第二章24話 軍の選択
青海夜海です。
コップと茶碗が割れました。
届いた本が破れてました。
親子丼、巧みに卵の部分と白米が分けられていて、白米の量を騙されました。器の四分の一しかないとはどういうことじゃい!
今は不運を貯めて、ガチャに運命を掴む!
スタレ、ホタル引きます!
東南東の戦線にて。再び侵攻してきた氷属性のパンテオンたちをラベット・ホルスターが率いる第十一部隊と他二部隊が対応していた。
まるで巣穴から移住するかのように百以上、下手すれば三百を超える群団に総勢八十九名の戦士と魔術師、そこに四人の歌姫によって戦線は持ち堪えられている。
「トマト総司令官の死を無駄にするなぁああああああ!」
そんな激励に似た憤激に者どものは躍起になって果敢に攻める。
「ふふ、どんな戦場であっても、どれだけ怒りを覚えているとしても、わたくしの美しさは変わらないわ! さあ! わたくしたちの美しさでひれ伏させるわよ!」
「「「「「はい! シリベスお嬢様!」」」」」
オホホと甲高い乙女声を上げて、シリベス部隊は優雅に魔術をぶっ放す。
煉獄の如く焔がアーチを描き燦爛豪華な炎渦が氷体を一掃する。歌姫の恩恵など必要なく、その圧倒的火力と結束力が戦場を美で照らし出す。
「絢爛な焔を背景に舞うわたくし。ふふ、美しすぎますわ!」
己の美しさに酔いしれるシリベスにトマト総司令官の死への悲壮など当になかった。彼女を満たすのは己の美しさのみ。そんなシリベスを更に美しくせんと、侍女たちがアートを描くように魔術で背景を装飾していき。
「いきますよシリベス様。はい、ビューティフル」
カシャ! 記録係の侍女のシャッターが切られシリベスの美麗な一枚が切り取られた。
そんな意味もわからないシリベスの戦場と正反対にコートンたちは淡々とパンテオンを駆除していく。
「皆、確実に仕留める。我を忘れないように」
「「「「「御意」」」」」
数人で連繋を組み、近距離を得意とする部隊員たちは互いをフォローしながら着実に殺す。どこか機械的であり、けれど非常に低燃費で効率的な戦術だ。戦術としては三人一組。二人が近接してパンテオンを仕留め、残り一人が遠距離からの攻撃を魔術や盾などで防ぐ。
セルリアの心歌術の強化をうまく使い斬撃を繰り出す。
「シリベスは相変わらず。それにあっちも」
そう、淡泊でどこかうんざりと眼を向ける先で。
「みんな頭の中が水なんだけど。スポンジとどっちの方が頭悪いのかな?」
「知るかッ! オラオラオラ! 俺様の炎で死んじまえッ!」
「…………殴る」
「アハハハ! リースせんぱーい。ミンチの方が頭悪いと思いますよ」
「そうなの? でも私、ミンチ好きだかたらやっぱり違うと思う。うん、脳みそスポンジでも水でも頭悪そうだね。まーどっちもいいや。戦うのは楽しいし、どんどんやっちゃうね」
「きゃー! 純粋なリース先輩萌えです! 萌え萌えですぅー!」
このイカれた、狂った、バカバカな、おかしい…………そう言わずしてなんと言うか、と言わずにはいられないそんなイカれた戦場がそこにはあった。
これには部隊長のラベットも辟易だ。
「なんで僕の部隊はこんなバカばっかりなんだ……なんなんだ? あいつらは戦闘民族かなんかなのか?」
「そういう人たちが集められた部隊なんだから仕方ないでしょ」
「……セルリアもだよ」
「失礼ね。彼らよりずっと私のほうが美しくいわよ」
「知るか」
相も変わらぬ頭のネジが抜けている変人たちだと再確認させれた一場面であった。
一応は部隊長のラベットの指示に従いながらも、大変諧謔なこと。
強い奴との戦いを望むリースに眼をギンギンに戦うドルマ・ゲドン。打って変わってカルテルタルは平静だが、その拳はパンテオンを死ぬまで殴り続けている狂気の沙汰。そんな変人たちを「萌え—」などとほざいて応援しているシャフティーと来た。彼女に関しては戦ってすらいない、というか幻想で翻弄しているだけだ。
だが、彼らの得物はパンテオンを蹂躙していく。どの他部隊よりも迅速に破壊的にパンテオンを処理していく。この様にはパンテオン自身がドン引きを通り越して逃げ出そうとするほどであった。
そして、そんな彼らに嫌気が差す理由はもう一つ。
「僕の部隊にトマト総司令官を悼む奴はいないのか?」
解はいないだろう。コートンやシリベスが率いる部隊員たちも含め変わり種が多い十一部隊に、他の騎士たちみたくトマト総司令官の死に嘆き憤る憎悪する者は少ない。それらの感情を武器に邁進することもない。
上に立つシリベスとコートンがあれなので、下も似たり寄ったりだ。
しかし、その結果、いつも通りのパフォーマンスが発揮されていた。皮肉なことであるが、ミスのない戦いは非常に効率的で安心的であった。
数時間後にはパンテオンとの交戦が落ち着いた。
「ふぅーセルリア先輩。やっと終わりましたね。アタシ疲れちゃいましたよ」
「幻想体が何言ってるのよ」
「てへ!」
そんな緩やかな終戦近い東南東戦線にとある事件の詳細が届けられた。
それはマザラン将官による声明であり、民衆の悲しみに焚きつける扇動的な語りであった。
多くがどよめき聖女をマリネットたちを恨む声が罵声となって戦場に反響する。
そして、その眼は必然と言えようか、異端者の双子と友のような関係であったセルリアへと集められた。さすがの言い掛かりの視線に苦笑が禁じ得ない。
「セルリア先輩。すっごくいやらしい目で見られてますよ」
「仕方ないわよ。私超絶美人だもの」
「わぁーこの状況でその返しができる先輩は流石ですね。その強さ萌えです」
「ええ、あなたも大概よ」
とは言え、どうしたものかと苦悩するセルリア。そんな彼女の心情など推し量る器も暇もなく、派遣された憲兵がシャフティーを押し出し突然にセルリアを囲い込んだ。
それが何を意味するのか、賢しい彼女はマザランの声明と紐づかせて理解してしまう。
その一方で。
「なにあれ? あの子何かしたの?」
「さーな」
「…………」
「もー痛いじゃないですか! 乙女の肌に傷がついたらどうしてくれるんですか!」
異端者の四名の言動にラベットは呆れずにはいられない。
彼は溜め息を吐きながら一応部隊長としてセルリアを囲い込む憲兵一人の肩を掴む。
「これはなんだ? そいつが何かしたのか?」
肩を掴まれた憲兵は振り返り、まるでこちらに正義があると言わんばかりの眼光を向けた。また、その声も自信で溢れている。
「これはマザラン総司令官からの命令である」
「いつ、マザラン将官が総司令官になった?」
「貴様はマザラン様の声明を聴いていなかったのか? マザラン様こそ我ら軍を率い民草を救う次期総司令官に相応しいのは自明の理であろう」
マザランの声明に一切の疑いも持たない姿勢に、さすがのラベットも「妄執者め」と毒づく。
「マザラン様からの命だ。異端者と深い関わりのあるセルリア・メモル。トマト総司令官殺害の容疑者であるマリネット二等兵、ヘリオ二等兵とも協力関係にあると疑い、其を容疑者として捕縛する」
それは予見していたことだ。マザランの声明が流れた後に他の部隊員たちがセルリアに疑心暗鬼の眼を寄越したことで証明は十分だろう。
ラベットも「やはりか」と苦々しい顔を浮かべセルリアに視線を寄越した。
セルリアははあーと大きくため息を一度吐き。
「嫌だと言ったら?」
そう、魔術を練り上げほんの少し脅す体勢を見せつけたが。
「武力行使の許可も下りている。貴様の行動次第で貴様と関わりのある者たちがどうなるか。貴様は知りたいか」
本当の恐喝の前に意味はなさなかった。これにはさすがのセルリアも折れるしかない。
「最初から私の選択肢なんてないわけね」
「悔やみたければ犯罪者たちを怒れ」
「はいはい……ほら」
セルリアは諦めた風に手を差し出す、返答していた憲兵が得物を降ろしセルリアの手に手錠をかけた。皆がセルリアが捕縛される一連を様々な感情に見つめる中、セルリアの視線はただ一点。
「…………」
「…………」
彼女の視線を受け取ったラベットは瞬きを意思的に行い、セルリアはウインクした。
「ほら、いくぞ。とっとと歩け」
「はいはい。尖塔には吊るさないでよね」
「貴様次第だ」
連れられていくセルリアを見つめながら、ラベットは舌打ちをした。
「あの馬鹿」
こうして布石を残し、されどその身は軍によって捕らえられ、最強の歌姫は戦場から追放されたのだった。
ありがとうございました。
次話で第二章前編は終わりです。本一冊分くらの文量ですね。
感想などあればどうぞ気軽にお願いします。
では、次の更新は月曜日を予定しています。
それでは。




