第七節
それから、数日が経った。
ジーノとコルルはリタに連絡を送りつつ、フィロゾーマ討伐の準備を進めた。
そして、今日、全ての準備が整った。
銃を携え、ジーノは村へと向かう。
コルルお手製のインカムから、声が聞こえてきた。
「着いたみたいね」
「そうだな。敵は」
「周囲に四体。クラゲを囲む感じでいる。丁度いい。やっちゃって。こっちはいつでもおっけだから」
「了解」
ジーノは海草に身を隠しながら、照準を定めると、小さなフィロゾーマを撃った。
フィロゾーマは地に落ち、動かなくなる。その様子に怯えたクラゲ達が一斉に悲鳴を上げた。
構わず、残り三匹のフィロゾーマを撃つ。
「全員やった」
「見えてるわ」
コルルが応答すると、地面が細かく揺れ始めた。
揺れが一段と大きくなると、クラゲの村の真下から鉄パイプが生えてきた。
鉄パイプがクラゲ達を囲むように包み込むと、筒状の部分が割れ広がり、鉄のドームを作った。
「あんた達、聞こえる? あたしはガラクタ弄りのコルル。今から、あんた達が馬鹿にしたガラクタで、あんた達を救ってやる。覚悟しろ!」
コルルはインカムをオンのまま、喋っているせいで、声がそのまま聞こえてきた。
「救世主の声とは思えないな」
「当然でしょ、あたし、クララ以外どうでもいいし。そんなことより、早く次やって」
「はいはい」
ジーノは海草から出てくると、ドームの上に立った。
そして、やってくるフィロゾーマを次々と撃ち抜いた。
しばらくすると、騒ぎを聞きつけてか、あの巨大なフィロゾーマが姿を現した。
「騒がしいと思えば、そなたか」
「あいにくどうも」
「食べられる気にもでなったか」
「そのつもりはない。お前を倒しにここに来た」
フィロゾーマは一度黙った後、大声で笑い始めた。
「これはずいぶんと、面白いことを抜かすようになった。我から逃げて、己の身の程もわからなくなったか」
「もとから、お前と俺の身の程なんて知らねえ」
ジーノはリロードを済ますと、フィロゾーマの顔に一発撃ち込んだ。
「そんなおもちゃで何ができる……うっ」
フィロゾーマは狼狽え始め、尻尾を振り後退した。
「何をした」
「さあ、なんだろうな。ただ、お前をどうにかする方法はあるということだ」
ジーノはにっと笑う。
「ほお、それは面白い。久しぶりに退屈せずに済みそうだ」
フィロゾーマは反転すると、尻尾を使い、物凄い速さで飛び込んできた。
咄嗟に息を止め、地面に硫化水素弾を打ち込む。いつぞやの筒の臭いが鼻についたが、フィロゾーマを足止めをするには十分だった。
ジーノ自信も硫化水素でダメージを追いながらも素早く岩の隙間へと逃げ込んだ。
「ごほっ、これ(硫化水素弾)、もう少し、なんとかっ、ならなかったのか」
「持ち運びに安全かつ扱いやすいように、銃弾化しただけでも、感謝しなさい。ただでさえ海底火山から採取するの大変なんだから」
「わかった。わかった。感謝する」
ジーノがフィロゾーマの様子を見ようと振り返ると、足で岩を砕き、無理やり中へ入ってきていた。
「うそだろ」
「威勢のいいわりには、我から逃げるのだな」
焦ったジーノだったが、コルルの冷静なオペレートが聞こえ、我に帰る。
「ルート変更する、上に行って」
「っ、了解」
ジーノは硫化水素弾を撃ちつつ、後退し続けた。
***
「残弾、五」
「なんとか間に合わせなさい。あと、もうちょっとなんだから」
「節約はしてるかが、これが限界だ。想像以上にあいつが速い」
「そうはいっても、こっちからできることなんて、限られてる。……いや、待て、この先、左に行って」
「目的地とは反対だが」
「もうとっくにルートなんて、はずれてるの! 黙ってあたしに従え!!」
耳元の怒声にイラつきつつも、他に手段がなくジーノは黙ってしたがった。
フィロゾーマももちろん曲がってくるが、ジーノの後ろから機械音がし、鉄パイプがフィロゾーマの行く手を塞いだ。
どうやら、ここは鉄パイプがあるエリアだったようだ。
「今のうちに行きなさい。次は上に行って」
「あ、ああ」
「小賢しい。こんなもので我が止まらぬ」
歯で鉄パイプを砕きながら、フィロゾーマは近づいてくる。しかし、時間稼ぎとしてはかなり有効だった。
ジーノは、硫化水素弾で応戦しつつ、後退していくと、目的地としていた広い洞窟にたどり着く。
残弾はラスト一発。
「ジーノ、リタ様にお願いした。もうじき来る」
「わかった」
ジーノは最後の銃弾を構えた。
「追い付いたぞ、人間」
穴から出てくるフィロゾーマに向かってジーノは引き金を引いた。
フィロゾーマは飛び上がり、洞窟の中心へと体を浮かせた。
その間にも、広がる硫化水素。
ジーノは目をつぶると意を決して、硫化水素へ飛び込んだ。
「自殺か」
奇妙なものを見るようにフィロゾーマはジーノを見つめていた。
しばらくすると、どこからか地鳴りが響く。その音は徐々に近づいてくる。
「まさか」
フィロゾーマは何かに気づき、ジーノの後を追おうとしたが、もう遅い。
物凄い轟音がし、とんでもない勢いの水流がフィロゾーマに飲み込んだ。
言葉を発する時間もなく、フィロゾーマら水流に連れ去られる。
洞窟の入り口付近に移動していたジーノは岩に捕まりながら、フィロゾーマを送った。
「いっけええええ!」
どこかで見ているであろうコルルの声が耳元で響く。
轟音はしばらくすると、収まり、鼻につく臭いも流されていた。
敵は消え、静寂が訪れた洞窟で一人ぽつりと立っていると、急にコルルの叫び声が聞こえた。
「ゆで上がれ、このエビやろうが!!!」
あまりの大声に思わず耳を塞ぐ。
インカムごしなので、塞いでも意味がないのだが。
「やったのか」
「ええ、やったわよ。『ナビゲートくん』がとらえたわ。あのエビ、動かなくなった。なんか、なんか赤くなったし。クララが言ってた失活ってやつよ、たぶん」
この洞窟の先は、海底火山と繋がっていた。
コルルが言った通り、フィロゾーマはゆで上がったのだろう。
「やりきったんだな」
「ええ、当然よ。天才のあたしがついてるんだもの」
かつてないほど、ご機嫌なコルルの声がガラクタ(インカム)越しに響いた。




