジーノは絶句する。通信機から、聞こえてきたのは海鯨歌だった。

 急いで、潜水艦の軌道を急旋回させ、全力で逃げる。


「ドクトル、全潜水艦を退避させろ!、海鯨砲かいげいほうが来る!!」

「え、海鯨砲」


 リタも目を丸くした。

 刹那、潜水艦の左側のモニターがチカっと光り、その瞬間、衝撃波で吹っ飛ばされる。

 再び目を開けたときには、とんでもない質量の光の塊が潜水艦数十個分の太さを持って、飛んできていた。

 光は軌道上にある潜水艦を全て飲み込み無に帰していた。

 ジーノは衝撃波でよろけつつ、何とか、潜水艦の体制を保つと、滅びをもたらす青白い光を見つめた。


 海鯨砲。


 それは鯨が持つ最大火力の光線で、よほどのことがない限り、撃たれることはない。理由は言うまでもなく、危険だからだ。

 ジーノもこの目で見るのは初めてだった。

 リタも、海鯨砲のあまりの威力に目を点にしている。

 光が完全に消え終わるまでには、数秒を要した。

 海鯨砲が命中した幽霊鯨は、大きくよろけている。

 息を切らしているマリンの呼吸が聞こえてきた。


「馬鹿か! 海鯨砲を撃ち込むなんて。何考えている。撃ち返されてもおかしくないぞ」

「行き、なさい。幽霊鯨を、何とかする方法、あるんでしょ」

「え、」


 ジーノは驚く。


「『マリン』のみんなは大丈夫なんですか」

「大丈夫よ。みんなはみんなで守るわ。それにジーノならあの化け物をなんとかできるんでしょ。なら、早く止めてきなさい。それまで耐えるから」

「ですが」

「ですがじゃない。やりなさい。これは命令です。『私』の民が心配だと言うなら、任せなさい。私、マリンは攻撃するより守る方が得意なんだから。それにジーノ、あなたも私の民です。帰る場所がないなんてことさせません」


 途切れ途切れのマリンの声であったが、彼女の強い意志と優しさは、顕在だった。

 ジーノは通信機ごしであるにも関わらず、頭を下げた。


「……感謝します。マリン様。ありがとうございます」

「わかればいいの。それと、君、名前は」


 潜水艦に乗っているのはジーノとリタしかいない。リタに言っているのだろう。

 ジーノもリタもそれを察すると、リタは声を出した。


「……リタ」

「そう、鯨?」

「うん」

「ジーノをお願いね」

「うん。わかった」

「それと、ジーノ。見つかってよかったね」


 ジーノは即座に、通信機を切った。


「…………」

「?、どうしたの」

「なんでもない。今はマリン様が切り開いた道を進んで行くぞ。さっさと行かないと、塞がれてちまう」

「そうだね」


 ジーノは敵がいなくなった海鯨砲の軌道を通って、幽霊鯨へ向かった。

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