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9.魔王と勇者、同病相憐れむ

「そういうもんかね。魔王殺すのも敵兵殺すのも同じような気がするけどな」


 アキラはポケットに入れてきたパン屑を投げながら言った。アキラの気配を察して近づいてきた黒鳥たちが、我先にと群がる。


「お前、いったいどこの出身なんだよ」


「私は……」


 カイが口にした地名を聞いて、アキラはきょとんとした。


「それって、どこ? 外国」


「言われると思っていた」


 遠い目を池に向けると、カイは何かに耐えるような口調で続けた。


「確かに国境の山深いところにある村なので、こちらの人は知らないだろう。いっそ隣国の方が近いくらいだ」


「お前、国境から来たのか?!」


 この街からは直線では険しい山脈を三つは越えなくてはならないところだ。山中なので海


路もあるわけがないので、この少年は徒歩でその道のりを越えてきたということになる。


「……お前、連れは?」


「村を出たのは私で三人目。二十年ぶりのことだと聞いている」


「じゃあ、一人であの山を越えてきたのかよ……」


 街の背後にそびえるなだらかな山でさえ、アキラは超えたことがない。(というか、麓にまでも言ったことが無い)同じ年の少年の偉業(?)にアキラは目を丸くした。


「よくそんな辺境から俺の情報が手に入ったなぁ……」


 そこそこ人に相手にされていないと思っているアキラにしては、逆にびっくりである。


「たまたま街道で行商人の一団に出会った。そこの劇団の人間が教えてくれた」


「ああそういえばこの間そんな旅芸人がこの間いたなぁ……」


 様々な人種・職種が入り混じれるこの街では、劇団の興行の数も多い。ついこの間までいた劇団が、確か勇者と魔王の英雄譚をやっていたなぁ、とアキラはぼんやりと思い出していた。


 特に劇に興味があるわけではないが彼らが宿屋に泊まっていたことと、アキラの噂を聞きつけた団長兼脚本家がしきりとその話を聞きたがったので記憶に残っていた。


 あれは迷惑だったなぁ……、と興味津々な彼の顔を思い出してげっそりとする。


 何しろその団長は頭から魔王は極悪人だと決め付けていた為、アキラからその片鱗を少しでも感じ取れないかと無理難題をふっかけてきたのだ。一般人のアキラにしてみれば、何故に平和に暮らしてきたのに「人を殺したくならないか」だの「憎悪の塊を人に埋め込んでみたりしたくないか」だの物騒な単語をぶつけられなければならないのかと思った。

 するとなぜかカイもげっそりとした顔で言った。


「情報を聞きたかったのは私なのだが、彼は私を神か天使とでも思っていたのではないのか」


 アキラとは逆に、カイは「聖人君子」たる秘訣などの質問をぶつけられたそうだ。


「随分と根掘り葉掘り私のことを聞かれた。都会の人間はあんなに詮索好きなのかと思ったが、アキラの家の方々はさっぱりしていて助かった」


「ありゃあ、劇のネタにしようとしてがっついてただけだって。それに旅芸人は都会の人とは違う……」


「終いには私に劇団に入らないかと執拗に求められて、正直閉口した」


 憮然と言うカイにアキラは苦笑する。その物腰と装備ならそのまま劇に出られる。団長にしてみれば喉から手が出るほど欲しい逸材だったんだろう。さては宿屋で「私は役者ではない!」と口から泡を飛ばしていたのはこれだったのか。


(確かにあれは嫌かも……)


 白熱した暑苦しい団長の髭面を思い出し、アキラはげっそりとする。しかしそれより何より……。


「運命に縛られた勇者と魔王。その愛と葛藤の日々、とかわけの分からないことを口走っていたと思う。こちらは真面目に魔王を探しているというのに、完全に物見遊山の観劇気分なのだ。流石にあれは……」


「引くよな」


「ああ」


 カイの横に座ってため息をつくアキラ。


「まあ他人にとってはくだらない問題でも、当人にとっては凄く重要なことなんていっぱいあるよな」


「……お前でもそう思うことがあるのか」


「そりゃあ、思うさ」


 アキラがパン屑を投げると池から出てきた黒鳥が群がる。その黒鳥にアキラの背中にしがみついていた黒猫がちょっかいを出す。たちまち静かな公園にけたたましい喧騒が鳴り響いた。


「……やかましいな」


「食べやしないさ。遊んでいるだけで」


「そういう問題なのか」


 黒鳥の群の中に飛び込んでいる黒猫を無感動に眺めるアキラの横顔をしげしげと眺め、カイは慎重に言葉を選んだ。


「動物に好かれるんだな」


「そうかな」


「お前の黒猫は、随分とお前のことが好きなようだ」


「歩くのが面倒なだけじゃないのかな。いつも背中にくっついているし」

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