表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第二章 星蘭と存続の足跡
90/129

第二章32話 裂罅

青海夜海です。

二週間、学校を休んでしまった。明日から頑張ります。

 

 夢を見る。また同じ夢を。繰り返し繰り返し何度も何度も。

 結末は変わらないのに、自由には動かない確定した夢は過去だ。

 その夢はあの日々の涙を何度も追悼させる。烙印のように焼き付いて離れない最後の死に際。声も言葉も表情もすべて。欠片とて忘れた事はない。イヤというほど夢に見た情景は己を苛みながら己に核心的な強さを与えた。

 だから、また同じ夢を見る。何度も何度も繰り返し繰り返し。

 そんな日々の中、いつだって思うのはただ一つ。


 ――生きてほしい。


 呪いのように何度も死ぬあの人を見て、切実にそれだけ望んだ。その望みはやがて膨らみ、それこそ生き返ってほしいと、実は生きているんじゃないかと、そんな夢想を描くようになり、そんな自分を許せなくなる。

 それもまた繰り返す出来事。

 呪のように夢で死に続ける彼女こそ、アディルの生を鋭利に実感させていた。

 だからこそ、受け入れらないのだ。目の前の現実がアディルは不可解でならなかった。ありえない、あるわけがない、あってはならない。


「…………」


 けれど、心のどこかで望んでいた真心が否定の言葉を口に出させなかった。


 唖然とするアディルに、その女性――アクレミアはぎこちなく笑みを浮かべる。彼女が困った時によく見せる苦笑だ。

 嗚呼、彼女はアクレミアだと魂が理解する。

 ならば、生き返ったのか、それが受け入れられない。アディルは水滴のような言霊を口から伝える。


「なんで……? 死んだ、はずじゃ」

「…………」


 彼女は答えてくれなかった。


「アクレミア姉さん、なのか?」

「うん……ふふ、わたしは変わらないでしょ」


 彼女は自虐のように笑みを浮かべた。


「うそ、だろ? だってあの時! 俺の前でっ――」

「ごめんなさい、アディルくん」


 彼女は謝った。否定ではなく謝罪がされた。


「…………」


 言葉が出てこない。いざ奇跡の再開だと言われても理解が及ばない。やっぱり受け入れられない。何より――


「アクレミア姉さん」

「なに?」

「なんで、そいつがそっちにいるんだ」


 アクレミアの横に並ぶようにアリスがアディルから離れてこちらを見る。そこに埋まらない溝と砕けない壁があった。思想の隔たりがアディルとアクレミアを隔絶する。それが何よりの絶望的な衝撃だった。

 アクレミアは何も答えない。沈黙こそが問いへの解であり、アディルの思考への肯定であった。

 やめてくれ、そう頭を横に振る。

 こっちに来てくれ、そう見つめる。

 生きてるなら帰ろう、そう手を伸ばして。


「ごめんなさい」

「―――――」


 拒絶の彩がアディルを襲う。濁流のようにアクレミアから引き離される。まるで過去を捨て流すように、それ自体を武器としてアディルを傷つける。

 砕ける音が響いた。その音は何を砕いた音なのか直ぐに理解を得る。けれど、そんなことは認められない、認めるわけにはいかないから誤魔化すように怒りを沸かせる。傷痕も傷口も傷欠片も覆い隠し、なんとか二本の足で立つことができた。

 そんなアディルを滑稽だと、その声は嗤う。


「奇跡の再開のところ悪いけど、貴様の無様を見ていると笑いが込み上げてきて思わず出てきてしまいましたよ」

「――――」


 その声に聞き覚えがある。雰囲気からこちらに向ける殺意まで。その男の姿はとある怪物と共に記憶されていた。

 男は生前と同じ姿で、軍服とは異なる黒衣を纏った姿でアディルを呼ぶ。


「この前は素晴らしかですよ、異端者」

「ギウン・フォルス・サリファード⁉」

「ええ、私はギウン・フォルス・サリファード。貴様を殺すために戻ってきました」


 カバラ教の信仰者にして元軍の将官であるギウン・フォルス・サリファード。合成獣(キマエラ)となりアディルたちの冒険を阻み、返り討ちにした男は確かにそこにいた。

 死者二人の復活に混乱を極めるアディル。まさか夢想花(レヴァリア)が偶然にも二つあったというのか。だとすれば二千人以上の犠牲者が必要であり非現実的に思えたが、それ以外に目の前の事象の説明ができなかった。何よりも衝撃的なのが。


「アリス、アクレミア……オマエらは、カバラ教徒なのか?」


 答えなどわかりきった問に、アクレミアは沈黙を貫き変わりにアリスが。


「そうです。私たちはカバラ教徒です」


 明確に声明した。疑う一切の根拠が失われ、彼女たちの背後にいるギウンが前に出てくる。こちらを卑下(ひげ)した嘲笑(わら)っているような表情にぶわっと怒りが沸騰する。挫けそうだった足に力が籠り剣を構える。戸惑いを支えるように殺意が焦がす。

 まるで別人のようなアディルにアクレミアが悲し気な表情を見せ、ガリっと歯を噛む。


「テメェーは殺したはずだ」

「ええ、殺されましたとも。それはもう滑稽に呆気なく喜劇のように」

「なら出てくんな。とっとと地獄に行け」

「残念ながら。貴様たちを殺すまでは死ねませんので」

「ッチ。クソがァ。ならもう一回殺してやるよォ!」

「その前にお話しでも…………と言っても聞いてくれないのでしょ」

「――死ねッ」

「――っっ」


 アクレミアの叫びが聴こえたような気がしたが、迅雷の限りに掻き消し瞬きの速さでギウンの心臓へ剣を突き立て貫く。


「――っ⁉」

「残念ですが、私は貴様の知る私では既にありません」


 突き放った一撃は人肉とは思えない甲鉄な肉体に阻まれ、生まれた停滞を食うように炎の膜が肉体と剣先の間で膨れ上がり瞬間に大爆破した。炎の波が押し寄せ衝撃を加えてアディル共々に吹き飛ばす。


「がっぁぁーーっざけんなッ」


 炎波と衝撃を押し返すように風防御を展開して致命傷を防ぎ身体を捻って地面を削るように制止する。軽い火傷を気にする余裕はない。硝煙を払い顔を上げる。その視線の先には胴体以外が吹き飛んだギウンが見え、しかし見覚えのある能力、再生が瞬時に蘇生させていく。


「それが絡繰(からく)りか」

「いえ違います。ま、それについても詳しく話しますよ。貴様の愛する人がどうして生きているのかも」

「テメェーぶっ殺す!」

「それは不可能です。なぜなら」

『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ』


 三メル近い炎人がツインテールを呑み込んだ樹木を殴りつけた。焼き抉られた樹木は瞬く間に炎に包まれ絶叫のように燃え上がる。葉々を灰にし幹が崩れ去り骸のように燃焼させていく。成す術ない瞬間の出来事は瞬間的にツインテールのフローラスを完膚なきまでに葬った。


「――――」


 彼女の絶対死がアディルの聴覚を余計に敏感にさせる。

 絶叫が迸る。痛苦と慟哭が劈き。救済が燃やされる。

 そして、焼死体は纏わりつく永獄の烈火を身に纏い炎人へと変貌していった。永遠の檻が煉獄を味合わせその絶叫と命を糧に獣として誕生する。

 殺されたフローラスが次から次へと炎人と成り果てて立ち上がる。

 それは彼女も例外ではなかった。


「オマエ…………」

『――――。ッゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッ!』


 そこにいるのはツインテールではなかった。残忍に仲間を焼き殺した絶叫の炎人。それらは集落を荒し続け、やがてアディルへと眼を向ける。

 アディルは堪らずギウンへと吠えた。


「テメェーーーーッッッ! ざんけなァアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

「アハハハハハハ! 私はね、貴様のその歪んだ絶望を見たかったんですよォ!」

「クソがッ‼ 絶対に殺すッ‼」

「それが貴様にできますかね」


 アディルを阻むは百を超える炎人。奴らの向こうに隠れるアクレミアたち。出口は封じられ、背後は焼野原。逃げ道はなく、また逃げることも許されない。

 この言いようのできない激怒を宿し、この張り裂けそうな痛みを抱え、走馬灯のように苛む過去と現実を瞳に燃やし。


「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ‼」


 アディルは修羅の如く斬撃を迸った


ありがとうございました。

次はリヴのターンです。

感想などあれば気軽にどうぞ。レビューなどもよろしくお願いします。

次の更新は木曜日に予定しています。

それでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ