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死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第二章 星蘭と存続の足跡
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第二章38話 原罪は偽善にあり

青海夜海です。

よろしくです。

 

 リヴが眠りについた後、アディルは立ち上がり家を後にした。

 外に出ると集っていた多くの民人は一人もおらず、『リヴを説得して明日には軍に突き出す』という嘘を信じて今日のところは手を引いたようだ。向こうだって時間があればより罪人を正確に裁くための準備ができるというもの。そういったことも含め今日のところは引かせた現在、アディルは秘密裡に動き出す。


 現在時刻は深月の十九時。月隠れだ。昇月まで残り十八時間。移動や交渉などやることを考えるととてもじゃないが朝に間に合うかわからない。


『泣き言はいらねー。やるんだからやるんだよ』


 そうだ、最愛の妹のためならば命すら削ろう。死地にだって飛び込む。それが兄としての矜持だ。


『とにかく行こう』


 六歳のアディルの足では一つの都市を移動するだけでもそれなりに時間が掛る。ましてや他の都市に行こうものなら疲労も相まって大人の数倍以上はかかるだろう。

 だからアディルは用いる手札で最大効率を生みだせるよう思考して動き出す。

 まず向かったのは都市ウハイミルの南西区域の火災被害の現場。身を隠しながらとある階級の人物を探す。

 事件から四日が経った現在、現場には多くの憲兵や兵士が調査と瓦礫の撤去に奔走していた。加えて千に及ぶ死者の回収や判定も軍が担い、子ども如き目の端に映っても構っている暇はないと言う風だ。

 スミレたちは救助されたのちすぐに治療を受け一命を取り留めた。他の被害者たちも軍兵の医療班によって治療が行われ、ほとんどの人は身体の傷を死から遠ざけてもらえただろう。

 また、バラバラに避難した家族が再開を果たしている。この四日間はそういった四日間であり、それでも今なお逢えていない彼らは最悪な結末を片隅にそれでも奇跡を願っていた。


『ここら辺か?』


 アディルはとある階級職の人物を探す。

 捜索と調査を行う部隊には絶対に一人はいる指揮官の存在。軍服の胸に将官の紋章を持つ位の高い人間。


『いた』


 視線の先で兵士に指示をする角刈りの男がいた。名は知らないが軍服の胸の紋章は確かに将官の位を表していた。

 アディルは隠れながら将官が一人になり周囲の意識も他を向いた瞬間に迫った。


『なんの用だ小僧?』


 振り向かずとも気づかれ歯がゆく思うが、尋ねられただけ話す余地(よち)があることに感謝して重要な情報を戸惑いなく明かす。


『俺の名はアディル。トマス・リーカー・トムズ総司令官に頼みがある』

『貴様ふざけて……まて、アディルだ? 貴様の親は』

『キツネだ』


 将官は数秒考えこみ背後のアディルの頭を突き、右に指をさす。


『あの箱に入れ』


 アディルは返事することなくすぐさま移動する。指定されたのは軍が運搬してきた食料の入った箱だった。アディルは軍人の眼を盗んで三つあるうちの一つに入る。その際に蓋に切り傷をつけておく。

 息を殺し潜んでいると将官が一度都市アカリブに帰還する旨を告げ、アディルが入っている箱が持ち上げられる。


『ん? なんか重くないかこれ?』

『同僚の親の遺品を入れてある。武器もありやがったからそのせいだ』

『わかりました』


 早速バレそうになったが将官殿がうまく誤魔化してくれたようだ。

 アディルはそのまま軍人たちに運ばれ転移門を通り都市アカリブへと移動した。


『先の箱だがそこに置いておけ。俺が運ぶ』

『了解いたしました』


 きびきび動く兵士に疑いの余地はなく、将官はアディルの入った箱を持ち上げて歩き出す。


『で、軍をえらく嫌ってる異端児がこんな夜になんのようだ? 良い子は寝る時間だぜ』

『寝るには早すぎるだろ』

『まーな。別に暇ならいつ寝て起きてもいいわけだ。それこそ徹夜ってのも貴重な訓練だぜ』


 まるでこちらの真意を理解しているような口ぶり。あの場を取り締まっている将官ゆえに多くの情報を持っているはずだ。そこから逆算したのかわからないが。


『頼みってのは実にいい言葉だ。見返りがあるからな』

『…………』


 下手なことを口走れば逆に追い込まれる可能性を考慮しアディルは口を噤む。そんなアディルに将官の男はハハと笑った。


 『貴様本当に小僧か? こりゃトマト総司令官様が気に掛けるのもわかりやがるぜ』


 なにがとは言わないが理解を得られてしまう。

 将官はそれ以上何も話さず、しばらくして立ち止まった。トントンとノック音が響き『ガハック・デリュ・パーデン将官。都市ウハイミルよりただいま帰還しました』と声を張る。すると『入れ』とうながされ扉が開く感覚が伝わり緊張が身体を走る。

 本当は嫌だ。今すぐに帰りたい。けれど、妹のためには代えられない。


『失礼します』

『うむ。なんだその箱は?』


 威圧的な声音に嫌気が差す。それでもやるしかないのだ。

 リヴを救うために。


『総司令官に是非ともお会いしたいとのことでして』

『逢いたいだと?』

『はい。なんでも頼みたいことがあるとのことです』


 最低限の体裁は将官の首の皮を縫う仕事。箱を凝視して思考するトマト総司令官はいいだろうと了承した。


『では』


 そう言って将官は箱の蓋を開ける。眼を差す光を浴びながら三秒の間を置いて覚悟を決め、箱からアディルは出た。


『貴様は――』

『久しぶりだな、総司令官様』

『異端児アディル!』


 驚愕するトマト総司令官。呆気に取られる彼に変わり、突然現れてはなめた口調で総司令官を呼ぶ餓鬼に『無礼者!』と護衛たちが切りかかろうと剣を抜き。

 そんな騒然と唖然を切り払うように、アディルは鋭く告げた。


『総司令官に頼みがある――』


 毅然とした立ち振る舞いと真の声に本質を理解しトマト総司令官は護衛たちに待ったをかけた。


『アレは俺の客人だ。下がっておれ』

『……わかりました』


 護衛たちは大人しく下がり、残されていた将官にも『貴様は外で待て』と命令を出され、彼も引き下がる。

 改めて対峙することになった二人。

 仕事席に着くトマト総司令官にアディルは単刀直入で申し上げた。


『トマト総司令官、都市ウハイミル全住民からリヴの記憶を消してくれ』

『――貴様正気か?』


 総司令官すら予想していなかった頼み事に虚をつかれ訊ね返す。見定める眼は一度目を閉じて開く。純宝石の瞳に揺るぎない覚悟と決意を刃物のように宿っていた。

 アディルは希う。


『ああ正気だ。不正な罪を擦り付けられている今、リヴを助けるにはそれしかない』


 故に。


『ウハイミルの全住民からリヴの記憶を消してくれ』


 それがアディルがリヴを助けるために思いついた唯一の案だった。そしてそれが可能な人物こそ目の前で眼を細めるトマト総司令官であり、交渉の余地があるのも彼だけだった。

 幼い頭で未熟な自分ができることを精一杯に思慮した結果。アディルはこの舞台へと上がったのだ。


 彼は嘆息しふざけたことをと吐き捨てるが、その眼は今だにアディルを試している。彼は肘に机につき重ねた手に顎を乗せて問う。


『貴様は頼みと言ったな』

『ああ』

『ならば、貴様は我々に何を返せるか?』


 これは交渉であり取引だ。アディルがお願いしている事象は遊びや実験でしていいようなものではない。大きな物事にはそれだけの対価が必要となる。

 そして、アディルはそれ相応の対価を持ち合わせていた。ただ一点のみに作用するこの身の価値。とある組織が口をそろえてほしいと申し出た異端なる奇石。

 アディルは自分の胸を叩き。


『俺とリヴが十歳になったら―――――』


 それを対価としてアディルは掲げた。二度目の驚愕はより大きく、トマト総司令官は再び問う。


『それが貴様の意志か?』

『ああ、リヴを救えるならなんだってしてやる』

『その言葉に偽りはないか?』

『偽りはねー。その年を絶対厳守にしていいぜ』


 子どもとしての自儘とリヴを助けたい兄の想いがその提案を生んだ。そしてそれは軍にとって喉から手がでるほど欲しい価値だった。

 トマト総司令官は立ち上がる。


『火災事件のもみ消しだ』

『ふざけるなよ。俺はっ!』

『期限を貴様が定めるなら、そして大罪を犯しながら隠す気概でいるのなら貴様の手で示せ。その手が汚れる覚悟があるか?』


 アディルの中の一番は変わらない。手が汚れるよりも、大罪人になるよりも、リヴの幸せこそがアディルの一番だ。

 だから迷いはなかった。


『言っただろ。リヴを助けられるならなんだってするって』

『――決まりだ。貴様の思い描く未来とやらをできるだけ忠実にしてやる』


 この日この時この場所で、きっと歯車が動き出したのだ。




 結果を言えば、他者の記憶からリヴのみを消去する方法はなかった。それをうまく隠しアディルをその気にさせたトマト総司令官の勝ちであり、子ども故に気づけなかったアディルの負けだった。

 しかし事、リヴの件において軍は懸命に動き火災事件をもみ消すことに成功した。記憶を操り矛先を変換させたりと色々な方法でウハイミルに限らず多くの人間から火災事件はただの事故として処理されていった。

 だが、そこで残るのは記憶の操作をしても事実を消し去ることのできない者たち。それをどう処理するか。

 その処理こそアディルの最初の軍から与えられた任務であった。




 悲鳴が止む。霞のような悲鳴は血飛沫となって路地裏に染まる。閃光が走り一瞬で命が狩られる。

 昇月が来る前の僅かな時間。闇を駆ける小柄な殺人者によって、次から次へと人が殺されていく。

 血が飛び、貌を汚し、喉が裂かれ、命を途絶える。

 無慈悲に慈愛を込めて眼を伏せて懺悔しながら。


『や、やめ――』


 苦しむ暇もなく狩り取られた命はそれでも悲鳴を上げた。


『いやだ! いやだ! いやだよぉ!』


 菫色の髪の少女の首を絶つ。


『なんで……俺が何したって——うわァアアアアア⁉』


 長身の少年の心臓が貫かれた。


『僕はっ悪くない! 悪いのは全部全部っ! あいつなんだぁっ!』


 狂騒する眼鏡の奥の瞳を一瞬で闇へと突き落とす。


『うぁああああああ! ぼ、ぼくはっ知らない! ぼ、ぼくは関係ないんだーっ!』


 戯言を吐くおどおどした少年の人生を閉ざす。


『き、来やがれッ! お、オレは悪くねーッ! あいつがミリエラを殺したのがわりーんだろ! く、来るな! ァァあああああああああああああっ!』


 果敢で挑んできた少年と剣を交え、血花を咲かせた。


『…………私は私が間違ってたなんて思ってないわ。ただ……こんな終わりは一生許せそうにないわね』


 諦観と妥協の奥で復讐を募らせた少女の胸を貫き刹那に絶命させた。


 すべては無へと幽世へと隔絶させる。ただ一人の妹を守るために、その剣は数多の心の臓を貫き鬼閃となって腐蝕の罪を切り払った。

 そして、残ったのは血の香りと風の冷たさ。それは虚しさとやるせない達成感だった。


『…………』


 残響のような悲鳴と絶叫が迸った夜を越え、月が昇り光を与える。

 やって来た昇月(あさ)に照らされた少年は黒衣を真っ赤に染め、すべてを吐き出す、すべてを抱えるように懺悔を送った。


 それがアディルの最初の罪であり、リヴの罪を背負い込む覚悟の行為であった。




 そして、目を覚ましたリヴにアディルは告げたのだ。


『ぜんぶ終わったぞ。もう、オマエを苛むもんはねー』

『……お兄ちゃん』

『だから、全部忘れてオマエは好きなように自由に生きろ』


 そうして、兄は妹を罪から救ったのだった。




 *




 きっと死んでも知りようのなかった残酷な結末。リヴを救うためにアディルが何をしたのか。そのために()した代償はなんなのか。すべてが鮮明に忠実に十六歳のリヴへと流れ込み刻み込まれた。

 血濡れた兄の手と一緒に。その赤はリヴの罪だった。リヴの罪をすべて奪い取った血濡れだった。それをさせたのが間違いなくリヴだった。

 そして何より――


「軍に入る本当の理由が……あたしのせい」


 アディルは軍に交渉をした。とある願いを叶えてもらうために大切なものを捧げると。それこそが、十歳になったら軍に所属する契約だったのだ。


「うそだ……だって、お兄ちゃんは強くなるためにって」


 軍に所属したのは強くなるため。キツ兄が【エリア】の最下層に残した遺産を取りに行くため。ついでにキツ兄から教えられていた寿命を延命する手段を探すため。戦う術を身に着けるためにキツ兄が帰らなくなったタイミングで軍への所属を決めた。

 それがリヴに話してくれた理由だった。それ以降も、アディルは人に説明する時は同じ理由を述べているから疑ったことなどなかった。

 けれど、過去のアディルはトマト総司令官に確かに告げていた。


 ――俺とリヴが十歳になったら軍に所属してやる、と。


 それがアディルの唯一にして最強の手札だった。苦肉の策とも言えよう。その苦肉の手札を切らせた理由こそがリヴだ。


「…………ずっと、あたしを(かば)っててくれたの……?」


 アディルは偽善者でありシスコンだ。彼は妹のためならばどんな嘘でも吐き、仮面をかぶり、痛みを隠し、リヴの兄でいようとする。度が過ぎるような愛だが、その愛は正しくリヴを守護していた。

 リヴにやり直す機会を与え、リヴの罪をすべて引き受け、リヴを守れるようにあらゆる手段を行使していた。こうなればリヴの問題行動さえ裏でアディルが何かをしてお咎めなしにさせていた可能性も否めない。


「お兄ちゃん……」


 泣き崩れるリヴは多大なる兄の愛を感じた。本当に愛してくれていることを実感した。

 唯一残っているミリエラを殺した罪を正当化するための仮面が剥がれ、あの頃の弱虫なリヴが剥きだしになる。

 涙を零す。嗚咽を漏らし、兄を何度も呼ぶ。

 しかし――


「すべて思い出したね。全部知ったね。それで、お姉ちゃんはどう思ったの? うん?」


 リリアは嘆くことを許さない。過酷な過去に向き合わせる。膝を崩し座り込むリヴを覗き込みながら楽し気にリヴの周りをスキップする。


「友達を殺しただけじゃなくて、お兄ちゃんに殺害までさせた。ぜんぶぜーんぶ! お兄ちゃんのお陰なんだよ」

「あとね、お姉ちゃんのせいで死ななくてもよかったみんなが死んじゃった。これってお姉ちゃんは悪くないのかな? あ、でも、お兄ちゃんが勝手にしたことだからお姉ちゃんには関係ないかー。ごめんね。お姉ちゃんのせいなんて言っちゃって」

「でもさー、お兄ちゃんが軍に所属する理由もお兄ちゃんが人殺しになっちゃったのも。――ぜんぶお姉ちゃんが理由なんだね」

「ねえ、お姉ちゃん。みんなみんな死んじゃってお兄ちゃんは不幸になっちゃってどう思ったの? リリアに教えてほしいなー。お姉ちゃんが今どんな気持ちなのか、ね」


「~~~~~~~~っっっ」


 痛撃が走る。寒気が身体中を苛む。心臓を圧迫させ、深海に落ち潰されていくみたいに、苦しくて冷たくて痛くて真っ暗だ。

 リリアの言う通りだった。みんなが死んだのもアディルが望まぬ罪と未来を背負ったのも、その原因はリヴにある。リヴが弱かったから。リヴがミリエラを殺したから。その罪を認めなかったから。身に覚えのない行為に対してちゃんと反論しなかったから。

 後悔が押し寄せる。寝ている間にどうしてかすべてが終わっていた事実に甘えて、『道化』を装った。もう二度と罪に苛まれないように、奇人を装い言い訳を沁み込ませて一人称を『あたし』にして(いさ)めながら『生きるために殺した』と彼女の死を偽った。

 それで今までやって来た。生きてこられた。事実を何一つ知らず、アディルによって守られていたから。


「あはっ! うんいい顔。そんなお姉ちゃんはこれからどうするの?」


 顔を上げる。どうする? なにが?


「簡単だよ。ほらお姉ちゃんの罪が明らかになったでしょ。つまりお姉ちゃんは償わないといけないんじゃないかなーってリリアは思うの」


 そうだ。リヴの究極の罪は現実から逃げてアディルに縋ったこと。それがみんなを死へと追い込んだ。誰かの悲しみも悲願も復讐心も踏み躙った。何よりアディルにそれをさせた。それがリヴの最大の罪であり、今に発覚したこと。

 身に覚えのない罪に酷く怯えるリヴ。しかし、身に覚えのない罪は事実、軍とアディルによって揉み消された今、身に覚えのある罪のみが残り、ならばリヴはその罪を償わなければいけない。


 それは――


「スミレちゃんが死んじゃった。ワルダくんが死んじゃった。オーレッドくんが死んじゃった。リョウくんが死んじゃった。ホタカが死んじゃった。ラムが死んじゃった」

「――やめって!」

「パン屋のおじちゃんが死んじゃった。服屋のおばさんが死んじゃった。肉屋のお兄さんが死んじゃった。あの家のお母さんと子どもが死んじゃった」

「やめてっ! あ、あたしは殺して」

「うんそうだね。アディルお兄ちゃんが殺したんだもん」


 ――命を拉げ潰すように残酷なことであり。


「お姉ちゃんはね、アディルお兄ちゃんの純情も殺したんだよ。子どもだったアディルお兄ちゃんを殺して大人にさせたの」


 ――抉り獲った心臓に釘を打ち付けるような仕打ちであり。


「お姉ちゃんはこの罪にどうやって償うのかな?」


 ――償うなど絶対不可能な罪であった。


 こちらを喜々と純粋な眼差しで見下ろすリリア、頬に添えられたリリアの手すら払えず、その紅月色の瞳が逃がさない。


「……………………ぁ」


 リヴは壊れたように涙を流し続けた。声もなく感情もなく、それらが零れていく。何も考えたくないとふさぎ込み、逃げ出したいと首を横に振り、今度はリリアに縋ろうと手を伸ばし――


「あんたって何も変わってないわね」


 心臓を撃ち抜かれた。想起するあの日々の中で愛していた彼女の声音。はっきりとなった声質はあの頃と同じく威圧的で電撃のようにリヴを振り向かせる。


「ぁ…………」


 零れた声はどんな意味があったのか。希望か絶望か。はたまた歓喜か悲嘆か。

 ただ、声の主はリヴが知る姿よりずっと大人になってべそをかくリヴを見下していた。

 朱色の髪の少女だった女は紅の唇で言の葉を紡ぐ。


「久しぶりねリヴ、逢いたかったわ」

「…………ミリエラ」


 彼女は鼻を鳴らし。


「あたしの名前を呼ばないで、裏切り者」


ありがとうございました。

ここで一度リヴの話しは終わりです。

体調が悪いので、次の更新は遅くなると思います。

予定としては金曜日辺りには更新する予定です。

それでは。

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