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死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第一章 魂の記憶と風の息吹
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第一章7話 ラータス鉱洞

青海夜海です。

冒険の始まりです。

 

 洞窟内を照らす鉱石、宝石の類を見て人は星空のようだと表現した。

 壁に埋まる数十種類の輝く石が月の光が届かない洞窟内で唯一の光源だ。鉱物たちが燭光(しょっこう)のように光を放っていなければ奈落紛いの闇に支配されていただろう。人は闇に弱く、闇は獣を育てる。より凶悪に狂暴に狂気的に。

 前方後方壁一面の鉱石がある限り洞窟は人の侵入を許し、生体は鉱物の光に由来する。

「ラータスの鉱洞」とはそういう所。神が許した闇の晴れた夜空の奈落だ。



『オクトゲート』に飛び込み霧に包まれた冒険者三名は、霧を抜けると同時に足が地面についていた。頭上を仰げば霧が立ち込める穴が開通しており、その霧に触れれば同じ現象で天場(てんじょう)に行けるのだろう。

 ルナはただただに呆気にとられ、同時に見渡す限りの輝きの闇に言葉を失った。


「ようこそルナ! ここが『ラータスの鉱洞』。またの名を『星空の奈落』へ」

「『星空の奈落』?」


 まるでその名こそがこの洞窟を適切に言い表しているような神秘と不吉が漂って感じられた。よく響くリヴの声に反応するように鉱石が一層強く輝いた気がする。


「さあレッツゴー! 冒険の始まりだー!」

「静かにしろ。喰われるぞ」

「た、食べられるの⁉」


 慌てて口を押えるルナ。リヴは「大丈夫大丈夫」と呑気に歩き出す。


「はぁー……音に敏感な奴もいる。声には常に気をつけとけ」

「パンテオンって私たちを食べるの?」

「俺らが家畜を喰うのと一緒だ」

「ひぃえええ……」


 想像しただけでも身震いする。

 先頭を歩くリヴに続いてルナが。その隣に寄り添うようにアディルが歩く。


 やはりその洞窟は見ている分には危険など一切なく綺麗の一言。拍子抜けと同時にその神秘性に目は奪われため息すら漏れそうだ。


「あ、目当てのもの発見。ちょっと待ってて」


 歩いていると唐突にリヴが壁に近づき、腰の黒い刃先のナイフを取り出して壁に突き立てた。赤黒い鉱石を採掘(さいくつ)し始める。


「その石はなに?」

鉄礬柘榴石(アルマンディン)。火薬の石で爆弾を作るのに必要なの」

「それって錬金術でだよね? そのナイフもそうなの?」

「その通り。これはオブシディアンっていう(やいば)によく使われる鉱石にエナメル彩石とアラーニェの糸で作ったナイフ。絶対に刃こぼれしなくて耐熱性や毒の腐蝕にも耐えられるんだ。ま、やわらかいものじゃ切れなくて斬るよりは砕くに近いかな。あ、やってみる?」


 三つほど取り終わったリヴが振り返りルナにナイフを手渡す。戸惑うルナの手に無理矢理握らせて「ほらほらやってみよー」と背中を押した。


「ど、どうやるの?」

「ナイフを逆手に持って刃先が下になるように。そうそう。で、鉱石と壁との間に亀裂があるからそこに角度をつけて振り下ろす。最初は突く感じでやってみよー」

「亀裂に角度をつけて突く感じに……えい!」


 浅く振りかぶったナイフは亀裂の僅か外を突き、微かな亀裂に比例してルナの腕が痺れたのだった。


「うっぅぅううううう~~っ!」


 痺れを必死に耐えるルナは可愛らしいが、同時に不器用なのかとリヴとアディルは感想を得た。


「むっ。つ、次こそやってみせるから!」


 意地になって再び狙いを定めて、先より至近距離から振り下ろした。それは見事に亀裂を突く。ツンツン。ツンツンツンツン。


「……あのー、そんな弱く突いてたら朝になるんだけど……」

「……」


 ルナは羞恥で顔を染め無言でナイフを返すのであった。


 その後、いくつかの鉱石を採掘しながら進んでいるとスパークする音が前方から耳に到り、それは姿を現す。

 まるで蝙蝠(コウモリ)のような姿の背中に透明な球体のようなものをつけた掌ほどの生物。その蝙蝠は黄色に光る鉱石に張り付き小さな口で齧り始めた。


「蝙蝠……だよね?」

「ライトバット。電想天石(エルバナイト)っつー電気を生み出す鉱石を喰って背中の電球を灯す蝙蝠だ。普段は暗がりに生息してやがる。迂闊に触ると感電するから気をつけろ」

「感電⁉ 気をつけないと」


 しかし、リヴはルナと対象的に杖を取り出し狙いを定めるように。


「リヴ? 何してるの?」

「そんなの決まってるじゃん。捕まえるの」


 その言葉に混乱するルナだがアディルが「ま、見とけ」とルナの肩に手を置く。


「あ、セクハラだ! ルナに色目使ってるー」

「オマエのクソ頭は花畑か。ルナ(オマエ)もんな顔すんな」

「ご、ごめんなさい……あ、全然触られても大丈夫ですから」

「顔なのか! 顔が良かったら許されるのか!」

「そ、そんな不純な動機じゃないから!」


 ひとしきり騒いだ所で、リヴはライトバットに狙いを定め、呪文を唱えた。


「【大地の鼓動・その名はノーム・覆いかぶれ】」


 瞬間、突き出した杖に茶色の光が収縮し散乱した。すると、鉱石に張り付いて食事をするライトバットを捕えるように壁の土が濁流のようにせり上がり、ライトバットの全身を包み込んだ。そのまま壁に固定され電球だけが土を被って顔を出している状態に。

 リヴは近づき、ナイフで土の上からライトバットを突き刺し、土を操って開放。ライトバットの全身と電球を切り離しルナとアディルに自慢するように見せつけた。


「電球ゲット! いえぇーい!」

「い、いえーい?」

「こういうことだ」

「こういうことじゃないよ! どういうこと?」


 電球をゲットしたことはまあいい。リヴの部屋にはたくさんの素材があったから電球も錬金術に使うのだとはわかる。ただその電球を採取するための不思議な現象に目をぱちぱちさせるしかない。まるでリヴが土を操ったように見えたのだ。


「実際そうだ。あいつは土のエレメントに神力(ナギ)を注いで干渉し、現象を引き起こした」

「もう少しわかりやすく言ってくれませんでしょうか?」


 リヴが楽しそうにライトバットを討伐しているのを見ながらアディルは剣を抜いた。


「エレメントと神力(ナギ)はわかるか?」

「えっと。エレメントが自然とか作ってるもの? ナギがエレメントに干渉して何かするものだよね?」

「エレメントの解釈はそれでいい。で、ナギだがこれはエネルギーと考えろ」

「エネルギー?」

「ここには火、水、風、土の四大エレメントが満ちていやがる。その四つのどれかにナギっつーエネルギーを与えることでさっきみてーな現象が起こる」


 そう言うとアディルは呪文を唱えた。


「【()けろ焔・その名はサラマンダー・剣に燃えよ】」


 すると変哲もない剣に炎が纏いだし神々しく輝きを放った。


「人によってエレメントの適正が違う。俺は火と風の適正がありやがるから火のエレメントを扱うことができるっつーわけだ」

「すごい……」


 その一言は心からの感激だった。まるで夢を見てるような心地に似ているその不思議は、けれどその熱が現実だと教えてくれる。アディルは炎の剣を横に振ると火球が飛び出し、リヴの合間を抜けて遠くの方に着弾し燃え上がった。


「この現象を俺らは『魔術』って呼んでる」

「ちょっと危ないんだけど。当たりそうだったんだけど」

「……私にもできたりするのかな?」

「訓練すれば誰でもできやがる。ただ、エレメントとナギを感知し、それはうまく扱うのが難しく(つまず)くやつは多い。ま、んなことでパンテオンの襲撃に軍人が足りなさすぎるっつーのが現状だ。んな理由で低能でも簡単に使えるように生み出されたのがこの剣だ」

「ちょっと! 無視しないでよーー!」


 手に持つ剣を掲げて見せる。いたって平凡な片手剣だがよく見ると(つば)の部分に紅と翡翠の宝玉のようなものが嵌まっている。


「この赤と緑が火と風だよね?」

「そうだ。魔術を扱いやすくする戦うための武器、これを『セフィラ』と呼ぶ。オマエも軍に所属すればもらうだろうから一応覚えとけ」

「うん……ありがとうございます」


 わざわざルナのために沢山説明してくれたことにルナは感謝した。

 アディルの口調は怖い。常に怒っているようにも、関心がないようにも感じる。でも彼は優しい。いつだってルナの未来を案じて行動してくれている。記憶のない少女にはたまらなく一人ではないと感じさせた。


「無視しないでー! 無視するなら先に行くから! 置いていっちゃうから!」

「あいつは餓鬼すぎる……」

「あはは。でも、裏表のないリヴは素敵だなーって思うよ」

「……ま、賢者と愚者は紙一重っつーしな」

「どう紙一重なんですか?」

「経験か感情かだろ」


 もしも、あなたは賢者ですかと聞かれれば間違いなくアディルもリヴもこう答えるだろ。

 冒険者という愚者だと。死に逝く者をどう暴いてもそれは愚か者でしかない。


 三人は歩き出す。月光石(セレス)、クロム宝灯の粉末、振動虫石(フォノンエルツ)燧石(すいせき)翡翠輝石(ヒスイジェイド)、クォーツ、柘榴石。夜光草、毒吸いキノコ、イワナシの実。

 アディルとリヴがルナをサポートしながら順調に採取をしていく。これらの植物た鉱物たちはリヴの錬金術に大きな役割を与える。依頼されていた品なども含めて採取しているとアディルがいち早くそれに察知し、叫んだ。


「視線を落せ!」

「え? なんで?」

「いいから!」


 アディルの圧に意味もわからなく地面に視線を落としたルナ。

 それは誰も視界には入らない。いや、入れてはならない生命体。

 その生命体を言い表すのは『魚』で事足るだろう。しかし、魚と表現すれど忌避(きひ)する姿でもあり『怪魚』の方が適切だ。

 真っ白な眼玉に顔から一メルほどのケープを被ったように衣を纏い、ケープの内側、鱗と皮膚は内臓を透かしている。水のない洞窟内を浮遊する全長五十セルチほどの異形生物(パンテオン)


「ブラインドスケープだ。絶対に目を合わせるな」

「うわー……欲しいけど嫌な奴だー」

「眼を合わせるとどうなるの?」

「あの魚と眼が合うと魂が入れ替わる。オマエの精神が奴の身体に入り込み永遠の闇に閉ざされる」

「ひぃっ」

「次いでに本来の身体は廃人になるよ。で、その身体が死んだら魂が元に戻る。ホント、質の悪い魚だよねー」

「なにそれ! 怖すぎるよ!」


 ルナは確かに異質を感じ取った。そんな危険な生物がいるこの世界にはっきりとした畏怖を抱いた。だが、ルナの感じる異質とはこの世界の常識、普遍でしかない。それを立証するかのようにルナの頬を優しい風が吹き抜ける。背後に視線を向ければアディルが剣を持って風を操作していた。風のエレメントに神力(ナギ)で干渉することで発現する現象……『魔術』が踊るのだ。


 アディルが操る風がただただに浮遊するしかできない魚の場所と大きさを探る。瞬間に魚はこそばゆそうに身を(よじ)った。超絶敏感なブラインドスケープはたとえ失明していても視界以外のあらゆる感覚が化け物染みているのだ。

 風より感じ取った人間の気配。ブラインドスケープはその真っ白な眼で人間を確かに見つめた。……見つめたが魂を交換することは叶わなかった。


「リヴ!」


 アディルがブラインドスケープの意識と視線を自分に集めた瞬間にリヴは動き出す。浮遊するブラインドスケープより身体を低く地面を駆けて回り込む。顔はあげずに地面に伸びる影で場所を把握しながら。回り込みに成功するとポーチから取り出した布で「てりゃー」と捕獲した。

 まず顔は覆い隠し全体を包み込む。バタバタするブラインドスケープに欠片サイズの電想天石(エルバナイト)を皮膚にねじ込む。電想天石(エルバナイト)をナイフで突くと電流が漏れ出しブラインドスケープを感電させた。死亡には到らない電圧により動きを封じ見事生きたまま捕獲に成功したのだった。


「もういいよ」


 顔を上げると布で包まれたブラインドスケープをリヴが抱きかかえているという状況にルナは開いた口が塞がらない。


「ちゃんと縛っとけよ」

「わかってるよ。ルナみてみて! これが噂によく聞く『悪魔の怪魚』だよ」

「そんな噂初めて聞いたよ! 見ない見ないから!」

「ま、目を合わせたら死ぬもんね」

「殺そうとしないで!」


 リヴは声を上げて笑い、ルナは精神がボロボロとやられていく。


 ここに来て、いや来る前からずっと経験のないことに振り回されて怖い思いをしてばかりだ。これが冒険だと言うのなら、そしてまだ序章だとするのなら、ルナには耐えられそうにない。この世界の常識を知らないルナには慣れる行為すら大変であろう。


「一度、休憩するか。あの十字路まで行くぞ」

「ルナ、もう少しだからガンバ」

「うぅうう。頑張るぅ」


 リヴの手を掴んでアディルを先頭に十字路まで懸命に歩いたルナだった。




ありがとうございました。

感想やレビュー等よろしければお願いします。

また、明日です。

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