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8.勇者、語る2

「それっていつの話?」


「……先月、かな」


「あ、じゃ俺とちょうど一カ月違いなんだな」


「……お前の誕生日は今月なのか?」


「ああ」


『同い年かよ』


 と同時に心で呟いた二人だが、その思いは別々だ。


「でもさ、お前。いったいどこに向かって旅立ったわけ? 別にホラ、この世界って確かに戦はしてるけど、魔王とか魔物とかって話聞かないじゃん」


 膝に乗ってきた黒猫を撫で始めたアキラに、カイはがっくりと肩を落とした。


「そうなのだ。実際私の村はかなり山深いところにあって、都会の情報は滅多に入ってこない。そのために世界の情報がなかなか伝わってこないだけだと思っていたのだが……」


「いや、ないから。もともと魔王の情報とか、この世界のどこにもないから。


 どんな田舎でも世界が魔王に侵略されてれば、その情報くらい入るだろ」


「お前は田舎をなめているのか」


 キッ、ときつい視線を向けられ、アキラはひるんだ。


「現国王の即位の知らせさえ、私の村には半年遅れで伝わってきたのだぞ」


「そ、それは遅いな……」


「首都から離れているとはいえ交易の中心、情報交換が盛んな土地に生まれたお前には、この時間差攻撃が実感できんのだ!」


 確かに見るからにカイの容貌・立ち居振る舞いは垢抜けていない。


「こんな都会に住んでいるお前には、ど田舎から出てきた私の気持ちなどわかりはしないのだ! 食べ物ひとつとってもあんなハイカラな物、朝から食べおってからに!」


 なるほど。朝食にあまり手をつけていなかったのは、食べ方がわからなかったらしい。


「悪かったって、そんなに怒るなよ」


 涙さえ浮かべかねないカイの様子に、アキラは慌てて謝罪した。


 同時に盛大に腹の虫が鳴った。中途半端に朝食を食べたせいらしい。それはカイも同様だ


ったようで恥ずかしそうに腹を押さえている。


「はい。ちゃんと朝ごはんは食べましょうね」


 いいタイミングで厨房から出てきたフジが食事の乗った盆をテーブルに置く。


 先ほどのパンとスープを温めなおしたものに果物が追加されていた。


 パンは最初から肉と野菜を挟んで鉄板で圧縮してある。これなら食べ方に迷うこともない。


「……とりあえず食っとくか? 話は全部聞いてやるからさ」


「……ご相伴に預かろう」


 フジの笑顔に押されたというよりは空腹に耐えかねた様子で、二人は暖かい朝食にがっついた。






 朝食を終え「掃除の邪魔」というユキの一言で追い出された二人は、町を歩きながら話を続けていた。


 すっかり日も上り、あたりは賑やかだ。山車飾りを模した髪飾りをつけた少女たちが、賑やかな声をかけながら二人の横をすり抜けていく。


 いちいちカイが店に並ぶ品物に目を奪われるために、遅々として話は進んでいない。


 もとより暇なアキラには時間の規制などないが、やはりそれでも人の都合に合わせなければいけないというのはイライラしてくる。


 特にカイの目を引いたのは貝殻などでつくった食器やアクセサリーが並ぶ露天だった。


 山育ちのカイには貝殻の光沢が実に魅力的に見えるらしい。穴が開くほど見つめているので「そんなに欲しいなら買えば」と言って見たが「冒険の途中で買い集めるものではない」


と無下に却下された。買う気はなくとも見る気はあるらしく、店頭でみかけるたびに引っかかるのでたまらない。何度目かの寄り道をしようとしたカイの襟を引っつかむと、アキラは公園のベンチに座らせた。


 通路からかなり奥まった池沿いにあるこのベンチの周りにはあまり人影がない。


「賑やかだな。祭でもあるのか」


 ベンチに座った後もそわそわと落ち着かないカイにアキラは肩をすくめた。


「知らないのか。遠征に出ていた軍艦が帰って来るんだよ。その出迎えパレードがあるんだ」


「戦、か」


「勇者様は戦には出ないのか」


 何やら難しそうな顔で水面を見つめているカイに、アキラは素朴な疑問を投げかけた。


「鍛えられてきたんだろ。その力を国のために使ったらどうだよ」


「人と人の殺し合いに関わるようなことは、私のすべきことではない」

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