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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第五章 変わらないもの、変わり行くもの。思い出を抱いて
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第二節

 それから、数日の時が経った。

 クラゲ達は全員ついて行くようで、浅海行きの準備などが行われていた。

 しかし、ジーノ、リタ、ドクトルはというと、準備に参加させられず、暇だった。

 食堂でチェス盤を広げ、ジーノとドクトルはチェスをしていた。

 とはいえ、ドクトルは脳から動けないので、向かい側に座っているのはリタなのだが。


「二人ともすごいね。私、すぐ負けちゃったよ。……えーでもすごいよ」


 リタはドクトルと会話しているようで、たまに一人言を言っているように聞こえる。


「うんとね、ジーノ、腕上げたって、言ってるよ」

「なんだかんだ、暇だと海鯨隊の誰かとやってたことあったからな。まあ、駒がなかったから、銃弾で見立ててたけど」

「それは、……すごいね」


 リタは若干震えつつ、駒を動かした。


「ていうか、ドクトル。リタに中継させないで、俺と直接話した方が早くないか。前々から思っていたけど」

「えっとね、それは無理だって」

「え、なんで」

「ジーノはあの頃と違って、もう大人の体だから、免疫が高い。僕の毒が入り込む隙がない、だって」

「あー、なるほど」

「動けなくなっていいなら、やるけどだって」

「いや、いい」


 ジーノは断ると、駒を動かす。

 ドクトルと話せるのは、子供時代限定だったと考えると、おとぎ話か何かのように思えた。

 同時にあの頃から、何も変わってないように見えて、何もかも変わっていることを自覚する。

 たとえば、このチェス盤。

 今のところ、ジーノが有利だが、昔はこんなことはあまりなかった。


「ここにいたのね」


 食堂に、コルルとクララがやってきた。


「リタ様、すいません。今ドクトルと話せますか」

「うん、大丈夫だよ」


 リタを仲介し、ドクトルとクララが、浅海の準備について、話している。

 浅海にいた頃は、ドクトルと話すときは、絶対に脳内で話していたが、ここでは、リタを介して普通に会話が行われる。

 リタですらも、脳内で話さず、一人言を言うくらいだ。

 良いのか悪いのかわからないが、ここではドクトルの存在が許容される。


「何、バカ面かいてるのかしら」

「いや、なんか、不思議だなと思って。ドクトルが普通に話してるのが」

「あんなのどう考えても異常だけどね。でも、仕方なくない? 脳まで行くのめんどくさいし」

「まあ、そうだな」


 その理由も許容されているからこそ、出るセリフだった。


「それじゃあ、よろしくだって、村長」

「え、村長?」


 ジーノの耳が傾く。同時に、とても弱々しい声が隣で聞こえた。


「ぇ、村長って……」


 まるでこの世の終わりを見るような目でコルルはクララを見ていた。


「ドクトル、私のことは村長と呼ばないで下さい」

「今の話した内容は村長としてのものだろ。だから、村長って言った。って言ってる」

「ねえ、クララ。クララって村長なの」


 クララは頭を抱える。


「うーん。ばれては仕方ないですね。村長さんです」


 しーんと辺りが静まった。

 コルルはその場に崩れる。そして、大声で泣いた。


「え~~~~~~ん」


 あまりの絶叫に、思わず耳を塞ぐ。

 リタがすくさま、コルルの前に駆けつけた。


「コルルちゃん、大丈夫?」

「クララが、クララが、村長なんて、知らなかった。クララがあたしのこと、気に掛けてくれたのは、村長だったからなんだ!!」


 びっくりするほど、ヘラっている。


「あたし、クララのこと、友達だと思ってたけど、村長だから、声かけたんだ。あたし、誰も話、聞いてくれなかったから、すごく、嬉しくて」


 コルルはリタにしがみつくと、そのまま泣きじゃくる。


「大丈夫だよ。コルルちゃん。私、コルルちゃんのこと、友達だと思ってるよ。それに、クララちゃんも、きっと、コルルちゃんのこと友達だと思ってるよ」

「ほんと」


 めちゃくちゃ弱々しい声で、リタにすがりつく。


「きっとそうだよ。だって、クララちゃんとコルルちゃん、いつも一緒だもん。一緒にいて楽しくない人と一緒にいないよ。……あれ、人じゃなくて、クラゲかな」


 リタが迷走しながら、コルルを励ましていると、クララがコルルの前にやってくる。


「コルル、だから、あなたには、時期を見計らって、私が村長だということを伝えたかったのです。あなたはすぐ暴言を吐きますが、心がすごい繊細ですからね」

「ねえ、クララ、本当に村長なの。村長だから、あたしに声かけたの」

「それは、本当です。私は村にガラクタを浸透させるため、コルルに声をかけました」

「そんな……」

「でも、私はコルル自身にもちゃんと魅力を感じてますよ。あなたは、努力家で、何より優しいです。もっとそういう面を前に出していけば、自然と友達ができますよ。今や村ではあなたのことをみんな認めています。祭りを成功できたのも、コルルの功績が大きいですし」

「あたしはクララが好きなの。クララが友達でいればそれでいいの」


 コルルは泣きながら、クララに抱きつく。

 クララはコルルを受け止めると、やれやれとした様子で、コルルの頭を撫でた。


「コルルを落ち着かせますので、私達はこれで失礼しますね。それと、ドクトル、あとでそちらに行きますね」

「別に行かなくても、リタを交えすればいいだろって言ってる」

「たしかに、事務はそれでいいですが、私が個人的にあなたに会いたいんです。あなたと会うのは、私も久しぶりなんですよ。リタ様がドクトルのことを知らないと聞いたとき、心配したんです。顔くらい見せてください」


 リタが返事をするまで、少し時間がかかった。


「悪かったって」

「しっかり反省してくださいね」

「うえーん、クララはドクトルのことが、好きなんだ」

「はいはい、コルルのことも、好きですよ」


 クララはコルルをよしよししながら、食堂を出ていった。


「あれ、大丈夫なのか」

「クララちゃんに任せとけば、大丈夫みたい。それに、いつものことでもあるみたい」

「……そうなんだな」


 嵐が過ぎ去ったように、食堂は静かになった。

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