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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第一章 囚われの主
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第二節

 食堂に入ると真っ白な壁に真っ白な天井が目に映った。椅子も机も真っ白で、食事をする場所というより、研究をする場所のように思えた。

 席は三十席くらいありそうだが、座っている人はいない。いるのは厨房にいる白衣を着たゾンビ一人のだけ。


「先生、私、焼き魚食べたい」


 リタが元気よくゾンビに言うと、彼は冷蔵庫から食材を取り出し、調理を始めた。


 取り出された食材は今のところ普通でほっとする。


「ジーノは何食べる?」

「同じので」

「うん、わかった。先生、焼き魚もう一つ作って」


 返事はなく、伝わったかわからないが、冷蔵庫から再度食材を取り始めたので、伝わったと思われる。


「早く座ろう」


 リタに連れられ、近くの席に座った。リタは足をパタパタしながら、先生が調理している様子を眺めていた。


「なあ、あれは先生なのか」


 厨房で調理しているゾンビを指差した。


「うん、先生だよ」

「こっちも先生だよな」


 今度は部屋からついてきたゾンビを指差す。


「うん、先生だよ」

「どっちも先生なのか」

「うん、そう。先生」

「何先生とかあるのか。名前とかやってることとかで」


 リタは首をひねる。


「よく分からないけど、先生は先生だよ」


 どうやら、リタの認識では先生によって違いはないらしい。


「リタはこの施設で何をやってるのか知ってるのか」

「何をやってるって何?」

「例えば、先生が何かを研究したり、調べてたりしているとか」

「わかんない」


 そう言うと、リタはそっぽを向き始めた。どうやら、ジーノの話に興味を持てないようだった。

 本当に子供と話しているようだ。


「リタって何歳なんだ」

「七歳」

「幼いな」


 案の定とはいえ、一桁台なことに驚く。

 きょとんとした顔でリタは聞き返した。


「そうなの」

「そうだ。そもそも、鯨が生まれること自体少ない。五十でも、若い方だ」

「へ、そうなの、私の十倍も生きてる。すごい」

「七倍だ」

「え?」


 そう言うと、リタは指を使って五十を数え始めた。

 知能も年相応かもしれない。


「というか、ここって深海なんだよな」

「そうだよ」

「リタ以外にも鯨がいるのか」

「いないよ。だって、あったことないもん」

「じゃあ、なんで、リタは深海にいるだ」


 深海に鯨がいなければ、鯨の子であるリタが生まれてくることはない。

 リタは指を数えながら興味なさそうに答えた。


「わかんない。気がついたら、深海にいた」

「気がついたらってどのくらい前なんだ」

「一年くらいかな……。あー! ジーノ!!」


 リタが怒った様子でジーノを見てきた。


「なんだよ」

「数、分かんなくなっちゃった。せっかく数えてたのに。数の話しないでよ」

「そんなこと、どうでもいいだろ」

「よくない! 絵本の鯨ちゃんは学校に行って勉強してた。勉強しないと立派な鯨になれない! 先生、タブレット貸して」


 そういって、側にいた先生のタブレットを奪い取った。

 一瞬、ヒヤリとしたが、先生はなぜか無反応で、奪い取る様子はなかった。

 リタはタブレットから真っ白な画面を呼び出すと、そこに指で計算式を書き始めた。


「たぶん、割り算を使うんだよね。割り算って、どうするんだっけ」


 リタの指が止まっており、割り算ができる様子はない。

 ジーノは先生の様子を伺いながら、タブレットにヒントを書いてみる。


「とりあえず、七で引ける分だけ引け」

「わかった」


 先生は相変わらず、無反応。なぜ、許容されているのかわからない。


「本当だ、七が七個できる!!ジーノありがとう。先生も貸してくれてありがとう」


 そう言って、リタはタブレットを先生に返した。

 なんだったんだ。そう思っていると、先生の持っていたタブレットから音がなる。


「あ、焼き魚できたみたい。取ってこよう」


 そう言って、リタはいそいそと厨房の方へ走っていった。


***


 食堂で受け取った焼き魚は、異様に不細工な顔をしていた以外、普通だった。深海魚というやつだろう。

 食事中、いくつかリタに質問したが、返ってくる答えは大半がわからないと知らないだった。

 この施設について知るには、リタに聞くよりも自分で調べた方が良さそうだった。

 食事を終えると、リタが他の施設を案内した。風呂やトイレなどの生活スペースと検査室。病院にありそうな施設が粗方そろっている。そんな感じだった。

 リタが廊下を歩いていると、扉の前で足を止めた。


「どうした」

「ここから先は私は行けないから、先生とジーノで行ってきて」

「え?」


 突然の別れに、戸惑う。というより、リタがいなくなることに不安を覚えた。

 今まで、自分の身に何も起きなかったのは鯨であるリタが近くにいた可能性があるからだ。


「行けないって、どういうことだ」

「先生に言われているから」

「いや、先生ってしゃべらないんじゃなかったのか」

「うん。そうだけど、先生がそう言ったの」


 明らかに矛盾しているのにも関わらず、リタは強引に会話を進めた。


「それじゃあ、先生、案内よろしくね」

「ちょっと、待って」


 スリッパをならし、去っていくリタを追いかけようとしたが、隣にいた先生に腕を掴まれる。

 強く掴まれてはないが、離す気は全くない。

 ジーノは先生に連れられ、厚めにつくられた金属性の扉を抜けていった。

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