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幽霊鯨へようこそ  作者: 雪国氷花
第二章 人と鯨とクラゲと
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第六節

 ジーノが目を開けると、小部屋に戻っていた。


「やっと起きた。あたしが説明している間に寝るなんていい度胸ね」

「俺、いつ寝たっけ」

「戻ってすぐ」


 そう言われたが全く記憶になかった。


「そうだっけ」

「あんた、本当にクソね」

「悪かった」

「ふん、まあ、いいわ」


 ジーノは頭を抱える。無駄に頭と体が重い。ここまで休みなしで来ていたので、体力が底尽きていたのだろう。

 自分が思ってたより、疲労していたのに気づき、休んでいると、コルルの声が潜水艦からではなく隣から聞こえてくることに気づいた。

 振り向くと、銃が物見事に分解されていた。


「お前、何やってるんだ」

「ちょっと、奪い取らないでよ、今いいところだったのに」

「勝手に分解するな」

「ちょっとくらいいいじゃん」


 ただ分解されているくらいなら、そこまで思わなかったのだが、パーツではなく、ねじのような部品単位できれいに分解されてしまっている。もう戻すことはできないだろう。


「お前、これどうすんだよ」

「分解して、構造見て何かに使えそうなら、使おうかな」


 コルルはうきうきした様子で、ドライバーを回していた。


「いや、戻せよ」

「戻すけど、その前に見たっていいじゃん」

「ここまで分解して戻せるか」

「は? 戻せるからやってるんだけど」


 そういうとコルルは複数の触手を使い、器用に銃を戻し始めた。

 作業できる手が多いということもあるが、迷いのない動きで、てきぱきと作業を進めた。

 数分後、あっという間に銃は素の形に戻っていた。


「はい、これで文句ない?」

「あ、ああ」


 ジーノは驚きつつ、投げられた銃を受け取る。見た目は直っているように見える。

 試しに一発、撃ってみると、弾の軌道はまっすぐで変わらなかった。


「ちょっといきなり撃たないでよ。怖い」

「悪い。ちょっと驚いてな」

「何が」

「本当に戻せるとは思ってなかった」


 そう言うと、コルルは理解できないという顔をする。


「当然でしょ。というか、あんたも戻せるでしょ、人間だし」

「いや、ここまでされたら戻せない」

「ガラクタを使っているのに?」

「お前の言葉を借りて言うなら、ガラクタの種類によって、専門の技術者がいる。その専門に合った技術者じゃないと、基本修理できない」

「へーそうなんだ。なんかめんどくさいね」


 おもちゃを取り上げられたコルルは興味をなくしたようで、潜水艦の中へ戻ろうと、入り口に触手をかけた。


「待て」

「何」

「他にお前って何ができるんだ」

「何って分解と修理のこと? 大体なんでもやるけど」

「なるほど。ここにあるものって、お前が修理、もしくは改造したものなんだよな」

「そうだけど」


 ジーノは口に手を当て何かを考えた後、コルルに言った。


「俺に見せてくれないか」


 コルルは一瞬驚いたが、嬉しそうにジーノの前に下りてきた。そして自信満々に腰に触手を当てた。


「どういう風の吹き回しかわからないけど、いいよ。やっとあたしのすごさがわかったようね」

「そうだな。見くびってた」

「いいわ。来なさい。全部教えてやる」

「それも嬉しいが、お前が使い方を知らないやつを教えてくれないか」


 コルルは首を傾げる。


「なんで」

「俺がクララと別れる前、クララはこう言ってたんだ。俺とコルルがに会うことに意味があるって。その意味って、ガラクタを知っている俺と、ガラクタを修理できるコルルで村を救えるってことなんじゃないか」

「クララ、そんなこと言ってたのね。……確かに一理あるけど、クララはガラクタのことをよくわかってないわ。そんなよくわからないもので救えるなんて思うかしら」

「天才。そうお前のこと呼んでただろ。だからこそ、縋ったんじゃないか。よくわからないからこそ、可能性があるって」

「……確かにそうかもね。わかった。教えてあげる。けっこういっぱいあるの。人間のあんたならわかるかもしれないね」


 そういうと再びコルルは潜水艦の入り口に手をかけた。


「あ、そうそう、今度は寝るんじゃないよ」

「……努力する」


***


 コルルは様々なガラクタをジーノに見せた。

 フライパンや、長靴に水鉄砲。使えそうにないものばかりだった。

 深海に運良く修理可能な状態で落ちてきたものなんて、そう多くはないだろう。

 期待が大きかった分、失望も大きかった。

 ジーノは元気がなくなっていったが、コルルはガラクタのことをたくさん話したり聞けたりして楽しそうだった。


「次はこれ、『動かすくん』の何かだと思うんだけど、全然わからないんだよね」

「とりあえず、見せろよ」

「ものじゃないから、ほら入って」


 ジーノは潜水艦の中に入ると、目を見開いた。


「ほら、この画面。円が大きくなるだけ。意味わかんないでしょ」

「これ、……ソナーじゃないか!」

「知ってるの」

「ああ、もちろん」


 音による探知は水中の電子技術と映像解析が発展した現代において、リアルタイム性がなく、骨董品だ。

 しかし、ジーノはなぜか使いやすいという理由で愛用していた。

 ジーノは食いぎみにソナーを見たが、画面には同心円が描かれるだけで、何も映らない。


「これ、受信機みたいなのなかったか」

「さあ、わからない。適当に直して繋げてみただけだから」

「壊れてても仕方ないか」


 そう言いつつ、ジーノはポケットの中から通信機を取り出した。


「それは」

「まあ、見てな」


 この通信機には、緊急時に備え、鯨の声を拾う機能がある。周波数さえ合わせれば、ソナーの音も拾えるだろう。

 コルルが興味深そうに見ている中、通信機をいじると、ソナーの円に合わせてかん高い音が鳴った。

 急に音が鳴ったせいか、コルルは驚いてジーノに抱きついた。


「な、何の音」

「俺が出した」

「やばいの」

「やばくない」

「そんなわけないでしょ。こんな変な音出して」


 そこで、初めてコルルが怯えてるのに気づいた。


「大丈夫か」

「そんなこといいから、その音消して」


 ジーノは通信機をいじり、音を止める。


「これでいいか」

「うん」


 コルルはよほどパニックだったようで、しばらくジーノから離れなかった。


「悪かった。そんなに驚くとは思ってなかった」

「怖がってないし」


 コルルはジーノを突き飛ばすと、潜水艦を出て周囲を見回した。

 まるで、敵を警戒する動きだった。

 見回りが終わると、コルルは潜水艦に戻ってきた。


「とりあえず、問題なさそう」

「そいつは、よかった」


 音を出したのはジーノ本人なので、危険が迫っているわけではないのは知っていたが、コルルの態度を見ると、どうも言えなかった。

 そんなジーノの顔を見るとコルルは不満そうに、口を尖らした。


「あんたにとっては、どうでもいいことなんだろうけど、あたし達にとっては怖いの。敵が近くにいるのかもしれないと思うとね」

「悪かった」


 ふと、今になってクララと初めてあったときのことを思い出した。クララもジーノとあったとき、パニックを起こしていた。

 クラゲは狩られる側の生物だからなのか、警戒心が強いのかもしれない。


「音量を下げれば、平気だったりするか」

「できれば、鳴らしてほしくないんだけど」

「それは難しい。ソナーはかなり使えるかもしれないからな」

「それ、ソナーって言うの」

「ああ、音を放ち、跳ね返った音を検知して、周囲の状況を把握する。残念ながら、受信機が壊れているみたいだが、音は出ている」

「それがさっきの音ってこと」

「そう。鯨の声と同じで周波数が高いから、拾えた」

「よくわからないけど、音がでたくらいで何ができるの」

「外にいるリタと連絡が取れるかもしれない」

「え、リタってもしかして、鯨のリタ様」

「そうだが」

「あ、じゃあ、この魚影は」


 コルルが無数の触手で器用にキーボードを叩くと、画面が切り替わり、巨大な魚影が映る。

 その巨体を目にすると、思わず声をあげた。


「リタ! 無事だったんだな」

「リタ様だったんだ。村付近にずっといたから怖かったんだけど、リタ様なら安心ね。というか、ずいぶん大きくなったのね」


 画面を見ながら、コルルは驚いていた。


「クララも言っていたが、やっぱりリタは深海に来たことがあるのか」

「うん。リタ様はあたし達の英雄」

「そうらしいな。クララから聞いた」

「そうよ。で、リタ様はこのソナーってやつの音が聞こえるの?」

「ああ、そうだった。鯨は聞こえる音域が広く、ソナーの音が聞こえるはずなんだ」

「そうなんだ。さすがリタ様」

「ただ、一つだけ、問題がある。リタがモールス信号を知らない可能性が高い」

「?、も、もーるす信号?」

「音による言語だ」

「へえ」


 不思議そうにするコルルを他所に、ジーノは思考を巡らせた。

 普通の鯨なら、非常時の時に備えて知っている。しかし、深海で先生と過ごした記憶しかないリタは、モールス信号を教わる機会がない。

 ジーノはだめもとで、ソナーのオンオフを駆使し、モールス信号を送った。

 ジーノが信号を送り終わると、すぐに受信機がなり始めた。

 ジーノは驚く。しかも、ちゃんとモールス信号で返ってきていた。


「これ、成功?」

「ああ、そうだな。無事だって」

「へえ。どうやって、言語化してるのかわからないけど、リタ様が出していると思うと、心強いわ」

「そうだな」


 気になることはあるが、リタの無事と外からリタの協力が得れるようになったのは大きな収穫だった。


「フィロゾーマを倒すのが、現実味を帯びてきたな」


 ジーノはそう呟きつつ、リタに信号を送り続けた。

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