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死贈りの歌姫(旧タイトル:死に急ぐ冒険者は踊り歌って愛叫ぶ)  作者: 青海夜海
第二章 星蘭と存続の足跡
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第二章68話 夢を歩く

青海夜海です。

よろしくです。

 

 改めて今いる現状を見渡す。


「ここは……私がいた第二層じゃないんだよね?」


 その証拠に吹雪いていた花吹雪(フィンブルム)は一切なく、土の地面とその野には様々な花で広がっている。まさに花畑、花園と相応しい景色だろう。そしてなによりルナの眼を奪ったものがある。

 それこそが前方数百メル先で聳える荘厳な宮殿の大樹の傘とそれを囲む城壁。


「ここは、約千三百年前。天黎歴(てんれいれき)四〇七二年の第二層『花舞の旧庭園』。かつて『無名の花園(エフェティア)』と呼ばれていた、わたしたち花舞人(フローラス)が栄えていた時代」


『エフェティア』とソフィアが呼んだ千三百年前の第二層を眼を細め見つめながら語る。


「そして今見えている神殿国がティアナ姫国。七百年近い歳月をかけて進化したわたしたちフローラスが築き上げた最初の国で、わたしたちの最後の国」


 ソフィアは悲し気に告げた。


「この時代でわたしたちは終わりを迎えたの」


 どうして? そう軽々しく聴けない雰囲気があった。憂いと後悔に沈み、寂しさや痛みにうずめる、同時に儚くも幸せを思い出す、過去を想起するソフィアの表情はなんとも言えないもので、ルナは口を挟むことができずそっと耳を傾ける。

 そんな気遣いに気づいたのか、「何か聞きたいことはある?」と問いかけられた。

 ルナは迷う間もなく質問する。


「じゃあ、ここは過去ってことなの?」


 夢に転移させられたと思えば今度は過去。既に感覚が麻痺しているルナであっても緊張感を伴ってしまう。しかし、ソフィアは「ううん」と首を横に振った。


「ここは夢の延長線。わたしたちに見えてるティアナ姫国も『エフェティア』も全部幻想だよ」

「夢? もしかして見てる人がいなかったら夢の中の私が本物になるっていうやつ?」


 それはルナとソフィアが恐らくここに来る羽目になった原因でソフィアを樹木に封じ込めた首謀者ルリア・ムーナが語っていたことだ。


 ——現実と夢、その二つの世界に存在しているのさ

 ——存在の確定は他者に認識されて初めて確定するのさ。

 ——実態そのものを認識されなければその世界の存在を確定できない。

 ——つまり、この夢幻でボクがキミを認識しているからキミはここに存在している。

 ——対して現実のキミは誰にも認識されていない状態にある。

 ——つまり存在が確定されていないのさ。

 そして、認識が固定された方が真実ともに実態となり、存在が許されると。


「ここは明確に言えば幻想と追憶が混在してできた世界——夢幻(イルジオン)。現実世界からひと時の間だけ隔絶して異界と化した夢のことを差すの。夢幻の世界は夢が覚める、つまり現実に帰還することでその世界はなかったことになる。でも、夢幻は幻想と追憶で出来てるから人の記憶やその人が触れている物なんかは残るけど、ここは過去の投影が実態化した夢だから、ルナがここで生きてもいずれ現実に戻ることになる。その時に夢幻は消滅するから現実との齟齬がなくなるってこと」

「えっと、つまり夢幻っていう別の世界に来ちゃったってことでいいの?」

「その解釈でいいよ。厳密に言えばルナの言った認識の存在が正しいんだけど、それはルナの意識、ちゃんと言ったら魂だけど、その意識がどちらに強く反応してるかが重要」

「生きてる人には魂が必要だから?」

「そう。ここにいるルナは強く意識を持ってる。それは魂の大半が今のルナに宿ってるから。対して現実のルナには魂の影響が少なくなってる。透明人間みたいな感じだから誰かに起こされるってことはないと思う」


 事実を言えばこの現実と夢幻において二固体になっている時の魂の原理に説明はついていない。ソフィアの説明にほとんどの間違いはなく、その際の己の存在証明は魂の宿る肉体とされているし、夢幻の世界が永続した事例もなくいつかは現実と融合して溶けて消えてしまう。場合によれば夢のように記憶にない者もいれば、しっかりと覚えている者もいる。これが幻想譚の起源でもあるのだ。


「ちなみに、夢は意識の中の世界で、夢幻は世界の中に意識があるだからね」


 つまるところ夢のように曖昧ではなく、ましてや思うようにはならないということだろう。


「大体はわかったよ。じゃあ、夢幻ってどうしてできるの? 話しを聞く限り元からある世界じゃないんだよね?」


 ソフィアは「歩きながら話そう」とティアナ姫国を指差す。ルナは頷き二人一緒に歩き出す。


「夢幻は幻想と追憶が交わってできた世界。まずは記憶として残るくらいの出来事や文明があること。次に夢に出るくらいに強い思いがその世界に宿っていること」

「強い想い?」

「後悔とか願いとかだね。強烈な思いと後世まで残るような記録が夢幻を作り出すの。それは強い想いが持つ未練が晴れるまで、何度もできては消えてを繰り返す。きっと夢幻の周期も考えられてたんだと思う」

「それって、私がソフィアに助けられてこうなることがわかってたってこと⁉」

「そこまではわからない。でも、わたしたちを確実に殺そうとしてるのは確かだよ」


 どうして? と訊ねるルナにソフィアは一度口を閉ざし立ち止まる。凄みの感じる雰囲気とルナを見つめる強固な眼差しにビクリと肩を揺らしながらルナも立ち止まった。

 沈黙が時を凍り付かせるみたいに。静かな時間は唾棄される吐息を持って終わりを告げる。だが、その眼には迷いと苦みがあり、思わずルナが質問を引っ込めようとして。


「化け物がいるからだよ」


 ソフィアははっきりとそう言い。


「その化け物が一晩でティアナ姫国を滅ぼしたの」


 憤怒と哀しみに濡れた声音は告げる。


「わたしたちフローラスを炎に海に沈めた」

「…………」


 ルナは何も言えず、慮る思考も動かず、その強烈な眼差しに見据えられ吸い込まれ——ただ、呆然と口が言葉を発し。


「どうし————」


 瞬間、ルナの背後を何かが通り過ぎた。その気配に「ひぃっ」と絞った悲鳴を上げ振り返るが。


「あれ? 今なにか通らなかった?」


 確かに気配がしたのに、背後には誰もいない。


「も、もしかして——ゆ、幽霊⁉」


 今度はソフィアに抱き着くように身を寄せ身震いを起こす。その姿には意外でソフィアは眼を丸くした。


「戦場は平気なのに幽霊はダメなの?」

「だ、だって! さ、触れないんだよ! 私から何もできないんだよ! 普通に怖いよ!」

「パンテオンとあんまり変わらない気がするけど……」


 そもそも幽霊……死者の魂の残滓が思念を凝縮して成した存在だが、別段死者との邂逅など物語においてありきたりなものだ。それこそ幻想譚にはその手の話しは多く、人間の文化を学ぶソフィアにはルナの幽霊への反応は意外の他にないだろう。

 ルナの中で幽霊がどんなに怖い存在に置き換わっているのか知らないが、怖がる姿は可愛らしく微笑ましく思える半面、抱きしめる力が徐々に強くなってきた。


「る、ルナ……だ、大丈夫だから! ゆ、幽霊じゃないから、いったん離れて……」

「ほ、ほんと?」

「ほんとほんと。だからね。一端離れて」

「あ、ごめんなさい」


 力強くソフィアに抱き着いていることに気づき、直ぐさま離れるルナ。だが依然として肩が触れるほどに距離は近く周囲をキョロキョロとしている。

 やっとの解放にソフィアが息を吐いている間に、ルナの眼に映る『エフェティア』の情景に変化が訪れ始めた。その変化はささやかなもので、まるで白い花が茎を伸ばし花開く過程を再現したみたく、目先一帯だけがソフィアが眠る樹木で見た白い花で溢れていた。

 そして、そんな花園の中に一人の少女が現れる。その姿には覚えがあり、ルナは悲鳴を上げるより先に瞠目した。そして隣で佇むソフィアを観察するように見つめて。


「あの人って……ソフィア?」


 白い花の花園で白花を愛でる美しい女性。それは今と姿が一切変わらないどこからどう見てもソフィアだった。


「…………」

「ソフィアだよね?」


 しかし、当人は肯定の意を示さないばかりか、問いかけるルナから顔を背ける。

 ルナが改めてソフィアの顔を覗き込み。


「ソフィアだよね?」

「…………」


 ぷいっとまた顔を背けられた。何が何でも肯定したくないみたいだ。ならばなんとしてでも頷かせたい意欲がルナの中で沸き上がり、背けたソフィアに回り込み。


「ソフィアだよね?」

「……っ! ぷい」

「あ! ソフィアだよね!」

「し、知らない! ぷい」

「絶対にソフィアだよね!」

「ち、違うって! ひ、人違い! 花違い!」

「花違いって初めて聞いたよ! やっぱり怪しいからソフィアだよね!」

「そ、そんなわけないじゃん! ぷい」

「いやいやどう見てもソフィアだよ! 瓜二つだよ! 首筋と耳裏の花の位置も一緒だよ!」

「ぷいぷい」

「可愛いけど、無理があるよ! ほら、はやく認めて楽になっちゃおう」

「……まあ、フローラスはみんな一緒の遺伝子だしー。その、きっとわたしにそっくりだけどわたしじゃない!」

「強情だ!」


 なにが何でも認めたくないらしく、ぜいぜいと息を切らす二人の戦いはルナが折れることによって終戦した。

 そうこうしているうちに突如現れたソフィアが動き出す。


『これでよし。これだけ仕掛けたら十分かな』


 一歩退いたフローラスの視線の先には、白い蘭の花で作られた三メル円形の花畑が作られていた。様々な花が集う『エフェティア』には一種一色の集いは逆に目立つ。が、どうやら敢えてそうしているようだ。


「この頃は『エフェティア』にもパンテオンが出現するようになったの。これは罠。パンテオンが好む甘い果実を忍ばせていて、ここにパンテオンが踏み込むと花嵐でパンテオンを倒すようにしてる」

「復活した」


 千三百年前には既にパンテオンがいたらしく、フローラスはそれらの対策にこうして罠をそこら中に仕掛けているだそうだ。

 ソフィアと呼ぶとややこしいので、フローラスとして——彼女は仕事を終え神殿の方、当時の情景により大きな集落と思えるものの方へと歩き出す。


「付いて行くよ」

「う、うん」


 ソフィアの指示に頷きルナもフローラスの背を追う。追いながらルナはソフィアに訊ねる。


「今って過去を体験してるでいいのかな?」

「夢幻は幻想と追憶でできてるって言ったでしょ。これはあの子の記憶」

「私たちには気づいてないみたいだけど……接触はできないの?」

「基本はできない。もしも何らかの因果で会話したり手を貸せたりしたら、それが幻想。だからって過去が変わることはないよ」

「じゃあ、記憶を追いかけることに何か意味ってあるの?」

「…………」


 そう訊ねるとソフィアは口を閉ざした。何か気に障ることだっただろうかと口籠ってしまったルナ。しかし、ソフィアの瞳は口を挟めない真剣みを帯びており、漂う空気を探っていると急にフローラスが走り出した。何事かとルナは追いかける。

 そして、追いついた先でフローラスは腰を下ろしそこに倒れている一人の少年に声をかけていた。


『あなた大丈夫! 返事して!』


 切羽詰まった声音。フローラスはすぐに意識のない少年の胸に手を当てる。するとその手から黄色を含んだ白い光が淡く発光し、連ねるように白い蘭の花が咲き誇る。それは少年を囲むように包むように蕾から花開き、やがて粒子となって散っていく。


「治癒魔術……」


 ルナが扱う治癒魔術とは少し違うが、同じ傾向の魔術だと察することができた。フローラスは少年の治療を始めたのだ。


『これで傷は治ったはず。体力も回復したはずだから、目を覚ますはずなんだけど……』


 心配気なフローラスに応えるように、少年は口に呻きを零し重そうな瞼をゆっくりと開けていった。焦点の合わない覚束ない視界と意識に覗き込むようにフローラスが声をかける。


『あなた大丈夫! 起き上がれる?』

『うぅっ……大丈夫だ。起き上がれる』


 少年はフローラスの手を借りることなく身体を起こすと、身体の軽さに驚いたのか目を微かに大きくフローラスを見つめた。フローラスは見つめられたことで緊張したのかドキっと少し身体を反らし『な、なに?』と訝しむ。


『君が僕を助けてくれたのか?』

『た、倒れていたあなたを見つけたから、その……治療しただけだけど』


 なぜか助けた方が警戒している構図だが、少年はそんなフローラスにお構いなく銀の眼で凝視する。身を(よじ)り後退る。そんな見つめ合いが数秒と続き、困惑と警戒に空気をゴクリと音を立てて呑み込むフローラスに白の髪に黒の数束が混じった髪の少年はやっとその口を開く。


『その身体の花に皮膚の根っ子の跡……もしかして、君はフローラスか?』

『そうだけど……あなたは誰? どうして、人間のあなたがここにいるの?』


 その少年はルナから見ても同じ人間に見えた。フローラスのように特融な身体的特徴はこれと言って見当たらず、髪が黒いのだってノアルがいる。

 そんな人間はこう答えた。


『もう次期、君たちの下に災厄がやって来る』

『災厄?』

「災厄?」


 思ってもいなかった言葉に思わずルナとフローラスの声が重なる。そうだ、と頷いた彼は真言の言霊とし世界に解き放つ。


『僕はその災厄を止めるために星からやって来た『星の民』だ』

『星の民?』


 困惑するフローラスの無防備な手が少年に握られ、ドキリと肩を揺らす。鼻息が触れそうなほどの至近距離から見つめる『星の民』は言うのだ。


『どうか、僕に力を貸してくれ』


 そこで彼らの姿は掻き消え、元の情景に戻っていった。

 思わずドキドキしてしまったルナは突然の打ち切り、先延ばしに。


「え? えぇえええええええええええ⁉ すごく気になる終わり方なんだけど⁉」


 と悲鳴に近い声を上げた。すかさず後からゆっくりと近寄ってくれるソフィアに振り返り。


「なんで⁉ すごく気になるところで終わっちゃったんだけど!」

「夢幻の力が弱まってるんだと思う」


 と、どこか淡泊な応答に、しかしルナの気になります好奇心が止まらない。


「ソフィア! それでこの後どうなったの?」

「……集落に向かえばわかると思うから」

「今気になるの!」

「ご、強情なルナ……はあーそうね、先に言っといたほうがいいかも」


 先ほどフローラスと『星の民』がいた場所を見つめながら語り出す。


「罠を張っていたあの日、わたしは『星の民』と名乗るソルと出逢った。ソルはね、この『エフェティア』に災厄が訪れると教えてくれて、それを倒すためにわたしの前に現れたの」

「災厄……」


 災厄と聞いてルナが思い浮かべるのは当然『十一の獣』たち。【永劫未来の獣】ギルタブリルや【翠星の獣】クルールだ。

 先のソルという少年の深刻な表情からして、恐らく二つの災厄と遜色ない危険を指差すのだろう。


「わたしたちは初めての来客だったし、ソルもすごーく真剣で嘘をついてるように見えなかったから受け入れることにした」


 なるほど、とこの後の展開を予測しながらルナは一度頷き。


「私が気になったのはそこじゃなくて」

「違うの⁉」


 軽く驚くソフィアにルナはなんだか心恥ずかし気に上目遣いで問いかけた。


「その……ソフィアはソルさんのこと好きなの?」

「…………はい?」


 その問いを誰が予想できたことか。もちろんソフィアが予想できるはずもなく、仰天にまん丸と眼を大きく開いた姿はとても幼く、瞬きをするばかりで動かなくなってしまった。

 そんなソフィアに気づかずにルナは。


「だ、だって! ソルさんに話しかけられたソフィアすごく驚いてたし、それに手を握られた時だって。なんだかこっちまでドキドキしちゃったよ。あの時のソフィアも真っ赤だったし……その、好きになっちゃったのかなーって、気になっちゃって」


 と、一人盛り上がっていく。その姿はリヴのようでもあり(ウザさはないが)、恋に恋するような興味津々の顔はとても可愛らしくあった。

 しかし、ソフィアにそんな感想を抱く余裕などなく、やっとのこと絞り出した一言はそう。


「あれわたしじゃないからね!」


 そんなテンパった一言だった。否定を懸命に叫ぶ姿とその大きな声にびくっと肩を震わしたルナは恐る恐る。


「それ、答えになっちゃってるよ」

「…………っ~~~~~~~~⁉」


 指摘され自覚し急激に頬を熱すソフィア。髪の色や服色が白い分、余計に彼女の頬の赤さが際立ち、果てには耳まで真っ赤にして両手で顔を覆った。


「そ、ソフィア……」

「うぅぅぅぅ~~……そんなんじゃないからね!」

「説得力ないよ!」

「ルナのばか……」


 今度は拗ねた風にふんっとそっぽを向かれどうしたらいいのかわからなくなり、えっとあっと、と口籠るルナは必死に考え抜いた末に励ましの一言として。


「ソフィアなら大丈夫だよ! 可愛くて美人で私の憧れだもん」

「そういうことじゃないのー! ……そう思ってもらうのは良いけど」


 下手くそな励ましをされどっと疲れたとため息を吐き、空を仰ぐ。相も変わらず変わり映えのしない白い空だ。このかた生まれてから雨は降ったことはなく、地下水や湧き水頼りの生活。噂に聞く青空や海というものはどんなものだろうか、そう風に聴く情報がソフィアの心をくすぐるのだ。


「初めてだったの」


 細める眼は空のずっと遥かな彼方に光る星を探すように。


「人間の男の人に会ったのが……初めてだったの」


 視線をルナに戻す。ルナの瞳に映る彼女は憂いと儚さの中に滲むような後悔と青空のような妥協が宿っているように見えた。それは胸を締め付けるような美しさだ。

 ソフィアは言う。


「だからね……今はもう違うの。後悔の方がずっと強いんだ」

「…………」


 そう微笑んだ姿は空元気だろうか。本当にその愛のようなものは残っていないのだろうか。わからない。ただ、求められていないことは確かだった。


「この過去は悲しいもの。ルナの言う通りで、過去をやり直せないならきっと意味はないんだ」

「ソフィア……」

「でもね、わたしたちが生き残るためには必要なの」


 強い言の葉には確信的な思いがあった。この先の変えられない悲劇に彼女たちの運命を覆す鍵があると。

 すると、ソフィアは優し気にルナを見つめ願うように。


「ルナ、わたしを助けてくれるんでしょ。だったら最後まで付いて来てね」


 そこには最後のチャンスが含まれていた。ソフィアからの最後の慈悲だった。

 けれど、ルナの覚悟はとっくに決まっている。それに、今にも消えそうなソフィアを見て引き返すなんてできるわけがない。より頑なに固まった決心は一際強く瞳に宿し、その瞳にソフィアは含みある笑みで頷いた。


「じゃあ、行こうか」

「うん」


 そうして二人は歩き出す。本当の意味でフローラスの地で何が起こったのか知る束の間の旅に。悲劇を見ることになるとわかりながら、たった一つの運命に抗う希望を手に入れに。

 そして——


「それで、ソフィアはソルさんのどんなところが好きだったの?」

「だ、だから! 今はもうす、好きじゃないの!」

「でも好きだったんでしょ?」

「そ、それは……そうだけど……もう関係ないことで」

「やっと認めた」

「……っ⁉ ~~~~っルナのあんぽんたん!」


 そんな少女二人の楽し気な日々が続けばいいのにと、誰かたちは思い続けた。


ありがとうございました。

水曜日更新を目指します。

では。

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