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死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第一章 魂の記憶と風の息吹
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第一章47話 『クルル海湖』

青海夜海です。

久しぶり?の戦闘です。ここからバトルが続くかと思います。


『クルル海湖』含むその周辺の湿地帯は環境通り水属性が強く表面化している。湿地、沼地、湖、激流の川など。第一層において唯一の水源こそ『クルル海湖』だ。して、【エリア】に生息するパンテオンは環境に適応して進化する生命体である。故に水辺に住まうパンテオンも例に違わない。


『ャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!』


 五メル以上はある首長の四足獣が池から顔を覗かせ噛みつかんと襲い掛かって来た。水中からの襲撃をいち早く察したアディルが「下がれ」と叫ぶ。リヴの目の前で地面に激突した首長のパンテオン、エラスモドラコは首を鞭のように振るい追撃する。


「げっ」


 気を抜いていたリヴが容易く吹き飛ばされた。


「リヴっ!」

「こんぐらいへっちゃら!」


 周囲の水を操り樹木に激突する寸前に水球に飛び込む形で制止することに成功。水圧と弾発を利用して弾丸のように帰ってくる。


「仕返しだぁああ!」


 勢いのままエラスモドラコに蹴りをかます。ドヤ顔のリヴに呆れながらアディルがその首を斬り落とした。


「リヴうしろ!」

「はいはい。今度はなにかなー?」


 着地して振り向けば、十メートルに及ぶ大きな翼を両対に持ち、前方(くちばし)のような形状をした、その口は針のような刃を並ばせリヴの頭を砕かんと迫り。


「はぁあ!」


 風の斬撃が鼓翼竜(こよくりゅう)をノックバックさせる。奇声を上げ翼を羽ばたかせる鼓翼竜に「逃がさない」とアイレは頭上に回り追撃。風魔を纏う槍の一撃が背から地面へ貫き叩き落とす。


「ルナ!」

「わ、わかった!」


 精神を整えナギとエレメントを感じ取り想像を強く歌を歌う。

 心歌術(エルリート)によってぞろぞろと集まってきたパンテオンたちが苦痛に沈む。その隙を見逃さないアディルとアイレではない。

 水中から顔をだすエラスモドラコを再び挟撃。首半ばから切り落ち激しく墳血。水面が赤く淀んでいくのを申し訳なく思いながら駆け出す。


「水中を押さえろ」

「りょーかい! 【ノームよ・岩壁となり沈め】」


 無数の水面から無限に湧いて出るパンテオンを阻止するべく、水面を覆う岩壁を形成し落とし込む。激しい水飛沫を上げながら岩壁は隙間を与えることなく沈み蓋をする。


「ありがとうリヴさん。後は僕らに任せて」


 豪語逞しく風の乱舞が放射されるスパイダーイールの糸を切り裂く。ウナギの身体に十二の脚と蜘蛛の口を持つスパイダーイールは即席で防御膜を張り槍撃を喰止める。アラクネと同じく一筋縄ではかない糸の防壁だ。何重にも重ねがけされた糸は元の耐久性も相まって並みの斬撃では刃が立たない。加え、スパイダーイールの糸の特性、水を絡め捕る糸は無数の水玉を形成し糸を弾いて撃つ。集塊した水弾が(つぶて)となりアイレを襲う。その速さはヌエの雷撃にも劣らない。


「やるね」


 すぐさま後退して回避に専念する。三百を超える水弾を走りながら捌く。その上でスパイダーイールを観察する。スパイダーイールの糸は水という液状はもちろん、空気中の蒸気や水滴、水のエレメントに反応して自ら生成も可能だ。それらの水のすべてを絡め捕り水滴どうしがくっつく性質を利用して水の弾丸へ昇華させる。あらゆる水のエレメントに依存するので時間差はあれ生成に限界はない。第一次の砲撃が終われば間奏はなく続けて第二次砲撃が発砲。六のスパイダーイールの合計千発の水弾がアイレを穿つ。

 卓越(たくえつ)した身のこなしとすべての回避を可能にさせる風術が隙間など見えない千の水弾を見事に回避してみせる。続けての第三次四次も回避と風防御。が、これではジリ貧もいいところ。無限生成が可能な水弾相手に長期戦は下手も下手。突破口は一つだった。


「けど、僕をあまり舐めないでね」


 第四次砲撃の終わりと第五次砲撃の僅かな合い間。その刹那にアイレは空高く跳躍した。そして、水弾はスパイダーイールの頭上へ跳んだアイレを追いかけることができない。


「その糸の向きじゃ真ん前しか砲撃できないからね」


 スパイダーイールの水弾砲撃は確かに脅威だ。しかし、設置した糸罠の真正面と反対方面にしか砲撃ができない。つまり、砲撃できない方面が必ずできるのだ。六つすべてがアイレを狙う形で真正面を向いてたため、真上への対処はできない。慌てて糸を縫い直すが遅い。


「【悠久の颶風よ・逆風となりて降れ】」


 大きく構えた槍を放つ。旋風纏う逆風の一撃はスパイダーイール一体も残さずに風撃の一切に吹き飛ばされた。



 鼓翼竜(こよくりゅう)の飛翔攻撃がアディルに迫る。時速百キロルを越える俊足を往なすのは容易ではない。風の恩恵を得てようやく対抗できる速度だ。その個体が四匹とくれば一瞬の気も抜けない。

 四匹の鼓翼竜の前方嘴が貫かんと肉迫する。名のないセフィラの剣で往なし、大きく跳躍して場所を移る。着地する隙も与えぬと針の牙とアディルの振るう剣が交差する。時速百キロルの瞬撃の威力は体勢の悪いアディルを容易に吹き飛ばした。体勢を整えさせる隙を与えないつもりか三匹の連続突貫が襲来する。風の膜で防壁を張り致命傷を除くように対処する。速度の落ちない鼓翼竜の飛翔撃に比例して威力も落ちない。それ以上に上昇する次第だ。加え鼓翼竜の特性として水を浴びることで体力回復の能力を持つ。またこちらも長期戦が不利な展開となっていた。


「クソが。その歯がウゼーんだよ!」

『ァァァアアアアアアアアアア!』


 斬撃と飛翔撃。刃と歯が衝突する。凄まじい銀音を響かせアディルは声を上げて押し返した。ようやく一匹目の動きを抑え瞬殺範囲内に収めその時、右手上から二匹目が突貫。


「クソがっ!」


 ギリギリで瞬殺し、僅かばかりにできた隙に乗じて離脱する。背後を通り抜けていく二匹の猛禽(もうきん)の眼は殺意が(たぎ)って恐ろしきこと。ようやく地面に足を着いたアディルは真上から迫る三匹目をギリギリに回避し、大地に衝突したその首を斬り落とす。怒り狂った二匹が同時に前後から攻める。ギリギリまで寄せ付け。


「【シルフよ・爆ぜろ】!」


 衝突する瞬間、地面に突き刺したセフィラより大地へ風魔が放たれ大きく砂を巻き上げた。視界を奪われた鼓翼竜はそのまま突き進み、右手の鼓翼竜が左手の鼓翼竜の喉を突き破ったのだ。血飛沫を上げ倒れる鼓翼竜の首に嘴が突き刺さったままの生き残りは巻き沿いを喰らって体勢を崩す。


「っつーわけで死ね」


 その声はどこから聞こえたか。目下に出現した穴よりこちらを射抜くアディルに最後の鼓翼竜の視界はシャッドダウンした。



 戦士職であるアディルとアイレがほとんどのパンテオンを相手取ってくれているが、【エリア】はそのような不平等を許さない。故にリヴが突き落とした岩壁を突き破って水面から這い出てきた獣は正しくリヴとルナを敵と定めた。


「なんでこっち見てるの! カブト鬼とか最悪なんだけど!」

「カブト鬼?」


 一端、心歌術(エルリート)を止めたルナにリヴが頷きながらセフィラの杖を構える。


「カブト鬼ってのは、吸血して強くなるパンテオンのこと。吸血鬼(ヴァンパイア)の亜種って感じ。血を吸って強くなるし傷も治るし素材としては優秀だけど正直アディルに押し付けたい」

「アディルさんは頑張ってるんだから私たちも頑張らないとだよ」

「……まーそうなんだけど……あたしって弱いじゃん」

「そうなの?」

「そうそう。弱っちーの。ルナだって弱いでしょ。歌うことしかできないじゃん」

「それは……」

「あたしも魔術は普通だし、近接戦闘も普通だしねー。あたしは天才美少女錬金術師だけど、それ以外は普通なんだー。まあビジュアルは天才的だけど。だからほんと、アディルに押し付けたいんだけど……そうも言ってられないみたいだからね!」


 シャァーと声を上げて駆け出すカブト鬼。顔と背中を甲羅で覆い茶色の外殻が鱗のように守る全身。二足歩行の奴の手は柄のない剣。長い尾が鞭のように器用に動く。


「ルナは足止めをお願い! あたしがトドメを刺すから!」

「わ、わかった!」


 一度深呼吸をして再び心歌術(エルリート)を発動させる。精神解離に加えて現在ルナが唯一使えるエレメントは土。セルリアに教わったことを思い出しながらナギに干渉させる。しっかりと眼を開いて狙いを定め力を解き放つ。


「~~~~~っ」


 地面を突き破って襲来したのは植物の根。樹根が路を阻み枝や蔦がカブト鬼を絡め捕る。合計三体のカブト鬼を封じてみせたルナにリヴは「ひぅールナかっこいい」と茶化す。因みに口笛が初めて吹けたと喜んだリヴがそこにいた。という余談は良いとして。


「じゃあ、いきまーす!」


 開幕の初撃は爆弾だ。「ほい」と放り投げた爆弾か三体のカブト鬼の中心に滑り込んで。


「……」

「……」


 爆発しない。どういうことだ。身構えていたカブト鬼ですら困惑している。五秒と経っても爆発しない爆弾。


「爆発しないよ?」

「待って。きっとあとちょっとでするから」


 冷汗一杯に縋るリヴだが、(つい)ぞ爆発しない。呆気に取られ歌うのを止めてしまった故に弱まった植物の拘束がいとも簡単に破壊された。


「私の魔術が!」


『シャァァァァーー!』


 無様だと笑うように獣声を迸るカブト鬼。ルナが慌てて歌い直そうと、ふとリヴをみて、その唇が不敵に吊り上がっていた。

 瞬間、カブト鬼三体が不自然に膝をついた。その身体は毒々しい紫色に変色していき苦しそうに呼吸を繰り返す。何が起こったのかまったくわからないカブト鬼とルナにリヴが哄笑(こうしょう)した。


「あははははははは! ちちち。あまりこの天才美少女錬金術師リヴ様を侮らないことね。ふふ、あたしの才能が恐ろしいいわ!」

「リヴ、何がどうなってるの?」

「あれツッコまないの?」


 ごほんと咳払いしたリヴは事の説明を始める。


「つまりね。さっき投げたのは爆弾じゃないわけ」

「じゃあ全部演技だったの?」

「うん? まさか目に見えないまま発動するなんて思ってなかった。てへ」

「それ間違ったら私たちもあっち側だよね!」


 可愛らしく「ごめんちょい」とウインクに舌ペロリ。アディルが遠くで「ウゼー」と言っている声が聴こえた気がした。


「『ラータスの鉱洞』で見たと思うよ。スカルコックローチ。腐蝕(ふしょく)させる病原菌をばら撒く気持ち悪いパンテオン、その毒を使って作った疑似領域。半径二メルの円形において腐蝕の呪いをかけるってね。それがさっきの爆弾の正体ね」

「じゃあ、あそこは」

「そういうこと。ドクドクだよ。ドクドク」


 スカルコックローチの腐蝕毒を媒体に作り出した半径二メルにおける腐蝕浸食の領域展開。それがリヴが用いた戦法の正体だ。


「カブト鬼の外殻はすべての魔術を通さない。あとは認識阻害とかもあるけど。物理的ならルナの植物みたいに少しの効果はあるけどそれだけで倒せるほどあの外核は柔くない。あたしもルナも物理戦闘は弱弱(よわよわ)だからね。発動原は魔術だけど実態は毒で攻撃ってわけ」


 いつもふざけているリヴだが、やはりいざという時には頼りになる。弱者故の知恵を絞り戦術を考え最適解を導き出して行動する。弱者故の知略戦は軒並み冒険者どもの度肝を抜くこと間違いなし。


「ま、あたしは天才美少女錬金術師リヴ様だからこんなのちょちょいのちょいだよー。あははそんな褒めなくていいって。えーどうしても褒めたいなら仕方ないなー。もっと褒めてくれてもいいよ」

「私何も言ってないよ」


 調子に乗らなければもっといいのだが。リヴが解説してくれている内にカブト鬼は腐蝕毒に汚染され身動きとらなくなった。開幕の緊張感はどこへやら。蓋を開ければ呆気ない決着である。


「さてさて素材採取しないとね」


 この能天気さには救われることも多いが、果たしてこの緊張感の無さは良いのだろうか。ルナはその無邪気さに不安の奥から沸々と怒りを感じ取った。むろん、ルナがリヴに怒りを抱く道理などない。それは一種の癇癪(かんしゃく)に近い。だからすっと呑み込む。この怒りの有無はきっとこの世界の住人からして呆れるものだろう。

 やはり、ルナにとって人の死とは重く冷たく悲しく痛いものだ。その心はこの先もきっと死者の呪いに呪われたみたく晴れることはなく陰雲立ち込める。

 だから、人の死に無頓着、寛容(かんよう)する姿がどうしても納得できない。そんな気はないとわかっていても、信じていても、どうしても無邪気なリヴに苛立ちを覚えてならない。それが浅ましい八つ当たりだと理解しているからなおのこと(わずら)わしい。

 そんなルナの心境など人知らず。


「……これってどうやって解除するんだっけ? ……あれれ?」


 などと毒の領域の解除方法を組み入れることを忘れていたリヴは「やぁあああ! せっかく作ったのに! 頑張ったのに! あたしの素材ぃいいい!」と喚く。


「っち。うるせーな。こっちは終わったぞ」

「僕の方もあらかた片付いたよ。で、どうしたの?」

「どうもしねーよ。……ほら、さっさと素材集めて先を進むぞ」

「うぐっ。ぐすぐす。……カブト鬼、絶対に許さない。バカアホめんたいこ」

「それはオマエの頭だ」

「…………」


 ずっと何かが変だ。昨日の盗賊との戦いからずっと変だ。

 助けてくれた仲間にこんな嫌な気持ちを抱くなんてあまりにも酷く醜い。どうすればこの気持ちを消すことができるのか。どうすればちゃんとこの世界の人間として、『ルナ』として在れるのか。


「おい。どうした?」


 ルナに視線を投げるアディルに口走りそうになった。


 ――あなたも人を殺して何も思わないのですか、と。


「――。ううん。なんでもないよ」

「……」


 背を向けるアディル。今はその背に無垢な憧れは抱けなかった。


ありがとうございました。

感想、いいね、レビュー等などよろしければお願いします。

カブト鬼、私的にはお気に入りのパンテオンなんですけど、すぐに死んじゃって性能を見せられなかったので、いつかカブト鬼のカッコよさを見せれたらと思います。

次の更新は明後日です。

よろしくお願いします。それでは。

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