表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第三章 祭りの終わりに
25/42

第五節

 ジーノもリタも立場と境遇があり、同じ年ごろの子供と遊ぶ機会がなかった。

 だから、ジーノとリタが仲良くなるのは、ごく自然なことだった。


「ジーノくん。今日も来たのかい」

「はい、先生。リタは」

「まだ、検査中だよ。もう少し経ったら、終わるんじゃないかな」

「わかりました」


 リタは生まれつき体がよくなかった。そのため、『リタ』の背中には真っ先に最先端医療施設、通称、施設が建てられた。

 施設を中心に医療特区として発展してきた『リタ』は、最新の医療技術が揃っている。

 そのせいか、気を効かせた海鯨隊は、わけありのジーノを『プリンスィピアム』から『リタ』に引っ越しさせた。



「あ、ジーノ、こんにちは。待ってね、もうちょっとで終わるから」

「わかった。なるべく早くしろよ」

「うん、がんばる」


 リタは一瞬だけ廊下に出てくると先生達に連れられ、次の検査室へと入っていった。

 再び出てきたのは、一時間後だったが、それでもジーノは待っていられた。

 そのくらいリタと遊ぶ時間というのは、ジーノの中で大きかった。


「ねね、今週の守護戦隊ホエルンジャー見た? かっこよかったよね」

「ああ、すごかったな! 特にあの操縦技術。俺も真似したいぜ」

「そうなんだ、あれすごいんだね」

「いや、ジーノくん。夢を壊すようで悪いんだけど、現実でやると危険だから、真似しちゃだめだよ」

「でも、先生。やってみるのは自由ですよね。よく先生も言ってるじゃないですか」

「私のよくないところばかりを真似するのはやめてくれないかい。ジーノくん」

「先生がよくないと思うところを俺に見せてる時点で、先生が悪いですよ」

「その言葉、とても痛いな」



 日が経つにつれ、ジーノは勉強や海鯨隊の訓練が終わると、毎日のように、施設に来るようになっていた。


「私ね、外に出てみたいんだ」

「なら、出ればいいんじゃないか」


 窓の外を見ながらリタは首を振る。


「私、生まれつき体よくないみたいだから、施設の外には出ちゃだめって言われてるんだ。また、深海に落ちちゃうかもしれないから」


 リタは現実を受け入れつつも、憧れを込めた眼差しで外を眺めていた。


「今のリタは深海に落ちたりしないだろ。今もちゃんと泳いでいられてるし」

「そうなんだけど、やっぱりみんな心配みたい」



 かごの中の鳥。これほどまでに体現した状況を俺は見たことがなかった。

 だから、俺は



「なあ、リタ、今日の夜、暇か」

「夜は簡単な検査があったと思うけど!終わったら暇だよ。でも、それがどうかしたの。夜はジーノもお家に帰ってるでしょ」

「まあ、そうだな。楽しみにしていてくれよ」


 ジーノはにっと笑った。そんなジーノを不思議そうにリタは見ていた。



 その夜、ジーノは潜水艦に乗り施設に忍び込んだ。

 リタの部屋の隣に、潜水艦を止めると窓をノックした。


「なんの音?」


 目を擦りながら、リタが窓を開けると、そこに立っていたジーノに驚く。

 驚きのあまり目が真ん丸だった。

 ジーノはサプライズの成功を喜ぶとリタに手を伸ばした。


「リタ、外に出ようぜ」

「でも、私、外に出ちゃいけないって」

「大丈夫だ。外に出たって今すぐ深海に落ちることなんてねえ。もし、落ちたらなら、全部俺のせいにすればいい」

「でも、それじゃあ、ジーノが」

「いたぞ」


 遠くで潜水艦に乗った海鯨隊がこちらに向かってくる。


「まずっ、みんな来た。リタ、早く乗って」

「え、ちょっと」


 ジーノはリタの返事を待たず、リタの腕を引き上げ、潜水艦に乗せた。


「逃げるぞ。しっかり捕まって」

「う、うん」


 ジーノとリタを乗せた潜水艦は発進した。

 海鯨隊との激しいおいかけっこを繰り広げながら、『リタ』上空を飛ぶと、リタはいつの間にかモニターに釘付けになっていた。


「これ、『私』?」


 ちらりとリタを見ると、真下に映る鯨の姿、自分に驚いていた。


「ああ、そうだな」


 チェイス中のジーノは、余裕がなくなげやりな言葉を返す。

 けれども、リタには十分だった。


「すごい。初めて見た。『私』ってちゃんとみんなのこと乗せてるんだね」

「当然だろ、リタは鯨なんだから」

「うん。そうだよね。あ、ジーノ、左に曲がって」

「いや、今それどころじゃない」

「いいから、いいから、私を信じて」


 ジーノは不思議に思いながらも、リタに従った。

 すると、急に下から水流が湧きだし、後ろの潜水艦が急にバランスを崩し、スピードが落ちた。


「あ、見て見て、ジーノ当たったよ」


 下を見ればそこはリタの噴気孔(鼻)だった。


「ナイス。でかした」

「えへへ、すごいでしょ」


 その後も、激しいチェイスを繰り広げたが、あえなくジーノとリタは捕まった。

 施設に戻されると、残っていたフランシスにこっぴろく叱られた。

 けれども、そんな説教で懲りるジーノではなかった。

 再びリタに会うとジーノはこう言った。


「なあ、脱走しようぜ」

「うん!」


***


 ジーノとリタの脱走は当たり前のことになっていった。駆け付けた海鯨隊に捕まることもあったが日に日にジーノの操縦技術が上がり、脱走成功率が上がっていた。

 今日もいつものように脱走すると、ジーノとリタは『リタ』の端にあるサンゴ礁の森に来ていた。

 心地よい水流を感じながら、横になっているとリタが声をかけてくる。


「ねえ、ねえ、ジーノ、今大丈夫」

「なんだ、急に改まって」

「実はね。ジーノに紹介したい人がいるの。人ではないんだけど」


 ジーノは首を傾げるが、何も言わず体を起こす。


「なら、施設に戻るか」

「ううん。大丈夫。すぐ会えるから。ジーノちょっとだけ我慢してね」


 そういうと、リタはジーノの首筋に噛みついた。

 いきなりの出来事と、噛みつかれたことに驚く。

 しっかりと痛みを感じたが、そんなことはどうでもよくなるような不思議なことが起こった。

 頭の中に直接、誰かの声が聞こえてきたのだ。


(初めまして。というべきだろうか。まあ、僕はジーノのこと知ってるんだけどね)


 驚きのあまり、目を見開いていると、リタが笑った。


「ドクトルだよ。ドクトルはね、クラゲでね。私の中にいて、私の友達なんだ」


 最初は何を言っているかわからなかったジーノだったが、あまりにも現実離れした出来事に興奮したのを覚えている。


「何だよそれ、すげーじゃん」

「でしょ。ドクトルはすごいんだよ。私の体、動かしてくれるんだ」


 リタは自分の秘密をジーノに明かした。

 リタの体は確かによくないが、全てドクトルが何とかしていること。施設の人たちはそれを知らないため、リタが全身麻痺でありながら、動いている理由を血眼になって、探していた。


「だからね、ジーノこれは三人だけの秘密だよ」

(絶対言うなよ)

「任せとけって、絶対言わねえ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ