第二節
当たり前のように施設から脱走すると、ジーノは幽霊鯨の聞き込み、リタはその辺を散歩していた。
「ジーノさんリタ様、こんにちは。調子はいかがでしょうか」
やってきたのは、コルルではなく、クララだった。
「特に問題ないが、連れ戻しに来たのか」
「いえ、少し噂を聞き付けて、会いに来ました。ジーノさん、幽霊鯨についていろいろ聞き回っているそうですね」
「なんで知ってるんだ」
「お二人は有名人なので、噂が回るのが早いのですよ。言葉や行いには注意することをおすすめします」
「肝に銘じておく。で、何しに来た」
「私も幽霊鯨のお話を聞きたいのです。教えていただけないでしょうか」
「何考えているかわからないが、いいぜ」
ジーノはクララに幽霊鯨のことを話すと他のクラゲとは違い訝しそうな顔をしていた。
「なんか知ってるか」
「知りません」
「いや、明らかに知ってそうな顔して、知らないって言われても困るんだが」
「知りませんよ」
その後、何度がクララをつっついたが、答えが変わることはなかった。
「あー、いた! ジーノ!、リタ様!」
怒りに満ち溢れたコルルがこちらに向かって泳いできていた。
「では、私はこれで。後はコルルの任せましょう」
煙を巻くように、クララは去っていった。
ジーノは全く抵抗しないので、リタも逃げることなく、すぐにコルルに捕まる。
「昨日あんなに注意したのに。なんで、また脱走してるの。しかも、『ナビゲートくん』に映らないで」
「ああ、あれ、やっぱりお前か。死角だらけだから、もう少し配置を考えた方がいい」
「え、嘘。……じゃなくて、脱走しないで 」
「安静にはしてるから、問題ないだろう」
「こっちにはこっちのいろいろがあるの」
「はいはい。ちゃんと帰るから。あ、それと、さっきクララに幽霊鯨の話をしたんだが、なんか知ってそうなのに、知らないって言われたんだ。なんか知ってるか」
「幽霊鯨? 噂の」
「本当に噂になってるんだな。まあ、いい。知ってるなら話が早い」
コルルはジーノの話を聞くと、少し黙ったあと、リタに言う。
「リタ様、申し訳ないんだけど、あそこ、手伝ってくれないかしら」
「え、いいの!」
「一回だけだけどね」
「うん、わかった」
リタは嬉しそうに走っていった。
コルルはジーノを連れ、人目がないまだ瓦礫が残る場所に連れていく。
「なんだよ、急に」
「とりあえず、口裏を合わせなさい」
「それって知ってるってことだよな」
「それは言えない」
「なんで、そんなに隠したがるんだ」
「じゃあ、逆に聞くけどなんで、そんなに幽霊鯨に行きたいの。聞いた感じとても危険な場所だと思うんだけど」
「忘れ物をしたんだよ」
「そんな子供じみた理由で」
「ふざけんな、俺にとっては大事なものなんだ」
「じゃあ、何を忘れたの」
「そりゃ……」
ジーノは思わず、口を押さえた。自分で自分を疑った。けれども、現状が変わることはない。
ジーノは何の言葉も出てこなかった。
大切なものであるにも関わらず、何も出てこなかった。
「二人とも何してるの」
リタの声で我に返る。
「ジーノ、少し具合が良くないみたい。早く施設に帰った方がいいかも」
「え、そうなの」
「いや、俺は」
コルルが耳許で囁く。
「悪いってことにしておきなさい。あんた顔真っ青よ」
血の気の抜けるような感覚を覚え、隠しようのない事実を認める。
「実は少し」
ジーノはリタに心配されながら、コルルに連れられ施設へ帰った。
その次の日はさすがのジーノも外出を控えた。リタもジーノの具合が心配なようで、脱走したいとは言ってこなかった。
そして、祭り当日。
「今日は外出してもいいわよ」
検査室に入って来たコルルはそう言った。
「さすがに今日はいいんだな」
「当然でしょ、あんた達の祭りよ」
「正直、止められると思って、抜け道用意してたんだけどな」
「は? どこ。潰す」
「勝手に探しとけ。行こうぜ、リタ」
ジーノが手招きすると、リタがとことこ歩いてくる。
「体調はもう平気?」
「お陰さまで、万全だ」
ジーノが肩に手を回すと、リタは嬉しそうに笑った。
「ほんと、よかった」




