第五節
ジーノはコルルが出てくるのを待ちながら、周囲を見て回った。
海草や藻の中に鉄パイプとカメラが隠れていたが、それ以外は特に変わったことはない。
藻の中にも無数のコードが隠れており、それらすべてが、潜水艦につながっている。
潜水艦の外装を確認した限りでは、動くことは無さそうだが、ライトがついている以上、一部機能は生きているようだった。
「ねえ、さっきから、何やってるの。キモいんだけど」
「単純に気になっただけだ。この潜水艦を通していろいろ操作しているみたいだけど、どうなっているんだ。本来、潜水艦にそういった機能はない」
「何その、潜水艦って」
「?、お前が乗ってるやつだろ」
「『動かすくん』?」
「……なんだそれ」
「その顔、むかつくんだけど」
「なんで、顔見えてるんだよ。潜水艦の死角にいるはずだぞ」
「『ナビゲートくん』で見てるに決まってるでしょ」
「なんだよそれは」
「あんた、浅海の人間でしょ! なんでガラクタのこと知らないの」
「そんな『ナビゲートくん』なんて知らねえよ」
会話が嚙み合わないことに怒りを覚えてか、コルルは潜水艦から出てきた。
何をするか見ていると、いきなり触手で腕を捕まれたかと思えば、潜水艦の中に突っ込まれた。
「何すんだよ」
「これが『ナビゲートくん』。思い出した?」
入り口に向けていた目を潜水艦内部に向けると、壁一面に監視カメラの映像が映っていた。
まるで、監視室にでも入ったかのようだ。
「カメラか」
「何、カメラって」
「たぶん、お前が『ナビゲートくん』って言ってるやつ」
「……そうなの」
コルルは驚きながら、逆さになり、傘だけ入り口から、顔をのぞかせる。
「『映すくん』ならまだわかるが、なんで『ナビゲートくん』なんて呼んでいるだ」
「だって、『ナビゲートくん』は道案内するための道具でしょ」
「使えなくはないが、限定的すぎないか」
「だって、クララがここまで来れなかったときに『ナビゲートくん』を使ったの。だから、これは案内をするための道具だと思った」
「なるほどな」
「何、バカにしてる?」
「いや、そういうわけじゃないが、機能は同じだが、用途が違うだけで、こんなに違うんだなって」
「じゃあ、浅海では『ナビゲートくん』は何するための道具なの」
「映像を保存するための道具だ」
「保存して、どうするの」
「道案内のために使ってもいいし、昔を懐かしんだり、何かの記録して残して置いたりする。娯楽としても楽しまれる」
「ふーん、浅海ではそう使われているのね」
相変わらず不服そうだが、耳を傾けるようになってきた。
「他にはあるの、浅海では違う使われ方をしているやつ」
「この潜水艦とかか。『動かすくん』だっけ」
「それは……」
ガラクタの話をすると、驚くほど会話が弾んだ。どうやらコルルはガラクタにものすごく精通しているらしい。
話していくと、大体が本来と違う使われ方をしており、その違いに気づくと、コルルは不満そうにするが、浅海の使い方を聞きたがった。
聞いた後は、その使い方を批判するわけでもなく、興味深そうに何かを考えてた。
ジーノもジーノでコルルの話には驚かされていた。
彼女は浅海から落ちてくるガラクタを修理して使用しているらしく、内部の構造に詳しかった。
知識は偏っているが、そこらのエンジニアよりはるかに優秀だ。
特に驚いたのはこの潜水艦で、外装などの動かす部品は壊れたままだが、コルルの改造により、コンピューターとして生まれ変わっている。この潜水艦を使い、鉄パイプや筒を動かしていたらしい。
天才。そうクララは言っていたが、コルルはその言葉に恥じない本物の天才だった。
「ガラクタのことこんなに話したの、久しぶり。普段はクララしか聞いてくれないから。クララも難しいことはわからないし、楽しかった」
「俺も深海にこんなやつがいるとは思わなかった。浅海にいたら、仕事に困らないだろう」
「あたしとしては、本来と違う使い方をしていたのが、ちょっと悔しいけど。まあいいや、今日、気分いいし」
「なら、良かった。あと、気になっていたんだが、動力は何だ」
機械を動かすには動力がいる。浅海では、海流による水流発電、波力発電などが一般的だが、水流の動きが穏やかな深海では不可能と思われる。
「ああ、それ。来て。実物を見た方が面白いから」
コルルは得意げに立ち上がると、海藻を書き分けすぐそこの細道まで泳いだ。そして、ジーノを手招きする。
ジーノはコルルの態度に不思議に思いながらも、コルルに続いた。
しばらく泳いでいくと、どこからか空気が漏れる音が聞こえた。
音はだんだん大きくなっており、近づいていっているように感じた。
「なんか大丈夫か。空気の音が聞こえるんだが」
「平気。それが普通だから」
どこか不安に思いながらも、コルルの後を続いた。
数分泳いでいくと、水が煮えたぎるようなぼこぼこした音がたくさん聞こえてくるようになった。
それだけではなく、時々爆発音も聞こえてくる。
本格的にやばそうなところに連れてかれ、ジーノは何度もコルルに大丈夫なのか確認した。
けれども、コルルの返事は全て平気平気と、すごいもの見せてあげるからだけだった。
音が心臓にまで響くようまでなったとき、コルルは泳ぐのをやめた。
岩の隙間から、外の様子を覗き込むと、ジーノに見ろと促してくる。
ジーノがそっと、隙間を覗き込むと、目の前を大量の泡が、天へ向かって伸びていた。
「何だこれは」
次の瞬間爆発音が鳴り、岩がジーノの前を横切った。耳を塞ぎながら、恐る恐る泡の吹き出し元を見ると、尖った岩山の天辺から、煙のような何かが噴き出していた。
「まさか、海底火山か」
「正解。知ってるのね、意外。浅海にもあるのかしら」
「あるらしいが俺は見たことがない」
「そ、なら良かった。すごいでしょ。この迫力」
「すごいが、こんなに近くにいて危なくないのか」
「ある程度は危ないと思うけど、ここが一番近くて安全に見えるところだから。海底火山のすごさをあんたに見せたかったの」
「なんでわざわざ俺に」
「動力が見たいって言ったでしょ」
忘れていたここに来た理由を思い出す。
「あれが、動力だというのか」
「大体そう。詳しくは海底火山の熱とその周囲の温度差で、『エネルギーくん』を回しているってところかな」
「『エネルギーくん』って、まわるやつか」
「うん、そう。浅海にもあるの」
「俺が想像したやつならそうだな」
おそらく『エネルギーくん』はタービンだろう。
「それにしても海底火山で発電か」
「何?」
「いや、考えたこともなかった。なんていうかクレージーだな」
「何を言ってるかわからないけど、悪いこと言われているような気がする」
「いや、何でもない。聞かなかったことにしてくれ」
「はあ?」
その後も、コルルの力説は続いた。最初はコルルの技術力に関心していたが、あまりにも話が長く、どんどん専門的になっていき、ジーノもついていけなくなってきた。
頭が根を上げると、徐々に眠くなってくる。
しばらくすると、頬に強い痛みを感じ、目覚める。
怒りながら去っていくコルルが視界に写り、ことの顛末を知った。
ジーノは謝りつつ、コルルの後を追った。




