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死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第一章 魂の記憶と風の息吹
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第一章40話 仙娥の獣たち

青海夜海です。

パンテオンを考えて、その素材や特性でどんな錬金物を作るか考えるのが楽しい今日この頃です。

 

 三人はヌエの解体を終え、リヴの無限収納のウエストポーチに収納された。


「あとは落雷草と風魔草がほしいかな」

「そこら辺にあるだろ」

「手伝ってくれないわけ?」

「オマエもちょっとはやれよ。調子乗ってばっかならもう一発蹴っ飛ばすぞ」

「はいはーい。わかりましたよーだ。アイレくんそういうことだから手伝って」

「僕完全に下僕みたいに扱われてるんだけど。協力はするけど、ちゃんと仲間に入れてね」

「はいはーい。わかりましたよーだ。あっちね」

「適当すぎるんだけど。……それと、そんな暇はないみたいだね」

「え?」


 アイレの見上げた視線の先をアディルとリヴ、遅れてやってきたルナが続く。


『ドォ。ドォウドォウドォウドォウ』

『ドドドドォウドォウ』

『ドゥドゥドォウ』

『ドドドドドドドドドドドン!』


「うっせー」


 黙れと空中に浮かぶパンテオンたち目掛けて風撃が走る。敵発見と更に姦しく『ドドド』と鳴き始めた。


「ちょっとうるさくなったんだけど」

「うっせーな。どっちにしろ一緒だろ」

「めっちゃ怒ってるじゃん! アディルのバカアホめんたいこ」

「めんたいこ言うな」


 とにもかくにもヌエを討伐し終え一息も虚しく、戦闘音につられてやってきたであろう土人形のパンテオンが四体、アディルたちを見下ろしていた。


元素の土偶(ヴィレンドルフ)だね。属性によるけどあまり好きじゃないかな僕は」


 もう一つやって来た姦しい嬌声の集団にウンザリする。


「こっちはハルピュイアだ。飛んでるからめんどくせーんだよな」

「同感」


 来た道よりやって来たヴィレンドルフは土人形の姿で空を飛行し、二つの小さな眼と胸にはそれぞれエレメント四色の内のどれかの色をした宝玉が嵌まっている。その宝玉の色、つまりエレメントの色に適切な魔術を発動する。それがヴィレンドルフの能力だ。

 反対側、遅れて上空に広がって阻んできたのがハルピュイア。猛禽(もうきん)の類であり鳥の身体のその頭が女の顔であるパンテオン。つむじ風を起こし、獲物を捕えては上空から突き落として殺す性質を持つ。女の顔から出る鳴き声は女のすすり泣きに似ており、誘惑する効果がある。


 総勢十の軍団が人間に牙を向ける。


「俺はクソ鳥をやる!」

「なら、僕はヴィレンドルフだね」

「オッケー。あたしは逃げていい?」

「投げつけるぞ」

「冗談冗談だって! サポート! サポートするから!」


 自分が何が得意でどうすることが戦場で役に立つのか。彼らは既に解を出し終えている。ルナに視線がいく。おまえはどうする……そう問われ、後退しそうになった胸が軋み。頭の中で今の自分の名前を呼ぶ。


(ルナ……私はルナだから、がんばらないと!)


 踏み出した一歩は確かにここに足跡を刻む。


「私は歌います!」


 それしかできないけど、それでも全力でできることをするから。


「好きにしろ」

「了解」

「二人とも頑張ってね」

「オマエも仕事しやがれ」

「うん!」


 そして、アディルとアイレは駆け出す。それを見送ってすぐにルナは精神を整え心歌術(エルリート)の準備へと入る。


 大きくしならせる翼が突風を引き起こす。岩すら砕き千切るだろう突風に真向から切りつける。大地を蹴って跳躍したアディルの一閃が突風を切り壊しハルピュイアへ迫撃。風の刃を剣で捌きハルピュイアの首へ斬撃を振るう。しかし、暴風の壁がそれを防ぎ、力任せにアディルを吹き飛ばす。重力に押しつぶされるような衝撃で岩壁に迫り、炎を爆ぜさせ離脱。吹き飛ぶ後方の岩壁。その岩壁に沿うように駆け、ぐっと踏み込み鋭角に再び突貫。女のけたたましい鳴き声を飾り付けするように風刃が八方から襲う。風刃目掛けて均衡する力量を込めて剣を振り下ろす。四方へと均等に弾ける力場に乗って風撃の領域外の上へと逃げた。

 次には足下をハルピュイアの風刃が流れていく。


 アディルは風を脚に纏って空中を飛び回り、ハルピュイアの背後へ回る。容赦なく斬首。緑の墳血が艶やかに舞った。

 一体のハルピュイアを殺すのにかかった時間はおよそ二十秒未満。残り十三匹。アディルを囲い込むように翼をはためかせ風魔を貯め続ける美醜の獣。


「今日はオマエらが墜落しろ」


 一斉放射。四方八方、十三の美醜鳥(ハルピュイア)が風魔を放つ。それは全方位から押し寄せる炎波のようで、アディルを呑み込み竜巻(たつまき)を作り出した。天へ上る風の柱は万物を巻き込んでは木っ端微塵に砕き潰し天へと還す。柔い人の肉や骨など造作もない。

 それが決着で、作戦通りだった。はずなのに。


「言ったはずだ。俺がオマエらを殺すって」


 どうにも反響して聞こえた殺人声明。既に忘れ去った人間の声は確かに竜巻の中心より伝染して響き渡り、(いぶか)しもうが眼にしたものが真実となる。

 膨大な風を一人の少年が扱う一つの魔術によって制御された真実が語られる。

 掲げる剣に纏うはハルピュイアたちの風魔。唖然とする他ない光景に、困惑する美醜鳥(ハルピュイア)たちに今一度アディルが告げる。


「【シルフよ・風槍となり美醜の罪を奈落へ穿ち降せ】」


 風集いし剣を己の周りに振り払う。展開する十三の風の槍。


「死ね」


 その一言をトリガーに風槍が疾く駆けた。

 大気を裂いて吹き抜けた槍はハルピュイアが反応する暇も与えずに胸を大きく貫いた。その光景はまるで、天使を降す悪魔が如き。天より十三の翼が地上へと落ちて行く光景は神話の『天使失墜(エクリプス)(カルマ)』のよう。


「ツッチー。捕まえて」


 ツッチーと名付けたリヴお手製の土人形が落ちてきたハルピュイアを回収していく。


「ふふ。ハルピュイアゲット! この羽で新しい|錬金物(アルケミス)を。ふふふ」


 と気持ち悪い笑みを浮かべるリヴがそこにおり、アディルは深いため息を吐くのだった。





 同じくもう一つの戦場も数分と待たずに決着がついた。


『ドォウドォウドォウ』

『ドドドドォウ』

『ドォオオオオオオオウウウウウ』

『ドドド』

「ドウドウ、さすがにうるさいよ」


 リヴに使いパシリにされても、文句いいながらもこなしてくれる心優しいアイレだが、彼を囲い込むように『ドドド』と鳴かれるのだからさすがに耳がうんざりしてくる。


 赤宝玉が胸で光り出す。元素の土偶(ヴィレンドルフ)は宝石の目の前に方陣を展開。赤宝玉、火のエレメントがナギに干渉して魔術が発動する。炎の息吹が跳躍したアイレの足場を焼け焦がす。アイレへすかさず強風が押し寄せ宙での身動きを封じてくる。三体目の水のヴィレンドルフが真上から『ドドドドォウ』と滝のように水魔術で押し寄せる。猛烈な瀑布の圧に脆弱な人は抗う術なく押し流され地面に叩きつけられた。逃亡の余地を与えず土のヴィレンドルフが能力を発動させる。大地が穿った。男の背ほどの土棘が創造されたのだ。アイレを瀑布で叩きつけた大地一帯を針地獄に変えたのだ。その魔術、一等兵と同じ素質を持ち三等騎士程度の魔術であれば貫通したことだろう。

 四属性による連携に加え標準を越えた高い魔術精度が魔術師だろうが剣士だろうが錬金術師だろうが容易く殺す。見て分かった通り、ヴィレンドルフは多彩だ。現象を生み出す中で人と同じだけの知恵を持ち数多の戦術で向かってくる。

 対して、風魔術の厄介な点は対象の攻撃力を減少させることと空中で行使できる空中戦が可能な点だ。威力点で議論すれば炎や土に比べ殺傷能力は低い。

 風魔術の土俵となる空中戦に持ち込まぬと地上に叩きつけ、範囲攻撃に置いて火や土、水と違って足元へ攻撃が難しい弱点を突いた足下からの土棘の串刺し。

 ヴィレンドルフの本当に恐ろしい所はその工程を同種同士で協力して成し遂げる所である。

 容赦のない土棘がヴィレンドルフの周囲に創造され、トドメだと言わんばかりに宙より穿たれた。今なお瀑布に押さえつけられた身体は逃れまい。足下の棘を回避したとしても今度はない。

 勝利を確信したヴィレンドルフたちに、それはささやかなる歌声となって生を手繰り寄せた。


「~~~~っ」


 その歌声はいつから流れていたかわからない。二つの戦場での激しい風撃が歌を掻き消し、本来の力は両パンテオンには到らなかった。しかし、魔術として少女の意志は現象を願われる。展開された結果が頭上より投擲された土棘を阻んだのだ。それは予想外の横槍。しかし、風使いが生きていることは確証された。ならば容赦なく魔術を叩き込むだけ。


『ドォウドォウドォウドォウ!』

『ドドド』

『ドォオオオオオオオウウウウウ!』


 火と水と土が一斉攻撃。自慢の魔術をこれでもかと披露する。炎の息吹が空気を奪い、押し潰さん瀑布が更に重く鋭くのしかかり、土棘が無限地獄を体験させる。

 三体の全力投球は結界を簡単に破壊し、大地を大きく爆ぜさせた。

 砂埃舞うその地に生きるものはいないだろう。死体すら残らないと確信するヴィレンドルフたち。そこでふと喪失感のようなものを感じとり、土のヴィレンドルフは振り返った。


『……ドォウ?』


 その光景を容易く理解することは叶わなかった。火のヴィレンドルフが死んだように落ちていく光景を。

 唐突なできごとに慌てて水の方に振り向き、しかし結果は同じ。水のヴィレンドルフも死んだように身動きとらずに落ちて行く。

 なにがどうなっている? 新手の敵か? そう疑い警戒する土のヴィレンドルフにそんな声が答えを教えてくれた。


「土と僕ってそんなにわからないのかな?」


 背後、土のヴィレンドルフは反射的に土壁を形成して阻んだ。が、風撃がいとも簡単に破壊する。そこにいたのは紛れもなく己らがいたぶり殺したはずの風使いの人間だった。

 その人間は少しだけ困ったように。


「僕じゃないって気づかれなかったら嫌だな」


 そう、宙に浮くそいつは頬をかくのだ。傷一つない姿にどうして生きていると、『ドォウドォウドォウ!』と鳴くヴィレンドルフ。

 彼はそれはねーと気楽に。


「リヴさんが僕そっくりの土人形を作ってくれたんだ。お陰で僕は無傷だよ」


 どこで? あの時だ。瀑布に覆われ外からアイレの姿が確認できなくなった時だ。土人形は瀑布が地面に直撃する寸前に作られたのだろう。アイレは派手な激突に乗じて風を使い離脱。土人形の人影が今だに瀑布の中にいることを錯覚させた。

 ヴィレンドルフは危険だ危険だと狼狽(うろた)え、『ドォウドォウドォウ!』ともう一人の風のヴィレンドルフを呼ぶ。しかし。


「残りは君だけ」


 それが事実で。それが現実で。それが最後だった。


 本能に従って魔術を発動させるが、風の瞬殺は手も足も息すらも間に合わず胸の宝玉が盗り抜かれた。エレメントに反応するそれぞれの宝玉で生きるヴィレンドルフはその宝玉を失うことで活動停止し、文字通り動かない死体となった。

 ただの土偶に堕ちたヴィレンドルフは真下でリヴが見事キャッチしてみせる。


「アイレくん、ナイス! アディルより役に立つかも」

「やっぱり僕のこと下僕とかに思ってない?」

「思ってない思ってないって。無茶ぶりしてもいいように動いてくれて、でも仲間じゃないから心が痛まないとか思ってないから」

「もう本音漏れてるって。めっちゃ笑顔だし」

「ふふ、かわいいでしょ。特別にキスくらいし」

「あ、僕好きな人がいるんでごめんなさい」


 笑顔で「ふぇ?」と固まったリヴを置いてアイレはルナの下へと歩いていく。一人取り残されたリヴは思ったのだ。


「なんでこんなに惨めな思いしてるんだろ……」


 告白していないのにフラれたリヴは傷心したのだった。


「とにかく戻ろ」


 フラれたことはなかったことにして、リヴは三人の所に戻る。


「オマエ……素材拾いばっかしてやがっただろ」

「素材は鮮度が重要なんですぅー。傷ついてると性能が下がるから無傷の方がいいの」


 錬金術師にそう言われれば黙るしかない。そも、アディルとルナの装備のほとんどがリヴが錬成したものだ。様々な効果が付与されている。魔術精度を高める効果や、耐久目でもそうだ。生死の傍らをリヴが掴んでいるのと同じ。


「二人の命預かってるわけだし、錬金術にはこだわってるつもり」


 そこには確かなる信頼があった。そして、アディルからの信頼もまたそこにある。だからこそリヴは生半可なものを作るわけにはいかない。


「素材はオッケー。できれば落雷草がもう少しほしいかな」


 ギルタブリルの時に見せた心弱い部分も知っている。それでも、リヴはいつだって弱さを見せない。陽気なアディルの妹で居続けている。そこにあるものこそが一種のリヴの覚悟なのだろう。


「…………」

「君は強いんだね」


 何も言えないルナに変わってアイレがそう褒める。リヴは眼を細めて。


「当り前じゃん。だってあたし天才美少女錬金術師リヴちゃんだからね!」


 そう、(ほが)らかな笑みを浮かべ決めポーズをするのだ。

 彼女はいつだって日常を壊さない。笑みを絶やさない。道化を演じる。


「……時間はまだあるな。もう少し奥にいくか」

「いこいこレッツゴー! あたしが最強の錬金物(アルケミス)作るから頑張って素材集めてね」

「オマエも集めろや」


 そう兄妹肩を並べて歩いていく姿に、やはりルナは疎外感を覚えそれがどうしようもなく嫌悪感を与えた。アイレがルナの肩にぽんと手を置き。


「君は覚悟を決めたんだろ」

「…………」

「なら、君は頑張るべきだよ。恥じたくない、負けたくない、死にたくない、死なせたくないなら。君は応えないといけない」


 なにに? 言葉にならない問に彼は背を向け。


「どうしたら幸せか、運命に応えないとだよ」


ありがとうございました。

感想、いいね、レビュー等などよろしくお願いします。

それではまた二日後に。

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