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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第二章 人と鯨とクラゲと
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第七節

 それから、数日が経った。

 ジーノとコルルはリタに連絡を送りつつ、フィロゾーマ討伐の準備を進めた。

 そして、今日、全ての準備が整った。

 銃を携え、ジーノは村へと向かう。

 コルルお手製のインカムから、声が聞こえてきた。


「着いたみたいね」

「そうだな。敵は」

「周囲に四体。クラゲを囲む感じでいる。丁度いい。やっちゃって。こっちはいつでもおっけだから」

「了解」


 ジーノは海草に身を隠しながら、照準を定めると、小さなフィロゾーマを撃った。

 フィロゾーマは地に落ち、動かなくなる。その様子に怯えたクラゲ達が一斉に悲鳴を上げた。

 構わず、残り三匹のフィロゾーマを撃つ。


「全員やった」

「見えてるわ」


 コルルが応答すると、地面が細かく揺れ始めた。

 揺れが一段と大きくなると、クラゲの村の真下から鉄パイプが生えてきた。

 鉄パイプがクラゲ達を囲むように包み込むと、筒状の部分が割れ広がり、鉄のドームを作った。


「あんた達、聞こえる? あたしはガラクタ弄りのコルル。今から、あんた達が馬鹿にしたガラクタで、あんた達を救ってやる。覚悟しろ!」


 コルルはインカムをオンのまま、喋っているせいで、声がそのまま聞こえてきた。


「救世主の声とは思えないな」

「当然でしょ、あたし、クララ以外どうでもいいし。そんなことより、早く次やって」

「はいはい」


 ジーノは海草から出てくると、ドームの上に立った。

 そして、やってくるフィロゾーマを次々と撃ち抜いた。

 しばらくすると、騒ぎを聞きつけてか、あの巨大なフィロゾーマが姿を現した。


「騒がしいと思えば、そなたか」

「あいにくどうも」

「食べられる気にもでなったか」

「そのつもりはない。お前を倒しにここに来た」


 フィロゾーマは一度黙った後、大声で笑い始めた。


「これはずいぶんと、面白いことを抜かすようになった。我から逃げて、己の身の程もわからなくなったか」

「もとから、お前と俺の身の程なんて知らねえ」


 ジーノはリロードを済ますと、フィロゾーマの顔に一発撃ち込んだ。


「そんなおもちゃで何ができる……うっ」


 フィロゾーマは狼狽え始め、尻尾を振り後退した。


「何をした」

「さあ、なんだろうな。ただ、お前をどうにかする方法はあるということだ」


 ジーノはにっと笑う。


「ほお、それは面白い。久しぶりに退屈せずに済みそうだ」


 フィロゾーマは反転すると、尻尾を使い、物凄い速さで飛び込んできた。

 咄嗟に息を止め、地面に硫化水素弾を打ち込む。いつぞやの筒の臭いが鼻についたが、フィロゾーマを足止めをするには十分だった。

 ジーノ自信も硫化水素でダメージを追いながらも素早く岩の隙間へと逃げ込んだ。


「ごほっ、これ(硫化水素弾)、もう少し、なんとかっ、ならなかったのか」

「持ち運びに安全かつ扱いやすいように、銃弾化しただけでも、感謝しなさい。ただでさえ海底火山から採取するの大変なんだから」

「わかった。わかった。感謝する」


 ジーノがフィロゾーマの様子を見ようと振り返ると、足で岩を砕き、無理やり中へ入ってきていた。


「うそだろ」

「威勢のいいわりには、我から逃げるのだな」


 焦ったジーノだったが、コルルの冷静なオペレートが聞こえ、我に帰る。


「ルート変更する、上に行って」

「っ、了解」


 ジーノは硫化水素弾を撃ちつつ、後退し続けた。


***


「残弾、五」

「なんとか間に合わせなさい。あと、もうちょっとなんだから」

「節約はしてるかが、これが限界だ。想像以上にあいつが速い」

「そうはいっても、こっちからできることなんて、限られてる。……いや、待て、この先、左に行って」

「目的地とは反対だが」

「もうとっくにルートなんて、はずれてるの! 黙ってあたしに従え!!」


 耳元の怒声にイラつきつつも、他に手段がなくジーノは黙ってしたがった。

 フィロゾーマももちろん曲がってくるが、ジーノの後ろから機械音がし、鉄パイプがフィロゾーマの行く手を塞いだ。

 どうやら、ここは鉄パイプがあるエリアだったようだ。


「今のうちに行きなさい。次は上に行って」

「あ、ああ」

「小賢しい。こんなもので我が止まらぬ」


 歯で鉄パイプを砕きながら、フィロゾーマは近づいてくる。しかし、時間稼ぎとしてはかなり有効だった。

 ジーノは、硫化水素弾で応戦しつつ、後退していくと、目的地としていた広い洞窟にたどり着く。

 残弾はラスト一発。


「ジーノ、リタ様にお願いした。もうじき来る」

「わかった」


 ジーノは最後の銃弾を構えた。


「追い付いたぞ、人間」


 穴から出てくるフィロゾーマに向かってジーノは引き金を引いた。

 フィロゾーマは飛び上がり、洞窟の中心へと体を浮かせた。

 その間にも、広がる硫化水素。

 ジーノは目をつぶると意を決して、硫化水素へ飛び込んだ。


「自殺か」


 奇妙なものを見るようにフィロゾーマはジーノを見つめていた。

 しばらくすると、どこからか地鳴りが響く。その音は徐々に近づいてくる。


「まさか」


 フィロゾーマは何かに気づき、ジーノの後を追おうとしたが、もう遅い。

 物凄い轟音がし、とんでもない勢いの水流がフィロゾーマに飲み込んだ。

 言葉を発する時間もなく、フィロゾーマら水流に連れ去られる。

 洞窟の入り口付近に移動していたジーノは岩に捕まりながら、フィロゾーマを送った。


「いっけええええ!」


 どこかで見ているであろうコルルの声が耳元で響く。

 轟音はしばらくすると、収まり、鼻につく臭いも流されていた。

 敵は消え、静寂が訪れた洞窟で一人ぽつりと立っていると、急にコルルの叫び声が聞こえた。


「ゆで上がれ、このエビやろうが!!!」


 あまりの大声に思わず耳を塞ぐ。

 インカムごしなので、塞いでも意味がないのだが。


「やったのか」

「ええ、やったわよ。『ナビゲートくん』がとらえたわ。あのエビ、動かなくなった。なんか、なんか赤くなったし。クララが言ってた失活ってやつよ、たぶん」


 この洞窟の先は、海底火山と繋がっていた。

 コルルが言った通り、フィロゾーマはゆで上がったのだろう。


「やりきったんだな」

「ええ、当然よ。天才のあたしがついてるんだもの」


 かつてないほど、ご機嫌なコルルの声がガラクタ(インカム)越しに響いた。

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