第二章28話 ツインテール
青海夜海です。
ツインテールは憧れですね。
「じゃあな」
歓迎虚しくアディルはすぐに踵を返す。すると、ダダダっとツインテールがアディルの前に回り込んだ。
「ちょっと待ちなさいよ! なんで「じゃあな」なのよ! 普通歓迎されるでしょ」
「別に用はねーし、俺は急いでんだよ」
「いやいやいや、何バカなこと言ってるわけ? 自覚ある? あの恐ろしい花嵐に戻ろっていうのアンタ!」
「それ以外になにがあんだよ」
「あるでしょそれ以外に!」
ため息を吐くアディルに「ため息を吐きたいのはこっちなんだけど」とぷんすか怒るツインテール。
彼女の言い分はわからなくもないが、こんな所で呑気にしているわけにはいかない。偶然にアディルは花村の庭園に辿り着いたわけだが、リヴとルナの安否の方が最重要だ。
だからアディルはツインテールを無視してその横を通り過ぎる。
「ってまだ話しは終わってないんだけど!」
と、またも回り込まれた。さてはこの女、案外にやるな。辟易しながらアディルは答える。
「終わっただろ。俺には外でやらなきゃダメなことがあんだよ。いいからそこをどけ」
「ちょっと! せったく助けてあげたのにその言い方はないでしょ! てか助けたんだから死なれたら嫌なんだけど!」
「…………オマエが俺をここに呼んだのか?」
「ん? そうよ。ほんと、アンタ一人を見つけた時はビビったわよ。アタシに盛大な感謝をしなさい。迷子のアンタを救った救世主のアタシに!」
ふふんと胸を張るツインテール。どうやらあの手を振っていた人影は彼女だったらしく、頭のてっぺんからめんたいこな波長を感じるツインテールがカバラ教と関わりがあるとは思えない。そもそも救世主を自分で名乗ったのでカバラ教では絶対になかった。加えてアディル一人という言い方からここにリヴとルナは立ち寄ってないことは窺える。なら尚更アディルはここに留まる理由がなくなったわけで。
「お節介だったが感謝はしてやる。じゃあな」
と背を向け。
「だーかーらー‼ 待ちなさいよ! ってお節介ってなによ‼ 本当ならアタシにひれ伏して「ははーん。お助けいただきありがとうございました‼ わたしはあなたの永遠の奴隷です!」ってなるはずよ!」
「リヴの同類かよ」
「失礼ね。あんなのと一緒にしないでちょうだい。アタシの方がエレガントで天才的で最強よ!」
「オマエ、リヴを知ってるのか⁉」
もしかしたらリヴもここに来ているのかもと期待を込めたが。
「知らないわ」
と一刀両断。
「知らねーのにすげー言い分だな」
「なんとなくよ」
「めんたいこかよ」
このツインテールもしかしたらリヴと姉妹なのかもしれない。そうなればアディルの妹か姉に当たるわけだが……髪色も白銀のアディルに似ているわけだが……
「いらねー」
「今とっても失礼なこと考えたでしょ! ねえ!」
という茶番は置いておいて、咳払いをしたツインテールは真面目な顔で問いかける。
「で、アンタそんなに急いで外に何しにいくわけ? 体験したからわかると思うけど、生身の人間が行くところじゃないわ」
「わかってる」
今回で二度目の『花舞の旧庭園』だ。その怖さは身に沁みて理解している。フローラスの彼女の見解は正しく、人間が生きるには過酷な世界だ。
だとしても、アディルは怖気づくことはない。
「仲間と逸れた。俺は探しにいくだけだ」
「ふーん、それってどんな人間?」
「……なんでオマエに言う必要があんだ? ここに俺以外の人間がいんのか?」
「残念だけど、今日のお客はアンタだけ」
「なら引っ込んでろ」
「あーもう! アンタ可愛くないわね!」
男に可愛さなどいるか。ツインテールはハアーと大きくため息を吐き、ぐいっとアディルに詰め寄る。
「っ⁉」
「いいから教えなさい」
上目遣いに睨んで来る女との距離はわずか数十セルチ。少し前かがみのその鎖骨から胸元へかけて白い肌が覗き、意識して見ていなかったが華麗な相貌がすぐそこでアディルを見つめている。唐突に意識しだす異性との距離感。左右の髪留めのように咲くルコンソウの香りが鼻孔をくすぐる。
ツインテールはもう一歩詰め寄り。
「ほら早く白状しなさいよ」
「~~~~っぁああああもう! クソがどけろ!」
「なによ。そんなに怒らなくてもいいじゃない」
ツインテールの肩を掴み強引に距離を取る。ぷんすか怒るツインテールのめんたいこな頭ではまた同じことをしてきそうで、アディルは迷った挙句、面倒を避けるために二人の特徴を伝えた。
「一人は俺の妹のリヴだ。ベージュのポニーテール。背はオマエより低い。俺と一緒で〈風懐の聖衣〉を着てやがる。中の服装は白のブラウスとコルセットのスカートだったか?」
「ちゃんと覚えてなさいよ」
「妹の服装なんざ興味あるか」
アディルはシスコンであるがあくまで親愛であり恋愛などでは間違ってもない。
ツインテールはふむふむと頷く。ちゃんと聞いてんのか?
「で、二人目はルナだ。桃色の髪の普通の女だ。年は同じくらい。身長はオマエより少し高いか同じくらいだ。〈風懐の聖衣〉の中は白と赤の……確かロングスカートだったか?」
「ふむふむ、妹よりはちゃんと覚えているのね」
「どう聞いても一緒だろうが。どこに違いがありやがった」
「ちょっと待ってて」
そう言うとツインテールは掌に一輪の花を咲かせ、その香りを嗅ぎ始めた。次に空に微かに光る星に掲げ光を与える。
「ふむふむ、わかったわよ」
掌の花をぱっと散らしたツインテールは訝しむアディルに得た情報を伝える。
「その二人だけど、ここじゃないアタシたちの集落にいるみたいよ」
「……今のはなんだ?」
「風は言葉を運び、香りは感情を嗅ぐわせ、星は情景を映す。アタシたちフローラスの種源がフローラスとなった時の手法よ。世界の御手を利用して一輪の花は人へと進化したと伝わっているわ。だから、アタシたちは原種に倣って活動してるってわけ」
なんとも叙事的な在り方だ。単為生殖のフローラスが言うのだからそれは真実なのだろう。
「まーアタシのエレガントで天才的な力を使って、アンタの仲間は他の集落にいることがわかったわ。ふふん、今度こそアタシに特大の感謝をしなさい」
「オマエは何もしてねーだろ」
「はあ? アンタねー。アタシが確認しなかったら意味もなくあの中に入って行ってたのよ。命拾いしたでしょ」
「んな程度で死ぬか」
「アンタ、ホントに可愛くないわね」
「オマエに言われたくねー」
ついついリヴに対するように接してしまい、ツインテールは。
「ふん! いいわよ! アンタなんて花の苗床になればいいのよ」
ぷんぷん怒りを露わにする。確かに、彼女のお陰で二人の安否は確認できた。心優しいフローラスならば二人に危害は与えないだろうし、アディルがフィンブルムの嵐に再突撃しなくて済んだのも事実。アディルは少しの罪悪感を覚えながらため息と共に言葉を零す。
「…………はあー、助かった。ありがとう」
横目にアディルを窺うツインテールはニヤリと笑みを浮かべ。
「ホント、最初から素直になっていればいいのよ。ま、そこまで感謝されたら仕方ないわね。特別に集落を案内してあげるわ」
「別にいらねーけど」
「そこは普通受け取るところでしょ!」
まったくとぷんすかするツインテールに引きずられ、アディルは花村の庭園へ招かれた。
ありがとうございました
ツンデレツインテールかわよ。
感想やレビュー等気が向けばよろしくお願いします。
次の更新は火曜日を予定しています。
それでは。




