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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第五章 変わらないもの、変わり行くもの。思い出を抱いて
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第四節

 クラゲ達の準備が順調に進み、気がつけば、浅海に上る日の前日の夜になっていた。

 ジーノはいつも寝ている病室で横になっていたが、眠ることができず、目を開いた。

 棚に、絵本やトランプ、チェス盤など、リタと遊んだものが置いてある。

 ここは最初に『リタ』に落ちてきて目覚めた部屋であるが、なんだかんだここを使い続けている。

 もっとまともな部屋を使えばいいのにと思いながら、ジーノはベットから降り、部屋を出た。

 両脇に部屋のない廊下を歩いていると、一人の先生とすれ違った。

 ジーノは気にせず、歩いていく。

 分厚い扉の前までたどり着くと、ジーノは扉の横にある機器に自分の生体認証を通した。

 施設システムの管理人はドクトルのため、自分の生体認証を通せば、今はもう容易に開けられる。

 扉が開き、冷たい外の水流が流れ込んでくると、バルコニーの先に先客がいた。


「何してるんだ、リタ」

「わ、ジーノ。どうして」

「なんか眠れなくてな。リタは」

「私も」

「まあ、だよな」


 ジーノは手すりに背中を預けた。

 リタは足をバタつかせ、少し浮いた状態で、手すりに掴まっている。

 リタはどこかぼーっとした目で、町を眺めていた。

 ジーノもリタにつられ、町を見る。

 始めてきたときは、真っ暗な瓦礫の山だったのに、今は復興中とはいえ、立派な町だ。


「きれいだな」

「そうだね」

「ちょっと前までここは何もなかったのにな」

「私はここにさえ、来れなかった」

「そういえば、そうだったな」


 ジーノはリタの頭を撫でる。


「ジーノが来てからいろんな事があったよね。私が外に出れるようになったり、クララちゃん達を助けたり」

「祭りがあって、ドクトルを殴った」

「え、殴ったの」

「ああ」

「そ、そうなんだ。……喧嘩は良くないよ」

「ま、そうだな」


 ジーノは笑う。


「ほんと、いろんなことがあったよな。実際は大して日は経ってないのに、もう何ヵ月も深海にいた気がする」


 ジーノは深海の天井である境界の水面を見ながら言った。

 リタは町から目を離さずに言う。


「私は一年、……寝ていた時間も含めたら、二年くらい深海にいたよ。でも、ジーノが『私』に来てからは毎日が楽しくて、すごくあっという間だった」

「そういってもらうと、落ちたかいがあるな」


 ジーノは再び笑った。


「深海は死の領域。死者が落ちる最後の地とか呼ばれていたが、行ってみたら、そうでもなかったな。ちゃんといろんな生き物いて、生きている」

「そうだね。クラゲちゃん達、フィロゾーマ。それにウツボも。私が見ただけで、知らない生物もたくさん深海にはいる」

「いざ、浅海へ上るとなると、少し寂しいな」

「うん。浅海もいいけど、深海で過ごした時間も私にとっては大切な思い出だよ」


 少し憂いた目でリタは町を眺めていた。


「思い出が消えるわけじゃないんだ。そんな感傷的になるなよ」

「そうだけど、なんかね」


 リタは相変わらずで、町から目を離せそうになかった。

 ジーノはリタの頭を鷲掴みにすると、乱暴に撫で始めた。


「わ、わ、急に掴まないで」

「悪い、悪い、ついな。元気出せよ、ここで過ごした日々は無駄じゃねえんだから。全部積み重なって、気づいたら黄金になってるんだ」

「そうかもしれないけど、痛い!」

「ごめん、ごめん」


 ジーノが手を離すと、リタは不機嫌そうに顔を膨らませた。

 ぷいっと首を反らすと、再び町を見始めた。

 所々生活照明が灯るこの町を見て、自然と顔が戻っていく。

 そして、ぽつりと呟いた。


「ちょっとだけ、気持ちの整理ができた気がする」

「そうか、そいつはよかったな」

「ジーノは」

「さあな。ただ、吹っ切れた気はする」


 ジーノは手すりに、背を預けるのを止めた。


「戻ろうぜ。明日は忙しいんだ。途中で寝るとコルルに叱られちまう」

「うん。そうだね。早く寝なきゃ」


 リタも手すりから手を離すと、ジーノに向かって泳いでいった。

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