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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第六章 ただいま
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第一節

 幽霊鯨付近まで到着すると、既にそこは魚雷が飛び交う激戦区となっていた。

 ドクトル率いる先生とはいえ、ゾンビ対ゾンビの戦いになり、お互い数が減らず、戦況は動いてないようだった。

 通信機が鳴り、応答せずとも勝手に通話がつながる。


「見ての通り、拮抗状態よ。ゾンビを無力化しようにも、辛草を当てられないから無理だわ」

「近づければ行けそうか」

「潜水艦から出さないと無理」

「注文多いな」

「仕方ないでしょ。無理なものは無理なんだから」


 幽霊鯨の周りを浮いている無数の敵潜水艦を見ながら、ジーノは言う。


「コルルの隣にリタがいるんだっけ」

「いるよ」

「じゃあ、ドクトルもいるよな。めんどくさいから、俺が戦場をかき乱す。後はうまくやってくれ」


 ジーノはエンジンの出力を上げた。激戦区の中へ入る。


「ちょっと、待って、死にたいの」

「うるさい。気が散る。てか、毎回勝手に繋げて来るな」


 ジーノは通信機を切ると、ソナーを確認し、魚雷の間を縫うように、水中を駆けた。



 それはある一種の芸のようで、魚雷すれすれを通る時もあれば、魚雷と魚雷の間を器用に抜けるときもあった。

 第三の目でもあるかのように、ジーノは全ての魚雷をよけきると、あっという間に、敵潜水艦付近まで到着する。

 視界に写る潜水艦に次々と魚雷を打ち込むと、爆風にまぎれて移動した。

 何度か魚雷を撃ち返されたこともあったが、敵拠点真っ只中ということもあり、敵潜水艦を盾にし、同士討ちを起こさせた。

 たった一隻。

 たった一隻の潜水艦が戦況を大きく変えていた。

 ジーノが暴れている間に何度も通信機が勝手に繋がったが、ジーノは即座に切っていた。あまりにもうるさいため、一度切らずに耳を傾ける。


「こちらジーノ」

「ああああ! やっと出た。出れるならさっさと出なさい」

「状況は」

「あんたがめちゃくちゃにしてくれたおかげで、前線が上がっている。大破させた敵潜水艦は辛草鉄砲で無力化できてるし、予定通り『リタ』に運んで、毒の上書きもみんなやってくれてる。ただ、数が多いわ。それにあんたが今のパフォーマンスをいつまでも出せるとは思えない」

「コルル、ジーノさんと繋がっているのですか」


 少し遠いところから、クララの声が聞こえてくる。


「変わってください。ジーノさん。今すぐ引き返してください」

「は、なんでだよ」

「あなたを別のところで使いたくなりましたので。それに前線維持はさっきの様子を見る限り、ドクトルが十分やってくれます」


 少し思わせぶりな口調にクララに何か作戦があることを知る。


「何をしてほしいんだ」

「リタ様を連れて、幽霊鯨に乗り込んでください。あなたの腕なら可能でしょう」

「リタは連れていく必要ないだろ」

「いいえ、あります。ジーノさん、あなたはリタ様と幽霊鯨の真実を見に行きたいのでしょう。なら、それを達成してきてください。それに、ドクトルの話では幽霊鯨もリタ様同様、動かしているクラゲがいるのでしょう。それを倒してきてください。ここでくすぶっていても時間を浪費するだけで何も成せませんよ」

「それでも」

「ジーノ」


 リタの声がジーノを遮る。


「幽霊鯨に行くなら私も行きたい。危険なのはわかってるけど、ここで待ってるだけは嫌だから。心配はしないで。『私』はドクトルが守っててくれる。それに私を連れていけば戦いの様子はドクトルを通じて私がジーノに伝えられるから」


 しばしの沈黙。ジーノは小さく息を吐くと観念したように声を出した。


「……わかった。戻ろう」


 通信機を切り、魚雷をよけながら、『リタ』へ戻っていった。


***


 『リタ』の頭の先に着くと、ローブを着たリタが一隻の潜水艦の隣に待機していた。

 側には一人の先生が立っており、ここまで連れてきたのだろう。

 ジーノは近くに降りると、潜水艦から顔を出し、手を伸ばす。


「ほら、来い。さっさと行くぞ」

「うん」


 リタはジーノの手を取り、中に入る。

 潜水艦の中は非常に狭いが、子供一人入るスペースはある。


「てか、その格好で着たのか」

「だって、着替える時間なかったんだもん」


 ひらひらしたローブ姿でジーノの膝に座る。


「メーターとかモニター見えなくなるから、あんまり動くなよ」

「わかった」


 といいながら、落ち着かないのか足をバタつかせている。


「リタ」

「ごめん」


 無意識だったようで、気づいたらすぐに止めた。


「ったく」


 ジーノはリタを見る。リタはモニターに映る幽霊鯨を凝視していた。

 激戦区に行くというのに、リタの心は不思議と安定しているように見える。


「怖くないのか」

「なんで」

「今から、一番危険なところに行くんだけど」

「うん。そうだね。でも、ジーノなら連れてってくれるでしょ」


 リタはくるりと振り向きジーノを見る。

 それは撃墜されるということを全く考えてない、ジーノなら、幽霊鯨に着くのが当たり前という顔をしていた。

 ジーノは少し驚いたが、すぐに笑みを浮かべた。


「参ったな。これはご期待に添わなきゃな」


 操舵を掴む手に、力が入る。

 息を深く吸い込む。


「少し集中する。振り落とされるなよ」

「うん。わかった」


 リタはきゅっと、ジーノの腕を掴むと、

 エンジンの出力を上げ、潜水艦は飛び立った。

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